どちらが上か
「それじゃ、行ってくるよ」
「行ってきます!」
玄関で母さんに見送られ、僕達は家を出た。
佐々木先輩達との待ち合わせは正午だから、家を出るにはちょっと早いんだけどね。
「ねえねえ優太、ちょっとコンビニに寄ってもいい?」
「いいけど……どうしたの?」
「あは、お母様から、コンビニに新作スイーツが出たから買ってきてって頼まれちゃった」
そう言って、初穂がはにかむ。
昨日の夜と今朝のことで、両親と一気に距離が縮まったおかげで、初穂はすごくご機嫌だ。こうやって、気軽におつかいを頼まれるくらいに。
「はは。でも、まだ家を出たばっかりだから、ちょっと早すぎじゃない?」
「もう! 新作スイーツがちゃんとあるか、確認しとかないといけないの! お母様、楽しみにされてるんだから!」
「そ、そっか」
ウーン、怒られてしまった。
でも、こういった初穂も悪くない……いや、むしろいいかも。
「じゃ、すぐ戻るから!」
初穂は嬉しそうにコンビニの中に入っていった。
さて……僕はどうしようか……。
その時。
「ゆ、優太……」
聞き覚えのある男の声に呼びかけられ、ドクン、と僕の心臓が強く打った。
振り返ると……それは、かつて親友だと思っていた、和樹だった。
「…………………………」
僕は和樹を一瞥すると、無言で顔を背けた。
こんな奴と話をすることなんて、何もないから。
だけど、コイツは僕の気持ちなんてお構いなしに僕の前に回り込むと、急に膝を……手をついて土下座した。
「優太! 悪かった!」
いきなりのことで、僕は思わず声を失う。
「四年前のあの時は俺……どうかしてたんだ! 優太とのことでひよりが悩んでて、相談に乗っていたらひよりに誘われて……お、俺はその時、一旦は拒否したんだ! だけど……!」
都合のいい言い訳を次々と並べながら、和樹は地面に額をこすりつける。
はは……何を今さら……。
あの時、オマエは言ったじゃないか。
『つーか、元々俺の誘いにホイホイと乗ってきたのはひよりだろ?』
『なのにさー……なんでひよりは、アイツと別れて俺と正式に付き合わねーの? もう、ヤることヤってる仲なのに』
って……はは……僕も僕で、なんだってこんなことをいまだにハッキリ覚えてるんだよ……!
そんな現実が悔しくて、僕は唇を噛み、拳を強く握りしめる。
「そ、その……もし、優太が許してくれるなら……俺、またお前と前みたいに友達に戻りたいんだ……!」
「っ! 勝手なことをッッッ!」
和樹のそんな言葉を聞いた瞬間、僕はカッとなって声を荒げた。
どの口が、そんなことを言うんだよ! なんで、そんな厚顔無恥なことが言えるんだよ!
拳を震わせ土下座する和樹の背中を睨みつけていると。
「プ……あはは!」
僕の後ろで、愉快そうに笑う初穂の声が聞こえた。
「あ……は、初穂……」
「あはは……ダメだ! おかし過ぎるね、優太!」
「ど、どうしたの……!?」
お腹を抱えて笑う初穂の姿に、僕は困惑する。
な、何で……? どうして初穂は、そんなに笑ってるんだよ……?
「あは! だって、土下座してるコイツの姿と今の台詞が、あまりにも頭が悪すぎるから!」
「っ!?」
初穂の言葉に、土下座する和樹がビクッとなった。
「ねえ優太、なんでコイツが土下座なんてしてるか……なんで君と仲直りしたいか、分かる?」
「え……? そ、それは……」
「簡単だよ。コイツはただ、優太にマウントを取りたいだけなんだ」
笑い転げていた姿から一転、初穂が険しい表情で和樹を睨みつけ、吐き捨てるように言った。
「知ってるよ? オマエ、優太のクズな元幼馴染と浮気してたことを学校で調子に乗ってバラして、学校中からクズ認定されてボッチだったんでしょ?」
「…………………………」
初穂にそう言われ、和樹は顔を上げて彼女を睨んだ。
「それで、誰にも相手にされないものだから、唯一オマエが勝てると思ってる優太と仲直りするフリをして、優越感に浸りたいんだよね? 恋人を自分に寝取られた、情けない優太なんかよりも自分のほうが上なんだって、そうやって自分を慰めたいだけだよね?」
「っ! ち、違う!」
とうとう堪え切れなくなったのか、和樹が立ち上がって声を荒げた。
「あは、オマエ、何を勘違いしてるの? 優太とオマエじゃ話にならないよ。優太は最高の男の子だけど、オマエは底辺のクズだもん。だからさ、優太に構ってないで、オマエと同じクズな浮気相手と前みたいに仲良くしてたらいいじゃない」
「ウ、ウルサイッッッ!」
初穂に言いたいように言われ、和樹が詰め寄ろうとするけど。
「っ!? 優太!?」
「僕の初穂に近づくな」
二人の間に割り込むように立ち、和樹に冷たく言い放った。
「……オマエは、僕の友達なんかじゃない。二度と顔を見せるな。初穂、行こう」
「あは! うん!」
「ゆ、優太、待っ……」
呼び止めようとしている和樹を完全に無視し、嬉しそうに僕の腕に抱きつく初穂と一緒にコンビニから立ち去った。
「……優太、勝手なことしてごめんね……?」
コンビニが見えなくなったあたりで、初穂が申し訳なさそうに謝った。
「はは……何で謝るのさ。それよりも、僕のために言ってくれてありがとう。だけど……アイツの反応を見ると、初穂の言われたことが図星だったんだろうなあ……」
はは……アイツにとって、所詮僕は好きだった女の子を奪われた情けない男、ってことか……っ!?
「ちゅ……ふ……ん……」
初穂が両手で僕の顔を挟み、強引にキスをした。
「ぷあ……あは、アイツだけが優太を下に見たところで、アイツ以外の全員は優太のほうが上だって分かってるんだから、ただアイツがみじめなだけだよね。何より」
初穂が僕の首に抱きつきと。
「私が、優太が世界一素敵な男の子だって知ってるもん!」
そう言って、ニコリ、と微笑んだ。
うん……僕は、世界中の誰もから情けない男だって……つまらない男だって思われても構わない。
だって……君だけは絶対に、僕のことを受け入れてくれるから。
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