キモチワルイ
「んじゃ、明日の朝迎えに行くから。ちゃんと起きてろよー!」
「あはは! 光機じゃあるまいし、優太くんと初穂ちゃんなら大丈夫だから!」
「初穂先輩……と、ついでに直江くん、では」
駅で三人と別れ、僕と初穂も帰路につく。
おっと、そういえば……。
「初穂、母さんからコンビニスイーツ頼まれてたんだっけ?」
「そうそう。なので帰りに寄ってもらってもいいかな?」
「もちろん!」
ということで、朝立ち寄ったコンビニへと向かう……んだけど。
「…………………………」
……なんでその途中で、ひよりが待ち構えてるんだよ。
「あは、暇なの?」
そして、そんなひよりを見て嘲笑を浮かべながら、そんなことを尋ねる初穂。
だけど、あのバスで遭遇してから、かれこれ五時間近く経つけど、その間ずっとここにいた、なんてことはさすがにないよね……?
「ねえ、優くん……お願いします。ほんのちょっとだけでいいから、話をさせてください……!」
そう言うと、ひよりは深々と頭を下げた。
そのせいで表情は見えないけど、どうやら泣いているらしく、ぽた、ぽた、と地面に雫が落ちた。
「……初穂、帰ろう」
「そうだね! あ、でも」
元気に返事したかと思うと、初穂はクルリ、と翻ってひよりの顔を下から覗き込むと。
「ありがとうね、優太を裏切ってくれて。そのおかげで私、すっごく幸せなんだ。それじゃ」
ニコリ、と微笑んでそう告げ、僕の腕にしがみついた。
「あは! 行こ!」
「うん」
そうだね……僕は、ひよりが僕を裏切ってくれたおかげで、こんな世界一素敵な初穂と出逢えたんだ。
そのことについては、初穂の言うとおり感謝しかない。
僕達は、ずっと頭を下げたままのひよりを置き去りにし、その場を去った。
それにしても……。
「ねえ初穂、すごくくだらないこと言ってもいいかな?」
「? どうしたの?」
「いやさ……アイツ、僕と話をしたいって言ってたけど、なんの話がしたいんだろうね? 今さら僕なんかと話をしても、何にもならないと思うんだけど……」
首を傾げながらそう言うと。
「プ……あはは! ホントだね! 私の予想では、『あれは浮気じゃない』だとか『よりを戻したい』とか、そんな都合のいいことばっかり言うつもりだったんじゃないかな?」
「ええー……そんなのあり得ないのに……」
「というか、優太のこと裏切っておいてそんなの虫が良すぎるし、だったら優太がいる東京のあの街にまで追いかければよかったんだ。それすらもしないで、たまたま遭遇したからってそんなこと言い出すんだもん。どうしようもないよね」
ひよりのあまりのお花畑っぷりに肩を落とす僕に、初穂は苦笑しながらポン、ポン、と背中を叩いた。
ハア……本当に、初穂とのギャップがすごすぎる……。
今から考えたら、なんで四年前はそこまでひよりのことが好きだったんだろう……。
「……ねえ、初穂。これから僕達がこの街にいる間、アイツ、絡んでくると思う?」
「……絡んでくるんじゃないかな」
「「だよねー……」」
僕と初穂は、改めて肩を落とした。
◇
「それじゃ、ちょっと買ってくるね」
「うん」
初穂がコンビニに入っていき、僕は夜空を見上げる。
春になったっていっても、やっぱりまだ寒いなあ……。
そんなことを考えながら、初穂を待っているんだけど……。
「……遅いなあ」
コンビニスイーツを買うだけだからすぐ出てくると思ったのに、かれこれ十分近く経っている。
「ちょっと様子を見にいこう……」
自動ドアをくぐって店内に入り、初穂を探すと……っ!?
「……よく考えたほうがいいぜ?」
「…………………………」
ハア……ひよりに続いて、今度は和樹もか……。
溜息を吐きながら、和樹に絡まれている初穂を助けに行こうとすると。
「……(フルフル)」
僕に気づいた初穂がニコリ、と微笑みながら、小さくかぶりを振った。
まるで、『私に任せて』と言わんばかりに。
「……それで? オマエが何を言いたいのか、サッパリ分からないんだけど?」
「だからさー、さっきから言ってるじゃん。あの“直江優太”って男は君が思ってるような奴じゃなくて、本当に最低な奴なんだよ。あんなに好き合ってた幼馴染をアッサリ捨てて、東京に行くような奴なんだぜ?」
「……ふうん?」
一生懸命説得を試みる和樹の言葉に、初穂はちょっとだけ興味が湧いたような素振りを見せた。
というか……はは、僕がひよりを捨てたことになってるし。
「だから、君みたいな可愛い女の子が、あんな最低な奴に騙されてると思うと、放っておけなくてさ。今からでも遅くはないって。アイツはやめておいたほうがいい」
「そっかー……でも、そうすると私、一人になっちゃうな……」
寂しそうな表情を浮かべ、初穂は上目遣いで和樹を見る。
う、うぐう……初穂って、こんな演技するんだ……。
「ハハ、大丈夫! この俺が、君のこと支えるから! だから、さ……」
そう言って、和樹が初穂に触れようと手を伸ばすと。
「プ……あはははは! バーカ!」
「っ!?」
打って変わって、初穂は大笑いしながら和樹を罵った。
「ホント、オマエって最低のクズだね。大体、朝のやり取りがあったのにどうして私がオマエのしたことを知らないと思ってるのさ」
「い、いや……! それは君が優太に騙されて……!」
「ハア……この期に及んで、まだそんなあり得ない嘘吐くんだ。しかも、この私にまで手を出そうとして……キモチワルイ」
初穂は吐き捨てるようにそう言うと、和樹が彼女を睨んだ。
「どうするの? こんなコンビニの店内で私に手を出すつもり? その瞬間、オマエは完全に終わるけど」
「…………………………チッ」
忌々し気に舌打ちをし、和樹は初穂を押し退けようとしたので。
――ドン。
「邪魔だよ」
僕は、後ろから和樹を逆に突き押してやった。
「っ! テメ……ッ!?」
振り返って突っかかろうとしたけど、僕だと気づいて和樹は気まずそうに顔を背けた。
「初穂、早く買い物を済ませて帰ろう」
「うん!」
初穂は僕を見てぱああ、と満面の笑みを浮かべると、頼まれていたコンビニスイーツを手に取って一緒にレジに向かった。
和樹? あのクズなら、そそくさとコンビニを出て行ったよ。
さて……。
「初穂」
「……うん」
コンビニを出て声を掛けると、初穂はシュン、としてうつむく。
僕に叱られることを分かってるからだろう。
「万が一のことだってあるんだから、下手に煽ったりしちゃ駄目だよ? あんな考え無しの嘘を吐くような馬鹿だから、逆上して何するか分からないんだから」
「はい……」
ますます落ち込んでしまった初穂。
本当に、もう……。
――ギュ。
「あ……」
「初穂、君は僕にとって世界一大切な女性なんだ。だから、それだけは分かってほしい。でも……僕のためにアイツに怒ってくれて、ありがとう……」
「ん……優太、大好き……」
「さ、父さんと母さんが待ってるだろうし、早く帰ろう!」
「うん!」
僕達は手を繋ぎながら、足早に帰った。
でも。
「あは……これで準備は整った、かな……?(ボソッ)」
「? 初穂、何か言った?」
「ん? 何も言ってないよ?」
「そ、そっか……」
よく分からないまま、僕は首を傾げた。
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