家族
晩ご飯を食べ始めてから約一時間。
さすがにもうお腹いっぱいなんだけど、それよりも困ったことがある。
それは。
「えへへー、優太、優太!」
……とまあ、初穂がお酒に酔ってしまい、こんな感じでずっとベタベタと甘えてくる。
父さんと母さんの目の前で。
明日の朝このことを伝えたら、初穂が闇堕ちしそう。
「うふふ、初穂ちゃんったら、本当に優太のことが好きなのね」
「は、はは……」
嬉しそうに初穂を見つめる母さんに、僕は苦笑して返すことしかできなかった。
「優太が幸せそうで、何よりだ」
「うん……それもこれも、全部初穂のおかげだよ……」
「そうか……」
そう言うと、いつの間にか日本酒に切り替わっていた父さんがぐい、と酒を飲み干した。
そして。
「優太……改めて、すまなかった」
父さんが、深々と頭を下げた。
「と、父さんやめてよ! ぼ、僕のほうこそ本当にごめん!」
そんな父さんの姿を見て、僕も慌てて頭を下げる。
「いや……今の幸せそうな優太の姿を見て、本当に、私達は取り返しのつかないことをしてしまったと、つくづく感じたよ……初穂さんがいなかったら、優太は今も苦しんでいたんだからな……」
「…………………………」
確かに父さんの言うとおり、初穂と出逢ってなかったら、僕は今もあの安アパートで一人、苦しんでいたと思う。
だけど。
「父さん……僕は今、初穂と一緒にいて幸せなんだ。だから、それでいいんじゃないかな。それに……あの出来事があったから初穂と出逢えたんだって思うと、いいきっかけになったとまで考えているよ」
「優太……本当に、強くなったな……」
「はは、全部初穂のおかげだけどね」
「にゅふふ~……」
膝に頭を乗せて満足そうにごろごろしている初穂の瑠璃紺の髪を撫で、僕はクスリ、と笑う。
「うむ……もし、二人が困ったことがあれば、遠慮なく私達に言うんだぞ? 優太もそうだが、初穂さんも、私達にとって家族と同じなんだから」
「はは……初穂が聞いたら喜ぶと思うから、また明日言ってあげてくれるかな」
「ははは、そうだな」
そういえば……一つ気になっていたことがあったんだった。
「ねえ父さん……その、ひよりの家とは……」
「む……」
おずおずと尋ねると、父さんが顔をしかめる。
「あんな家とは、もうなんの付き合いもないわよ!」
母さんが、吐き捨てるようにそう言った。
「うむ、母さんの言うとおりだ。大事な息子を傷つけられ、何食わぬ顔で同じように付き合うなんてできるわけがない」
「はは、そっか……」
結局、あの家とも疎遠になったんだな……。
「優太も、あんな家のことなんて気にする必要はない。それよりも、初穂さんとの幸せのことだけを考えればいいんだ」
「そうだね……僕も変なことを聞いてごめん」
すると。
「すう……すう……」
はは……初穂、いつの間にか寝ちゃってたよ……。
「風邪ひいちゃうといけないから、部屋で初穂を寝かせてくるよ」
「ああ」
僕は初穂を抱きかかえると、階段を上がってベッドに寝かせた。
「初穂……おやすみ……」
初穂の頬に優しくキスをすると、僕は部屋のドアを閉めてまたリビングに戻り、夜遅くまで久しぶりに両親と話し込んだ。
◇
「うう……私ったらとんでもないことを……」
次の日の朝、初穂がベッドの上で頭を抱えている。
もちろん二日酔いっていうのもあるけど、それ以上に、昨日のことが堪えているみたいだ。
「はは、シャワーでも浴びてきたら?」
「あう……ほ、本当にごめんね……」
初穂は謝ると、シュン、としてしまった。
で、僕は初穂をお風呂場まで案内するんだけど。
「……お父様とお母様」
「ん?」
「幻滅……したよね……」
あー……初穂ったら、本格的に落ち込んじゃってるし……。
「あ……」
「大丈夫だよ。むしろ、それだけ父さんと母さんに気を許してくれてるってことで、逆に喜んでるくらいだから」
ポンポン、と頭を撫で、僕はそう言って微笑んだ。
「あ、あは……そんな嘘言わなくても、昨日は大失敗だったことくらい、分かってるから……」
ウーン……これは、直接二人に会ったほうが早そうだなー……。
「とりあえず、シャワーを浴びておいで。待ってるから」
「う、うん……」
初穂はお風呂に入り、僕は前の廊下で待つ。
――ザアアアアアアアア……。
……うん、シャワーの音って何というか……いやらしいよね?
そもそも昨日、あれだけ期待しておきながらお預けされている状態の身としては、その……結構つらいものがある。
そして。
「え、ええと……優太、どうしたの?」
「ナ、ナンデモナイ」
廊下の壁に額を当てて寄り掛かりながら雑念を振り払っていたところを、バッチリ初穂に見られてしまった……。
「そ、それじゃ、リビングに……「ダ、ダメ! まだ化粧もしてないし!」」
おおっと、いつもならそんなこと気にしないのに……というか、初穂はメイクしなくても最高に可愛いのに。
でもまあ……メイクをした初穂も、最高に可愛いんだけどね。
ということで、メイクも済ませ、ようやくリビングへ降りると。
「お、おはようございましゅ……!?」
あ、舌噛んだ。
「うふふ、おはよう初穂ちゃん。よく眠れた?」
「は、はい!」
「それは良かった」
そう言うと、父さんと母さんが二人並んで初穂の前に立った。
「初穂さん、君は優太の恋人で、私達にとって家族も同然だ。だから、その……緊張する気持ちも分かるが、遠慮なんて一切しなくていい」
「そうよ! 私、初穂ちゃんみたいな娘ができて、本当に嬉しいんだから!」
「あ……」
微笑む両親と僕の顔を交互に見ながら、初穂が肩を震わせる。
「はは……昨日も父さん達言ってたんだけど、初穂、酔っぱらっちゃってたから、改めてってことで」
「うん……うん……! あ、ありがとうございます! お父様! お母様!」
初穂は涙を零しながら、嬉しそうに笑顔を見せた。
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