私が、助けてあげる。
■春日ひより視点
「あの女……っ!」
家に帰ってきた私は、部屋に篭り親指の爪を噛む。
全部、あの女……優くんの隣にいた、あの女のせい。
よりによって、優くんもなんであんな女をその隣に置いているの!
あんな奴、優くんには相応しくない!
「アイツ……絶対に、優くんの優しさにつけこんで、甘えて、その隣に居座ってるのよ……!」
あのバスでの光景を……あの、駅から優くんの家までの道のりでの光景を思い浮かべ、私は悔しさでギリ、と歯ぎしりをした。
確かに、私には優くんの隣にいる資格はない。それは分かってる。
でも……だからって、あんな女が優くんの隣にいていいはずがない!
優くんには……優くんには、もっと別の……っ!
その時。
――ピンポーン。
一階で、インターホンが鳴り響いた。
……こんな時間に、一体誰が?
すると。
――コン、コン。
「……ひより、あなたにお客よ」
ドアの向こうから、冷たく告げるママの声。
ハア……こんな私に、お客って一体誰よ……。
顔をしかめながら頭を掻き、私は玄関へ向かうと。
「よう、久しぶり」
そこにいたのは、あの和樹だった。
「……何? なんでアンタなんかが、軽々しく私の家に来てるわけ?」
あの女への苛立ちもあり、私は吐き捨てるようにそう言った。
そもそも、四年前のあの時から、私に近づくなってハッキリ告げたのに、どの面を下げてここに来てるのよ。
この……私から優くんを引き離した、最低のクズが。
「まあまあ、そう言うなよ。それより……優太が帰ってきてるの、知ってるか?」
「…………………………」
なるほど……優くんがこの街に帰ってきたから、それをきっかけに私とよりでも戻したいとでもいう気かな。クズの分際で。
「……それが、どうかしたの?」
「どうかしたのって……オマエだって、優太にあれだけご執心だったんだから、もっと食いつくと思ったんだけどなあ」
そう言って、和樹はヘラヘラと笑いながら肩を竦める。
本当に……あの時の私は、なんでこんな奴に惹かれたんだろう。
「そんなの、アンタに関係ないでしょ? アンタだって、優くんに絡んだところで惨めになるだけなの、分かってないの?」
「は?」
私の指摘がどうやら的を射ていたらしく、和樹は露骨に顔をしかめた。
まあ、この街に帰ってきてるのを知ってるくらいだし、もう接触していても不思議じゃないか。
「あはは。ひょっとして、もう優くんに絡んで恥ずかしい思いしたんだ。ウケル」
「っ! ウ、ウルセエッ!」
図星だからって、いちいち声を荒げられてもしょうがないんだけど。
「ハア……そんなくだらないこと言いに来たの? ホント、時間の無駄なんだけど」
「ま、待てよ! だ、だったらこれは知ってるか? アイツ、女連れで帰ってきてやがるんだぜ!」
「っ!」
和樹が不用意に放った『女連れで帰ってきている』という言葉に、私はつい反応してしまった。
「ん? ハハ、なんだよ! 結局は、ひよりもとっくに絡んでんじゃねーか!」
「……言いたいことはそれだけ?」
何故か嬉しそうに笑う和樹に、私は射殺すような視線を向ける。
「まあまあ聞けよ。それじゃ、その優太が連れてた女も当然見てるんだよな?」
「…………………………」
和樹のせいであの女のことを思い出してしまい、思わず拳を握りしめた。
アイツが……アイツが、優くんをたぶらかして……!
「ハハハ。それでさ、優太の奴がその女のこと『初穂』って言ってやがったから、試しにスマホで検索してみたらよ、何が出てきたと思う?」
そう言うと、和樹は下卑たキモチワル笑みを浮かべた。
「知らないわよ。というか、私の前であの女の話をしないでよ。気分悪い」
「まあそう言うな。で、これが検索結果なんだけどよ」
和樹がスマホの画面を私に見せ……っ!?
「な?」
私の顔を覗き込み、和樹がくつくつと嗤う。
だけど、その画面にはとんでもないことが表示されていて。
「ちょ、ちょっと貸して!」
「うお!?」
和樹からスマホを無理やり奪い、私は画面をスクロールさせて食い入るように読む。
そこには……あの女、“柿崎初穂”のことが書かれていた、しかも、ご丁寧にあの女の画像付きで。
「あ、あはは……!」
なによアイツ! よりによって犯罪者の娘なんじゃん!
しかもここに載ってる事件って、あの詐欺事件だし!
そんな奴が……そんな奴が、私の優くんの隣にいるなんて!
「許さない……っ!」
これでハッキリした。
あの女……柿崎初穂は優くんを利用するために、その隣にいてやがるんだ!
絶対に……許せない!
「ハハ、それでさ。明日って“桜祭り”だろ? あの優太の馬鹿のことだから、絶対にあの女連れて来やがると思うんだよ。だからさ……」
和樹の話に耳を傾け、私は……。
「あはは……アンタ、本当に最低ね」
「ウルセー! だけど、ひよりにとっても悪い話じゃないだろ?」
「……まあ」
いえ……正直、優くんの目を覚ます意味でも、それが一番いいような気がする。
……和樹に協力するような形になるのは、心の底から嫌だけど。
「そういうことで、明日は協力してくれよ?」
「仕方ないわね……」
調子よく笑う和樹に、私は溜息を吐きながら渋々了承したフリをする。
あはは……優くん、あの女の正体を知ったら驚くだろうなあ……。
「んじゃ、頼んだぞ」
和樹はニヤニヤしながら、玄関から出て行った。
「……優くん、待っててね? 私が必ず、優くんを助けてあげるから。そうすれば……」
うん……優くんは、また私に振り向いてくれるはず。
そう思い、私は口の端を吊り上げた。
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