和解
『もしもし……?』
スマホの向こうから、懐かしい母さんの声が聞こえた。
「……も、もしもし……」
『……優太』
僕の声を聞いた途端、向こう側の母さんが涙ぐむ。
『そ、その……元気、してた……?』
「うん……おかげさまで……それより、さ……ちょっと話があるんだけど、その……いいかな?」
『ちょ、ちょっと待ってね! お父さん! お父さーん!』
母さんが慌てた様子で父さんを呼びに行った。
はは……ちょっとそそっかしいところ、相変わらずだな……。
そして。
『……もしもし、優太か?』
「父さん……うん」
母さんから父さんに電話が替わる。
「あ、と、父さん……実は、報告とお願いがあって電話したんだ……」
『そうか……言ってみなさい』
「うん……実は、その……ちょっと大家と揉めちゃって、別のアパートに引っ越すことになって……」
『大家と揉めた? 何があったんだ?』
「ああ、うん……」
どうしようか……。
初穂のこと、隠したままで伝えようかと思ったけど、万が一何かあった時、後で二人に知られることで余計なトラブルを招きかねないかも……。
……よし。
「実はね……僕は今、女の子と一緒に住んでるんだ」
『っ!?』
スマホの向こうで、父さんが息を飲む音が聞こえた。
はは……そりゃ驚くよね。
この街に逃げ出すまでは、ひよりの裏切りで絶望していたんだから。
「それでね……」
僕は、続けて引っ越しをする理由を告げた。
一緒に暮らす初穂が、いわれのない誹謗中傷を二年間も受け続けていたこと。
そんな誹謗中傷をしていたクズを僕が見かけたことがきっかけで、一緒に暮らすようになったこと。
そしたらクズが初穂と僕が一緒に暮らしていることを嗅ぎつけ、僕の部屋にまで誹謗中傷の落書きや不審な手紙を投函するようになったこと。
その件で、大家はクズの肩を持って僕達を非難したから喧嘩……とまではいかないけど、トラブルになったこと。
「……それで、先輩のご厚意で別のアパートに引っ越すことになったんだ」
『そうか……』
ふう……これで伝えなきゃいけないことは全て話した。
もう、これ以上は……。
そう思い、電話を切ろうと話を切り出そうとしたところで。
『……優太、すまなかった』
「……父さん?」
突然、父さんが謝った。
『あの時……私達は優太のつらい気持ちに気づかず、あんなことを口走ってしまった。優太からすれば、私達に話したくなくて……話せるはずがなくて当然なのにな……』
「…………………………」
『……お前が一番苦しんでた時に寄り添ってやれなかった私達は、親として失格なのかもしれないが……それでも、優太の声を聞けて親として嬉しかったよ……』
父さん……っ。
「ぼ、僕のほうこそ……たったあれだけのことで僕は塞ぎこんで、父さんや母さんまで目の敵にするような真似をして……本当に、ごめん……っ!」
『優太……』
「僕……今、彼女………“初穂”って名前なんだけどね? その子のおかげで、僕は前を向くことができたんだ……そしたら、さ……彼女のためならって考えたら、どんなことだって些細なことのように思えるようになって……」
うん……本当に、初穂以外のことなんて……それこそ、あんなにつらかった出来事だって、全部些細なことなんだ……。
そう考えたら、僕が父さんと母さんに抱いていた不信感って、本当に馬鹿げていて……。
「だ、だから、僕のほうこそ許してほしいんだ……」
『優太……許すも何もない。これからはまた、前みたいな家族に戻ろう……』
はは……やっぱり、電話してみてよかったな……。
そして、こうやって電話をするきっかけになってくれた初穂には、感謝しかない。
すると。
『グス……優太、春休みになったら、一度帰ってきてね……』
「母さん……うん……」
『も、もちろん、その初穂ちゃんも連れてきてね。私もお父さんも、お礼を言いたいから』
「は、はは……」
うわあ……初穂を実家に連れて帰るのかあ……。
でも、声色で分かるけど、母さんメッチャ期待してるし……。
『とにかく、身体に気をつけてね。アパートのことは気にしなくてもいいわよ』
『そうだぞ。むしろ、そんな優しいお前が私達の息子で、親として誇らしいとも』
「うん……ありがとう。じゃあ、切るね……」
僕は通話終了のボタンをタップし、夜空を仰いで深く息を吐いた。
「優太……」
見ると、扉を少しだけ開け、初穂が心配そうな表情で僕を見ていた。
「はは……ホラ、アパートを引っ越すことになるから、両親に話をしておかないとって思って」
「う、うん……」
何故か緊張した様子の初穂。
一体どうしたんだろう……。
「初穂……?」
「そ、その……やっぱり優太のご両親は、私が君と一緒にいることを良く思わないよね……」
ああー、そんなこと気にしてたのか。
「はは、その逆だよ。父さんも母さんも、例のことがあるから、むしろ君に感謝してるくらいだし」
「あう!? そそ、そんな……」
僕の答えが予想外だったのか、初穂はわたわたと慌てる。
「それで、春休みになったら実家に遊びにおいでって言ってくれたよ。だから、その……君さえよければ、一緒に来てほしいんだけど……」
「あう!? お、お父様とお母様にお会いしに……」
うん……逃げ出してしまった街だけど、初穂と一緒なら……僕は、またあの街に戻れるような気がするから……。
「それで……どう?」
「う、うん……優太もご両親もいいのであれば、ぜひ行きたい……」
「ありがとう……」
あの街へ一緒に行ってくれることを受け入れてくれた初穂が愛おしくて、僕は彼女を抱きしめた。
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