招かれざる来訪者
「ええと……ここはね?」
初穂と新しいアパートで暮らし始めてから一か月。
僕達は今日も、一緒に受験勉強をしている。
だけど。
「はは……初穂の頭が良すぎて、僕の出る幕がない……」
い、いや、初穂はちょっと参考書を見ただけでスラスラと解いていくんだから、僕いらないんだけど。現役の僕って一体……。
「そ、そんなことないよ! 優太が答えを見つけやすいように誘導してくれてるの、分かってるんだからね!」
「で、でもなあ……」
フォローしてくれる初穂に、僕は苦笑いを浮かべるしかない。
うん……正直言って、初穂は既に僕を超えてるんだけど。
「と、とにかく! 私は優太がいないと全然ダメなんだから!」
まあでも……それだけ初穂が夢に近づいてるんだって考えたら、嬉しいほうが断然勝ってるんだけどね。
「そういえば話が変わるけど、来週の二月から春休みに入るから、いつ頃僕の実家に行こうか?」
「あ、そっか。大学ってもう春休みなんだね」
はは、高校と大学じゃ休みの期間も全然違うから、初穂が戸惑うのも無理ないか。
「うん。僕としては、もっと暖かくなってからでいいじゃないかって思ってるけど、それでいいかな?」
「うん! もちろん! うわあ……今から緊張してきちゃった」
「はは、さすがにまだ早いよ」
「わ、分かってるよ! でも、やっぱり優太のご両親に嫌われたくないから、緊張するのは仕方ないじゃない……」
そう言うと、初穂は口を尖らせた。
「はは、ごめんごめん。でも……僕は君にそう言ってもらえて、その……嬉しいんだけど」
「あう!? も、もう……優太のバカ」
恥ずかしくなったのか、初穂が僕の肩をポカポカと叩く。
うん……初穂も今ではこうやって、いろんな表情を見せてくれるようになった。
それもこれも、もう以前みたいな怯える日々じゃなくなったのが大きいんだろうな。
本当に、本当の初穂を取り戻せてよかった。
「あ……もう、すぐそんな表情で私を見るんだから……」
「えー……」
僕は抗議の声を漏らすと。
「優太……ん……」
初穂が口づけをしてくれた。
「ちゅ……ちゅ……ちゅく……」
今日はいつもよりも長く、キスを堪能する。
すると、僕の中にいたずら心というか、もっと初穂を求めたい気持ちが強くなって……。
「っ!? ちゅ、じゅぷ……じゅ……」
僕は初穂の口をこじ開け、舌を絡め合う。
「れろ……ちゅぷ……ぷは……も、もう……」
とろん、とした表情を浮かべる初穂。
僕は彼女を抱き寄せ、そして……。
――ピンポーン。
「うわああああああああ!?」
「ふあああああああああ!?」
突然鳴ったインターホンに、僕達は思わず叫んでしまった。
だ、誰だよこんな時に……!
「あ、あは……優太、顔が怖いよ?」
初穂が苦笑しながらそんなことを言うけど……そんな顔になるのもしょうがないよね。
不機嫌になりながら、インターホンのモニターを見ると……誰?
『すいません、警察の者ですが』
「警察? ……警察が何の用ですか?」
突然やって来た警察の人に、僕はぶっきらぼうに尋ねる。
初穂に嫌な思いをさせ続け、いざとなったら助けもしないコイツ等に対して、僕は不信感しかないから。
『それが……そちらにお住まいの“柿崎初穂”さんにお話ししたいことがありまして、その……』
僕は後ろを振り向き、初穂を見る。
初穂はどこ顔を青くしながら、僕をジッと見ていた。
「……どうする? もしアレだったら、いないって言って追い返すけど」
「……ううん、会う……よ……」
初穂はそう言ってかぶりを振る。
……じゃあせめて、これくらいは。
「初穂に会ってもいいですけど、条件があります」
『条件?』
警察の人が怪訝な表情を浮かべる。
「はい。初穂との面談に、僕も同席しますから」
『っ!? そ、それは……』
僕の条件に警察の人が露骨に顔をしかめるけど、そんなの知ったことじゃない。
「それが飲めないなら、会わせるわけにはいかないですね。お引き取りください」
しばらく沈黙が続いた後。
『……わ、分かりました。その代わり、あなたも他言無用でお願いします』
警察の人は、渋々了承した。
「……初穂、そういうことだけど……いいよね?」
「あは……もちろん。優太、ありがとう」
僕はドアを開け、警察の人を招き入れた。
「か、柿崎初穂ですけど……そ、その、どのようなご用件ですか……?」
「ああ、すいません……私は警視庁の“高橋”と言いまして……」
そう言うと、警察の人は手帳を提示した。
へえ……この人、刑事なんだ……。
「実は……まだ報道発表もされていないので、本当に他言無用でお願いしたいんですが……」
「は、はい……」
高橋刑事は眉根を寄せた後、覚悟を決めたかのような表情ですう、と息を吸うと。
「一週間前、〇〇県の山中で身元不明の中年男性の遺体が発見されました」
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