優太
■柿崎初穂視点
「ハハ、やあ」
優太から離れ、人気のないところまでやってくると、まるで見計らっていたかのように優太の元親友のクズ、横山和樹が現れた。
「……あは、何の用?」
「いや、実はさ。チョット君と話したいことがあって」
ふうん……私に話したいこと、かあ……。
といっても、一昨日散々煽ってやったから、どうせ下卑たことでも考えてるんだろうけど。
「何? 私の優太が待ってるから急いでるんだけど?」
「いやいや、それこそ昨日言ったじゃん。アイツは最低な奴で、あんなに自分のことを慕っている幼馴染を平気で捨てたんだって」
「ハア……それこそ私も言ったよね? 『オマエのしたことを知らないと思ってるの?』って」
このクズ……まさか、一昨日と同じことをまた言ってくるなんて思いもよらなかった。
本当に、どういう神経してるんだよ……。
「だーかーらー、幼馴染のひよりがあの情けない優太のことを慕っていて、今も好きだってことは事実なんだからしょうがないだろ? そして、それを承知で優太がこの街を出て行ったのも事実だし」
「いや、当たり前でしょ? なんでそんな、裏切った元幼馴染のクズを優太が相手しなきゃいけないのさ」
やれやれとばかりに肩を竦めながらそんなことをのたまうクズに、私は念を押すようにそう言い放つ。
本当に、自分の都合のいいようにしか話をしないクズだなあ……。
「とにかく、そんな下らない話にも、ましてやクズに付き合うほど私も暇じゃないから。二度と話し掛けてくるな」
そう言い放ち、先へ急ごうとクズの隣を通過しようをした瞬間。
――ガシ。
「……その手、放してよ」
「ハア……さっきから俺のことをクズだなんだと言ってくれちゃってるけどさあ……オマエはそんな俺以下じゃねーか!」
「……どういう意味?」
「ハハハ! 知らねえとでも思ってんのか? オマエ、あの話題になった巨額詐欺事件の犯人の娘なんだろ?」
クズは下卑た笑みを浮かべながら、嬉しそうにそんなことを宣った。
「んで、あの俺とひよりの浮気にも夏休みまで気づかなかった鈍い優太のことだ。どうせそのことだって知らねえんだろ? だったら、そのことを俺がバラしたらどうなるかなあ?」
「…………………………」
あは……このクズ、私を脅してるつもりなのかな?
「……それで? オマエは何が目的なの?」
「分かんねーの? アイツに黙っててほしかったら、ちょっと付き合えよ」
うわあ……コイツ、本当にクズじゃない。
本当に、反吐が出る。
「ハア……ねえクズ」
「っ!?」
溜息の後、自分でも驚くほど低く冷たい声でクズに呼び掛けると、クズは息を飲んだ。
「それ、脅迫だからね? どうなるか分かってるの?」
「……なんだ、何を言うかと思ったらそんなことか。オマエこそ、優太にバラされる意味、分かってんのか? その瞬間、あの潔癖な優太のことだ。絶対オマエ、捨てられちまうぞ?」
ヘラヘラと笑いながら、クズが調子に乗る。
本当に……なんで優太はこんな奴を、親友だなんて思っちゃったんだろ……って。
「あは……仕方ない、か。優太は、優太だもん……」
「あ?」
私の呟きの意味が分からず、クズが変な声を漏らした。
「まあ……クズじゃ理解できないよね。優太は純粋で優しいから……人の悪意に慣れてなくて、だからオマエ達クズに傷つけられて、苦しんだんだ」
「…………………………」
「でも……それでも優太はやっぱり優しくて、こんな私を、受け入れて、救って、支えてくれるんだよ。オマエみたいなクズと違って」
「そ、それがなんだってんだよ!」
あは。コイツ、優太よりも下に見られたからイライラして、声を荒げてるんだけど。
ホント、優太と違って器も小さいし、最低だし、こんな男に身体を許したあの元幼馴染もどうしようもない馬鹿だなあ。
「分からない? そもそも優太はね、私が“犯罪者の娘”だってことを知った上で、一緒にいてくれてるの。だから、別に優太に言ったところでなんの脅しにもならないんだよ」
「…………………………」
「それと、今の会話は全部録音させてもらってるから。これから先一生苦しめ、この犯罪者」
「っ!?」
そう言い放ち、私はクズの手を振り払っ……!?
「……まさか、このまま行かせるわけねえだろッッッ!」
「痛っ!?」
醜悪な面を浮かべ、クズは私の手をねじる。
「ハハハ……知ってるか? ここって、地元の奴でも滅多に人が通らない場所なんだよ。それこそ、“桜祭り”だったとしても」
「…………………………」
ニタア、と口の端を吊り上げるクズを、私は無言で睨みつける。
「つーかさ、オマエといいひよりといい、優太のくせに可愛い女ばっかり付き合ってんじゃねーよ。マジでムカツク」
あは、結局は優太への劣等感でこんな真似するってわけなんだ。
本当に、救えないクズだ。
「当たり前だよ。優太は、私の愛する、世界一素敵な男の子だもん。オマエみたいなクズと違って」
「……いい加減黙れよッッッ!」
とうとうキレたクズが、思い切り右手を振り上げた。
あは……まあ、一発くらいは受ける覚悟はして……っ!?
「あ、あは……っ!」
そうだよね。
君はいつだって、私のことを救ってくれるんだ。
「オマエ……僕の初穂に何をしようとしたッッッ!」
やっぱり優太は……私だけの世界一の優太だ。
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