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桜祭り

「優太、おはよ」


 朝になって目を覚ますと、目の前に僕の顔を見てはにかむ初穂の姿があった。

 ということは、昨日の夜もコッチに入ってきたんだ……。


「うん、おはよう。だけど、こんな床に敷いた布団よりも、僕のベッドで寝たほうが気持ちよく眠れるだろうに」

「そんなことないよ。私は、優太の寝顔を見ながら寝るほうが、断然いいし」

「そ、そう?」


 僕はちょっとそっけなく返事するけど……うん、メッチャ嬉しい。

 それに僕だって、目覚めたら大好きな女性(ひと)がいたら、最高の気分だし。


「はは……アパートに帰ったら、そ、その……二人で寝られる用のベッドでも買う?」

「! う、うん! ……あ、でも、ベッドを買うとなると高いから、一緒の布団で寝られるなら、そのー……それで全然いいよ?」

「う、うん……じゃあ、そのあたりについては帰ってからまた相談することにしようか」


 本当は、ベッドを買いたいところだけど、初穂は家計のことを心配して言ってくれてるんだし、僕がわがままを言って散財するわけにはいかないよね……。


「そ、それじゃ、そろそろ起きようか。今日は“桜祭り”だしね」

「う、うん!」


 僕達は起きて着替え、一階のリビングへと向かった。


 ◇


「二人共、楽しんでらっしゃい!」

「うん」

「はい!」


 母さんに見送られ、僕達は家を出た。


「それで、その“桜祭り”の会場はどこになるの?」

「それはね。駅の改札口の線路を挟んで反対側にある池の(そば)なんだ」

「へー……って、そんな池があるなら、一昨日はお城に行かなくてもその池を散策すればよかったんじゃ……」

「いやいや、こうやって“桜祭り”で行くんだし、先に行ってしまったら楽しみが減っちゃうからね」

「それもそっか」


 そう言って、初穂はからからと笑う。

 で、一昨日和樹の奴と遭遇したコンビニを通り過ぎ、駅前に到着する。


「さて、と。初穂、一応聞いておくけど、“桜祭り”に行く前にお昼ご飯食べていく?」

「まさか! ここはやっぱり露店で買い食いがしたい!」

「はは、だよね!」


 ということで、駅の高架をくぐって反対側へと抜けると。


「うわあああ……!」


 池の周りを彩る六分咲きの桜の木々を見て、初穂は感嘆の声を漏らした。

 うん……僕もこの“桜祭り”には、五年振り、か……。


 その時はまだ僕はひよりと付き合ってなくて、ただ幼馴染同士として来たんだっけ。


「さてさて……それじゃ、佐々木先輩達を探そうか」

「あは……ね、優太。せっかくだし、しばらく二人っきりで祭りを楽しもうよ」


 うん……どうやら初穂は、僕とのお祭りデートをご所望のようだ。


「そうだね。だったらどの露店から攻めようか」

「もちろんたこ焼き! あとは焼きそばとかき氷とー……んふふー、いっぱいあって選べないね!」


 嬉しそうにはにかむ初穂の手を握りながら、まずはたこ焼きを一パック買うと。


「はい優太、アーン」

「う、うん……」


 初穂にずい、と口元に差し出されたたこ焼きを一気にかぶりつく。


「はふはふ……熱っ!」

「あはは! 優太、すごく変な顔!」


 くうう……初穂め。


「なら僕だってお返しだよ!」

「あは! 私はそんな変な顔しないもん! はむ! はふはふ……ホントに熱いね!」

「う、うん……」


 くそう、僕も初穂の変顔を笑ってやろうと思ったのに、ただ可愛いだけだし。

 そろどころか。


 ――ぺろ。


 ……唇を舐める初穂の仕草、すごく色っぽいんだけど……。


「じゃあ次ね! ホラホラ!」

「わ! ちょ!?」


 初穂に腕を引っ張られ、僕達は次々と露店を見て回った。


 ◇


「それにしても……」


 うん、かれこれ一時間くらい露店を回ってるけど、佐々木先輩達と合流する気配がない……。


「先輩達、どうしたんだろう……」

「あは、そうだねー」

「ちょっと電話して……「あああああ!? ま、まだもう少し二人っきりで楽しんでもいいんじゃないかな!?」」


 ポケットからスマホを取り出して電話を掛けようとすると、初穂に慌てて止められてしまった。

 ま、まあ、僕もこのまま二人きりで“桜祭り”を楽しむのは望むところではあるんだけど。


「そ、それより、ちょっとここで待っててくれるかな……」


 初穂が、少し恥ずかしそうにしながらそんなことを言った。


「い、いいけど……どうしたの?」

「そ、そのー……」


 理由を尋ねると、初穂は目を逸らして言い淀む。

 ……僕にも言えないようなことなんだろうか。


「あ……も、もし初穂が困ってるんだったら、僕も一緒について行こうか?」


 そんな言い方をしたけど、本音は違う。

 絶対にあり得ないって、そう理解してるけど、それでも……不安になってしまうのは仕方ない。


 すると。


「も、もう! お、お手洗いに行きたいの! 恥ずかしいんだから、尋ねたりついてきたりしないで!」

「あ……」


 あははー……どうやらそういうことらしい。

 うん……そりゃあんまり言いたくないよねー……。


「ぼ、僕はここで待ってるよ」

「そうして……」


 そして、初穂は少し足早にトイレのあるほうへ向かった。


「ウーン……今度から気をつけよう……」


 人混みに消えた初穂へと視線を向けながら反省していると。


「優くん……」


 ……よりによって、ひよりに声を掛けられてしまった。

お読みいただき、ありがとうございました!


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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
― 新着の感想 ―
[一言] でっかい釣り針が見えますねぇ… たとえ、これ見よがしに餌を垂らされても、食いついた事自体は己の意志ですから、四年前の失敗からちゃんと成長出来ていれば何も怖くないですね(白目)
[一言] 初穂「馬鹿めっ! 性懲りもなくノコノコと…。トラップ発動ッ!!」 かな? これからも頑張ってください! (・∀・)
[良い点] 先輩と武者小路さんが気を利かせて二人っきりにしてあげてたのかな? 初穂がいなくなったとたんにほのかが話しかけてくるなんてずっとストーキングしてたのかな? ほのかも初穂と優太のイチャイチャで…
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