これからは、君と僕の幸せを
「うん……僕は、このSDカードを武者小路さんに託して、しかるべき人に渡してもらうのがいいと思う」
僕は、まさかの四つ目の案を提示した。
「ど、どういうこと!?」
さすがに驚いたのか、初穂は目を見開いた。
「うん……実は、こういったことがあるんじゃないかってことは予想してたから、あらかじめ武者小路さんにも話をしてある」
そう……以前の合コンで初穂の話を聞いた際に、武者小路さんは父親から『もう関わるな』と強く言われている。
ということは、彼女の父親はこの巨額詐欺事件について何かを知っているってことだ。
そんな彼女の父親に全容が詰まったSDカードを交渉材料にして、初穂の身の安全を約束させられないかって考えた。
「……少なくとも、武者小路さんなら信頼できるし、彼女のお父さんと交渉だってできる。だから……」
「初穂先輩……ぜひ、私にそうさせてください! 二年前のあの時、何もできなかった私に、リベンジさせてください!」
初穂に詰め寄り、武者小路さんが必死に訴える。
彼女もまた、初穂のことでつらい思いをしてきたから……。
「だ、だけど……琴音にまで、迷惑が……」
「こんなの迷惑のうちに入りません! 私なら大丈夫ですから!」
「琴音……」
そんな武者小路さんの強い想いに負けたのか、初穂はおずおずとSDカードを手渡した。
「琴音……ごめんね……?」
「何を言ってるんですか……このSDカード、大切にお預かりします……!」
武者小路さんはSDカードを大切にしまうと。
「初穂先輩……では、行きますね。直江くん……初穂先輩のこと、よろしく頼むわよ」
「うん」
そのまま、この場を去った。
「……初穂、行こう?」
「……うん」
僕は初穂の肩を抱き寄せ、寄り添いながら駅へと向かった。
◇
SDカードを武者小路さんに手渡してから二週間経ち、初穂はようやく元気を取り戻して笑顔を見せてくれるようになった。
武者小路さんからの報告によると、無事にSDカードを父親に渡し、その引き替えとして初穂の平穏な生活を約束してくれたとのことだ。
しかも、武者小路さんが父親から聞かされたところによると、政財界のかなりの有力者達がこの事件に関与しているらしく、万が一SDカードがリークされていたら、この国にとってかなりのダメージを負っていたとのこと。
そして、警察に手渡していたり、自分達で処分してしまっていたら、今までは初穂の父親……柿崎穂高の行方が分からなかったことで矛先がそちらに向いていたものが、初穂に矛先が変わっていた危険もあったとのこと。
本当に、どこまで迷惑な話なんだよ……。
だからこそ、武者小路さんの父親は初穂に感謝している、とのことだった。
いざという時には、武者小路グループとして初穂を全力でサポートするというメッセージと共に、武者小路さんが僕達に教えてくれた。
で、『柿崎ファーム』巨額詐欺事件については、柿崎穂高の遺体発見の報道によって再燃した……かのように思えたけど、むしろたった数日で収束してしまった。
これこそ、武者小路グループが……又は、あのSDカードに収録されていた政財界の有力者達が根回しをした結果かもしれない。
なので、今ではマスコミ達もその話題に触れることすらなく、今日も別のニュースを伝えていた。
なお、柿崎穂高の身柄に関してだけど、司法解剖自体は終えたものの、まだ不起訴処分が降りていないとのことで、引き渡しまでには至っていない。
でも、遺留品に関してはあの高橋刑事が色々と動いてくれたらしく、初穂の手元へと返還された。
一応、事件の損害賠償などが発生することを考え、相続放棄を前提に動くつもりでいたので遺留品の受け取りについても注意を払ったけど、遺品として受け取っても問題のないものばかりだったので良かった。
とにかく……初穂はこれで、一連の巨額詐欺事件と完全に決別することができたと言って間違いないだろう。
でも、だからって初穂の負った心の傷自体が無くなるわけじゃない。
僕は……これから一生かけて、初穂の傷を癒していきたいと考えている。
「初穂」
「あは……もう、どうしたの? そんなに甘えて」
一緒に食器の後片づけをしている初穂の邪魔をするように僕は抱きつくと、初穂が苦笑する。
「絶対に……幸せになろう」
「……うん。私は、君がいてくれるから幸せだよ?」
はは……君ならそう言ってくれることは分かってるんだけどね。
「さあて、今日は僕もバイト休みだし、これからどこかに出かける?」
「えっと……うん、やっぱり受験勉強かな。ブランクを取り戻さないといけないし」
「うぐう……きょ、今日くらいは遊んでもいいんじゃないの?」
そう言って、僕は彼女を誘うんだけど。
「あは! ダメだよ! 私は君と一緒に“中法大学”に通うんだもん!」
「そ、それを言われると……」
結局、僕の提案は受け入れられなかった。
だけど。
「んふふー……ほら、勉強が終わったら、その……いっぱいイチャイチャするから……」
「よし、今すぐ勉強しよう」
はは……やっぱり僕は現金だ。
だって、そんな言葉一つで、僕は幸せでたまらないんだから。
「ね、優太」
「ん?」
「あは……大好きだよ!」
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!




