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キス魔

「うわあああ……! すごい風だね!」


 次の日、佐々木先輩の運転する車で海に来た僕達は、海岸から海を眺めていた。


「それにしても……」


 僕は海岸を見回すけど……うん、誰もいない。


「ハハ、当たり前だけど今は海水浴のシーズンじゃないし、しかも今日は平日だからな。仕方ねえって」

「ね、ねえ……ちゃ、ちゃんと美味しいお魚とか、食べられるかな……?」


 佐々木先輩の言葉を聞いて不安になったらしい初穂は、心配そうな表情でおずおずと尋ねる。


「はは、それは大丈夫だよ。別にシーズンとか関係ないし」

「よ、よかったあ……」


 僕の答えを聞いて安心したのか、初穂はホッと胸を撫で下ろした。


「あはは! 初穂ちゃんって、本当に食べるの大好きよね!」

「あう!? そそ、そんなことは……」


 木下先輩に笑われ、初穂が顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

 そんな彼女を見て、によによしている僕がいるわけで。


「……直江くん、顔がキモチワルイわよ」

「武者小路さん、酷くない!?」


 うう……最近ますます、武者小路さんの僕への当たりがきつい気がする……。


「よーし! それじゃ、初穂ちゃんがお待ちかねみたいだから、美味いモン食いに行くとするかー!」

「あう!? ち、違いますから!」


 僕達は移動し、海沿いにある料理屋さんに入る。


「いらっしゃいませー! どうぞこちらへ!」


 店員さんに案内され、僕達は座敷テーブルについた。


「うわあああ……全部美味しそうで、選べないよお……!」


 紺碧(こんぺき)の瞳をキラキラさせ、初穂はメニューを食い入るように見つめる。


「一応俺は運転手だから酒は飲めないけど、みんなは遠慮せずに飲んでも構わないからな」

「お、お酒……」


 初日の夜のことがトラウマになって蘇ってきたのか、初穂は口の端をヒクヒクさせた。


「ね、ねえ……初穂ちゃん、どうかしたの?」

「……実は一昨日の夜、初穂が酔っぱらっちゃいまして……」

「ああー……さすがに彼氏の家で、しかもご両親の前だもんねー……」

「あう!? も、もう言わないで!」

「ムグッ!?」


 初穂に両手で口を塞がれてしまった……。


「ホ、ホラ……一昨日は父さんに結構飲まされちゃったから酔っぱらっちゃったけど、程々なら、その……大丈夫なんじゃないかな……?」

「! そ、そうだよね! 一昨日は初めてのお酒だったから、分からなくて飲み過ぎちゃっただけだよね!」


 我が意を得たりとばかりに、初穂が僕の言葉に飛びついた。

 うん……つまり、飲みたいわけだね。


「よーし! 初穂ちゃん、琴音ちゃん、飲も飲も!」

「「はい!」」

「は、はは……僕は遠慮しときます……」


 ということで、女性陣三人はお酒を飲み、僕と佐々木先輩は食事だけで済ませることになったんだけど……。


「にゅふふ~!」

「グス……初穂先輩のばかあ……!」

「「…………………………」」


 ものの三十分もしないうちに、初穂と武者小路さんは酔っぱらってしまった……。


「あ、あはは……二人がここまで弱いだなんて、思わなかったなー……」


 二人にお酒を勧めた木下先輩が、乾いた笑みを浮かべる。


「ハハハハハ! 超面白えんだけど!」

「光機! 笑いごとじゃないんだからね!」


 うん、木下先輩の言うとおり、これは笑いごとじゃないような気がする。


 だって。


「優太ー優太ー……ねえねえ、キスしよ?」

「ヒドイ! だったら私が初穂先輩とキスします!」

「えへへー、じゃあ琴音、しよ? ちゅ……ちゅぷ……」

「はむ……ちゅく……」


 ……うん。僕達の目の前で、絶賛百合展開なんですけど……。


「おおー……お、女の子同士のキスって、なんかその……いやらしいな……」

「ああモウ! 二人共やめなさい!」

「「あ……もう……」」


 佐々木先輩が二人のキスシーンをまじまじと眺めるけど、見かねた木下先輩が無理やり引き離した。

 でも、武者小路さんはともかく、なんで初穂まで不服そうなんだよ……。


「むー……じゃあ、優太だったら問題ないよね!」

「へ……って!?」


 初穂がいきなり抱きつき、僕を押し倒したかと思うと。


「はむ……ん……ちゅ……」


 うう……初穂に襲われる……。


「優太くんでもダメ!」

「ぷは……えー……じゃあ木下先輩で!」

「キャッ!?」


 そして、矛先はとうとう木下先輩へと移ると。


「ちゅ、ちゅ……ちゅぷ……」

「ふ……ん……っ」


 え、ええと……何というか、その……。


「うおおおお!? 優太見るな! 聞くなあああああ!」

「せ、先輩!?」


 木下先輩が不意に吐息を漏らしたところで、佐々木先輩に目を塞がれてしまった。


「初穂せんぱあい……うわあああああああん……!」


 武者小路さんも泣き出すし……メ、メチャクチャだよ……。


 ◇


「……もう絶対に、二人にはお酒を飲ませないから」

「「…………………………」」


 あれから三時間後、ようやく酔いが醒めた初穂と武者小路さんは、後部座席でシュン、としている。

 うん……絶対に初穂にはお酒を飲ませないぞ。


「ハハ、だけど楽しかったな」

「そ、そうですね……」

「お、優太、初穂ちゃん、着いたぞ」


 家の前に到着し、佐々木先輩が車を停めた。


「んじゃ、明日の“桜祭り”は現地集合な」

「はい。今日はありがとうございました」

「……木下先輩、すいませんでした……」

「……明日はお祭りだからって、飲んじゃダメだからね?」

「もも、もちろんです!」


 木下先輩にジト目で釘を刺され、初穂は慌てて頷く。


「初穂先輩……それでは、明日(・・)

「うん……明日(・・)ね」


 そうして、先輩達を乗せた車は走り去っていった。


「初穂……」

「う、うん……私、お酒やめる……」


 肩を落とす初穂の背中を押しながら、僕達は家の中に入った。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
― 新着の感想 ―
え………流石にこれ夢だったとかそういうオチですよね………? 本当に彼氏以外に唇を自ら許した訳ではないですよね……?
[良い点] 55部分までは非常に良い作品で同系統の作品の中ではトップクラスと思ってました。 [気になる点] 56部分の内容でこの小説全体が崩れたと思います。 [一言] 作者様の作品はストーリーや設定…
[気になる点] で、でたー、百合だったらノーカンだよねっていう謎理論ー
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