提案
「優太……準備、できたよ」
高橋刑事の事情聴取を受けた日から三日後、いよいよ僕達は、例のタイムカプセルのある場所へと向かう。
そのための行く準備をしていた、んだけど……。
ごめん……不謹慎かもしれないけど、初穂のコーデが可愛くて仕方ない。
だって、あの黒のワンピースに白のタートルのセーター、それに引っ越しに合わせて買ったグレーのリブニットコートを着て、さらにチェックのストールを首に巻いている。
うん……やっぱり初穂は、世界一可愛い。
「あは……も、もう……優太って、本当にブレないね」
「? どういうこと?」
「その……いつだって、優太は私だけを見てくれるってことだよ……」
なんだ、それなら当然だよね。
でも……ようやく初穂も落ち着きを取り戻してくれて、よかった。
「さあ、行こうか」
「うん」
僕達はアパートを出て電車を乗り継ぎ、目的の場所である公園へと向かう。
「うわあ……懐かしい、なあ……」
駅前の景色を眺めながら、初穂は感慨深げに呟く。
はは……初穂にとっては二年振りになるんだもんな。
さて、と。
そんな初穂を尻目に、僕はスマホを取り出してメッセージを一通送った。
「? 優太、どうしたの?」
「ああいや、ちょっと」
曖昧に答えると、初穂は不思議そうに首を傾げた。
「それより、ここが初穂の育った街、なんだね……」
「うん……」
風が僕と初穂の間を通り過ぎ、瑠璃紺の髪が舞った。
その隙間から見えた初穂の表情は、どこかもの悲しさを感じさせる。
「あは、コッチだよ」
「うん」
初穂の案内で、駅前から住宅街を抜け……そして、目的地である公園へと着いた。
そこには。
「え……? 琴音……?」
「初穂先輩……お待ちしていました……」
そこには、武者小路さんがいた。
「どうして……ここに……?」
「うん……僕が武者小路さんに頼んで、立ち合いをお願いしたんだ」
「ええ!?」
僕がそう告げると、初穂が驚きの声を上げた。
実は、今日のタイムカプセルの掘り返しに際して、警察がマークしてくるんじゃないかって考えた。
だって、僕と初穂が出逢ったあの安アパートから今のアパートに引っ越したことは限られた人達しか知らないはずなのに、あの高橋刑事はやって来た。
それって、僕達のことを常に監視しているってことの証左だから。
そして、初音の父親……柿崎穂高の遺体が発見され、警察はこう考えるはず。
『柿崎初穂が事件に何らかの関与をしているのなら、動きがあるはず』
って。
そして、僕達を尾行して、現場……つまり、タイムカプセルを掘り返したところを押さえにかかるかもしれない。
だから。
「フフ……直江くんから事前に連絡をもらって、二人の後をつける連中がいないか、私のほうで監視していたんです。案の定、刑事が一人後をつけていたようですけど、それはこちらで妨害しました」
「あ……優太……琴音……」
うん……やっぱり、初穂にはなんの邪魔も入ることなく、父親の遺したであろうメッセージを受け取ってほしいから……。
「……でも、邪魔をしたといってもそれほど時間を稼げるわけじゃないから、早く」
「う、うん!」
初穂はタイムカプセルが埋められているっていう木の下へ駆け寄ると、カバンから用意していたスコップを取り出す。
「僕がやるよ」
「優太……お願い」
スコップを受け取り、僕は土を掘り起こす。
三十センチくらい掘り進めると。
――カチン。
「あ! あった!」
スコップの先がタイムカプセルに触れた感触があり、僕は丁寧に周りを掘る。
そして。
「初穂……はい」
「うん……ありがとう……」
初穂はプラスチックでできた宝箱の形をした、タイムカプセルを受け取る。
「あは……これ、おもちゃだから鍵がなくても簡単に開くんだよね……子どもの頃の私は、絶対に開けられないって思ってたけど……」
懐かしそうに口元を緩めながら、初穂はプラスチックの箱の鍵の部分にある溝に十円玉を当てて回すと、カチリ、という音とともに鍵が開いた。
中には。
「……手紙と……これは、SDカード?」
「みたい、だね……」
初穂はプラスチックの容器を置き、一緒に手紙を読むと。
「……ふざけないでよ……っ!」
初穂は、震える手でその手紙を強く握りしめた。
手紙には、初穂への繰り返しの謝罪と、巨額詐欺事件の全てについて一緒に入っていたSDカードに収められていることが記されていた。
本当に、予想していた中でも最悪に近いパターンだ。
この最低の父親は、どこまで初穂に迷惑をかけたら気が済むんだよッッッ!
「初穂……っ!」
「優太……優太あ……っ!」
初穂が僕の胸の中で声を殺して震える。
本当に……最低の結末だよ……!
「初穂先輩……直江くん……」
そんな俺達を見つめながら、武者小路さんは申し訳なさそうに俺達の名前を呼んだ。
おそらく、僕達を尾行していたという例の刑事が近づいているんだろう。
「……初穂、行こう」
「……うん」
そして俺達は、プラスチックの容器を抱えながら、公園を後にした。
◇
「初穂先輩……これから、どうしますか……?」
「うん……」
武者小路さんがおずおずと尋ねるけど、初穂はさっきから生返事しか返すことができない。
「……ねえ、初穂。聞いてくれる……?」
「うん……」
「僕はそのSDカード、すぐにでも手放すべきだと考えてる」
「……え?」
どうして? と言わんばかりに、初穂がキョトン、とした。
もう、初穂はいっぱいいっぱいで、正常に考えることもできなくなってるみたいだ……。
「君の父親が押し付けたソレは、絶対に君を不幸にするものだ。だから、君が持っているべきじゃない」
「で、でも……これはお父様が私にって……『託す』って……」
「うん……手紙にそう書いてあったの、僕も読んだよ。だけどね? だからって、君が背負う必要なんて……義務なんて、どこにもないんだ。君は、君の幸せだけを考えるんだ」
「あ……」
僕は、ス、と初穂の前に手を差し出す。
「手放す方法としては三つ。一つ目は、SDカードを破壊して全ておしまいにする。二つ目は、このまま警察に渡す。三つ目は、マスコミにリークする」
わざわざSDカードでデータを残したってことは、その中身は触れちゃいけないことまで収録されているんだろうから、ね……。
「……優太は、どうすればいいと思う?」
虚ろな瞳で、初穂が尋ねる。
「うん……僕は、このSDカードを武者小路さんに託して、しかるべき人に渡してもらうのがいいと思う」
僕は、まさかの四つ目の案を提示した。
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