ゴミクズ
お待たせしました。
「うん、いい天気だ」
陽射しも温かくなった三月の朝。
カーテンを開けて僕は伸びをした。
で、後ろを振り返ってみると。
「ウーン……コッチの服のほうがいいかな……? で、でも、コッチのほうが清楚な感じがするから……」
初穂が僕よりもかなり早く起きて、今もどの服を着るかで悩んでいる。
といっても、以前買った黒のワンピースは確定なんだけど。
「はは……初穂は可愛いから、どんな服を着たって似合うのに」
「もう! そういうことじゃないんだよ! 私は、優太のご両親に少しでもよく思われたいの!」
おおう、怒られてしまった……。
「ま、まあまあ……何度も言うけど、父さんも母さんも君のことを大歓迎しているんだから、心配しなくても……「私は心配するの!」」
……うん、そっとしておこう。
僕も自分の服に着替えて布団をたたみ、歯磨きをする。
「そういえば、佐々木先輩達との待ち合わせって、十一時に駅前でいいんだよね?」
「うん」
そう……今日の帰省については、佐々木先輩と木下先輩も一緒に行くことになっている。
まあ、元々佐々木先輩とは地元が一緒だしね。
すると。
「あは……ゆ、優太、どうかな……?」
「おおー!」
初穂の姿に、僕は思わず感嘆の声を漏らした。
いや、僕の彼女ってどれだけ可愛いの?
黒のワンピースに合わせ、春らしく水色のブラウスにベージュのカーディガン、顔もナチュラルメイクがパッチリ決まっていて、唇にひいた淡いルージュがすごく魅力的なんだけど。
「うん、世界一可愛い。超絶可愛い」
「あ、あは……やった!」
すると、初穂は満面の笑みで小さくガッツポーズをした。
ああもう、可愛さが突き抜けちゃってるんだけど。
「じゃあちょっと早いけど、そろそろ行く?」
「あ、うん、そうだね。朝ご飯も食べないといけないし」
そう……今日からしばらくの間帰省するということで、食材なんかを全部消費したから冷蔵庫には何もないのだ。
初穂のご飯が食べられないのはちょっと寂しいけど、さすがにこんな時にワガママ言っていられないしね。
ということで。
「優太! 行こ!」
「うん!」
スーツケースを転がしながら、僕達は駅前へと向かった。
◇
「……で、なんで武者小路さんが?」
駅前にあるカフェで、何故か僕達は武者小路さんも一緒にモーニングを食べている。
しかも彼女、かなり大きなスーツケースを持ってるし。
「決まってるじゃない。私も旅行に出掛けるからよ」
「……念のため尋ねるけど、どこに?」
「○○市」
「僕の地元じゃないか!」
ハア……まさか武者小路さんまで一緒についてくるなんて、聞いてないんだけど……。
「あ、あはは……ま、まあまあ優太、琴音もいたほうが楽しいから……」
「初穂先輩! そうですよね! ……それに引き換え、あなたときたら……」
イヤイヤ、なんで僕が武者小路さんにそんな残念な表情で溜息を吐かれなきゃいけないの!?
「い、言っとくけど、僕の地元に来てもそんなに楽しいところはないよ?」
「何を言ってるの。初穂先輩がいるんだから、楽しいに決まってるじゃない」
「あ、あははー……」
くうう……っ! 確かに武者小路さんは頼りになる友達だけど、だからといってこんな露骨に邪魔をしてくるだなんて……!
僕は思わずテーブルの下で拳を握りしめていると。
――ブルルルルル。
「あ、佐々木先輩からだ」
僕はスマホを持って店の外に出ると、通話ボタンをタップする。
「もしもし」
『おう、優太! 俺達は今、駅前に着いたぞ!』
「そうなんですか? 早いですね」
『まあな。俺達は近くのカフェにでも入って時間潰すから、お前達はゆっくり……って!?』
「あ……」
はは、目の前にスマホ持った佐々木先輩と木下先輩がいるんだけど。
「オイオイ、お前達ももう来てたのかよ!」
「痛いですよ、先輩」
背中をバシバシ叩かれ、僕は佐々木先輩をジト目で睨む。
「あはは、やっぱり朝ご飯をここで?」
「はい。初穂達もいますから、中に入りましょう」
そうして、僕達は店の中へ入ると。
「お! ちゃんと琴音ちゃんも来てるじゃん!」
「…………………………え?」
佐々木先輩から放たれた耳を疑うような言葉に、僕は思わず振り向く。
「ま、まさか……」
「ん? いや、琴音ちゃんから俺達がいつ帰省するのか聞かれてな。せっかくだから一緒に来ないかって誘ったんだよ」
……まさか、佐々木先輩が犯人だったとは。
「ハハ! ホラ、これならフットサルするにしても人数ピッタリだし、何より“桜祭り”もあるんだしな!」
「あ、そ、そういえば!」
そうだった、すっかり忘れてた……。
今度の土日、“桜祭り”があるんだったよ……。
「ん? 光機、その“桜祭り”って?」
「おお、んじゃ、席に着いてから教えてやるよ」
ということで、店員さんに話して僕達は六人席へと移動する。
「お二人共、おはようございます! 今日はどうぞよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
うんうん、初穂は元気があって可愛いなあ……。
武者小路さんは……そんな丁寧な対応を僕にも心掛けてほしいところだ。
「それで光機」
「おっと。ええと……今度の土日に、“桜祭り”っていうのがあるんだけどな?」
佐々木先輩が三人に説明した。
まあ、早い話が僕達の地元は桜の名所で、毎年縁日なんかも出て結構大きなお祭りだ。
そして、実は地元民にとってはクリスマスやバレンタインなどと並ぶほど、カップルにとって一大イベントだったりする。
というのも、その“桜祭り”で手に入れた桜のつぼみがある小枝をカップルで花が咲くまで育てたら、幸せになるってジンクスなんかがあったりする。
「……というわけで、是非ともみんなで一緒に“桜祭り”に行きたいと思ってな!」
「初穂先輩! 一緒に桜を育てましょう!」
「あ、あは……」
いやいや、なんで武者小路さんが僕の初穂と桜を育てるんだよ!?
などと考えながら、武者小路さんをジト目で睨んでいると。
――ギュ。
「あ……」
「んふふー……優太、絶対に花を咲かせようね?」
テーブルの下で僕の手を握り、初穂は嬉しそうに微笑んだ。
◇
「んー……! やっと着いたかよ……!」
新幹線に乗って二時間弱、そしてそこから普通電車に乗り換えて約三十分。
ようやく、僕達の地元の駅に到着した。
「あは……ここが、優太の住んでいた街なんだね……」
「うん……」
はは……この駅前の景色も、二年振り、だなあ……。
初穂の手を握りながらしみじみ考えていると。
「……アノヤロウ」
突然、今まで聞いたことのない、佐々木先輩の低い声が耳に入った。
「こ、光機、どうしたの!?」
そのただならぬ雰囲気に、木下先輩も困惑しながら尋ねる。
僕は、どこかを睨みつけている佐々木先輩の視線の先を見ると……っ!?
「光機……アレ、誰なの?」
「ああ……この街を代表するゴミクズだ」
それは、かつて僕が親友と呼んでいた、“横山和樹”だった。
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