下の名前で
「直江くん、そろそろ寝よっか」
お風呂にも入り、僕達は布団の中へと入る。
電気を消して、と。
「今日は、色々あったなあ……」
「あう……ご、ごめんね……?」
僕の呟きを拾った柿崎さんが、申し訳なさそうに謝った。
「そんな、謝らないでよ! 今日のおかげで、僕は、その……大切な女性と一緒にいられるんだから……」
「あは……うん」
暗がりの中で、彼女が微笑んだ。
「さあ、寝よう。それじゃおやすみ……って!?」
何故か柿崎さんが、僕の布団の中に入ってきた!?
「そ、その……今日はすごく寒いし、こうやってくっついたほうが温かいから……」
「う、うん……」
超至近距離まで顔を近づけ、彼女はそう告げた、
あ……シャンプーのいい香りがする……。
僕は……。
「ん……」
今日二回目のキスを、柿崎さんとする。
「んふふー……直江くん知ってる? 私ね……男の人とキスするの、君が初めてなんだ……」
「そ、そっか……実は僕も……」
照れながらそう告げると、柿崎さんは意外といった表情を見せた。
「そ、その……付き合ってたっていう幼馴染と、その……」
「はは……キスなんて、したことないよ……せいぜい、手をつないだだけだよ……」
でも、そのひよりは和樹とは普通にキスをして、恍惚の表情を浮かべていて……っ!?
「ちゅ……ん……ぷは」
「んっ……柿崎さん!?」
突然彼女にキスで口を塞がれ、驚いてしまった。
「だったら……私は君とたくさんキスするんだ。そんな最低の幼馴染が悔しがるくらい、数えきれないたくさん」
「柿崎さん……」
ああ……彼女の表情を見れば分かる。
多分、僕があの時のことを思い浮かべたせいで、柿崎さんは心配してくれて……。
――ギュ。
「あ……」
「ありがとう……僕は、君のおかげで幸せだよ」
「あは……私だって、すごく幸せなんだから……」
僕達は、お互い抱きしめ合ったまま、眠りについた。
◇
「私も一緒に行って、本当に大丈夫?」
次の日の朝、僕は柿崎さんと一緒に大学に向かっている。
というのも……昨日の一件もあったし、彼女が一人の時にあの連中が来て被害を受けたら洒落にならない。なにより、昨日みたいに彼女がいなくなってしまったらって不安もあったから。
もう絶対に、彼女を失いたくないから……。
「もちろん。それよりも、あんなくだらない嫌がらせをするような連中に見せつけてやろうよ。そんな真似をしたところで、僕と柿崎さんは気にも留めないくらい幸せなんだってさ」
「あは……そ、そうだね……」
ということで。
――ギュ。
僕は、彼女の柔らくてすべすべする手を握る。
もちろん、恋人つなぎで。
「んふふー……ダメだ、嬉しくてどうしてもにやけちゃうよお……」
「はは、それ僕の台詞」
うん……どうしよう、柿崎さんが可愛すぎて目が離せなくて、前を向いて歩けない。
「と、ところで、その……」
「ん? どうしたの?」
すると、彼女は遠慮がちに僕の顔を覗き込む。
どうしたんだろう……。
「わ、私達って、付き合ってるってことで、いいん……だよね……?」
不安そうな表情で尋ねる柿崎さん。
本当に、この女の子はどこまでその可愛さで僕を悶えさせたら気が済むんだろう……。
「もちろんだよ! だからこうやって、手をつないで一緒に歩いてるんだし!」
「あ、あは! だよね!」
僕の答えを聞いて納得したのか、柿崎さんはぱああ、と満面の笑みを浮かべた……と思ったら、またモジモジしだしたぞ?
「だ、だったらさ、その……君のこと、下の名前で呼んでも……いい、かな……?」
「あ……」
そ、そうだよね……僕と彼女は付き合ってるんだから、下の名前で呼ぶのがむしろ自然で……。
「も、もちろん」
「あは……やった!」
僕が頷いた瞬間、柿崎さんはグッ、と胸の前で小さくガッツポーズをした。
うわあ……ダメだ。想いが通じ合ってから、彼女の全てがどうしようもなく愛おしくてたまらない。
「んふふー……じゃあ、“優太くん”!」
「う、うん……」
名前で呼ばれ、僕は嬉しいやら恥ずかしいやらで、思わずうつむいてしまった。
だけど。
「……(じー)」
ええと……何故か、柿崎さんが僕をジッと見つめてるんだけど。
「な、何かな?」
「……私が君の名前を呼んだんだから、優太くんも返してほしいなー……」
ああー、そういうことかあ……。
だ、だけど、それって僕も下の名前で、ってことだよね……。
「コホン……じゃ、じゃあ……“初穂”、さん……」
「あは……さん付けはいらないかなあ……」
おおう……まさか、呼び捨てにしろと?
「そ、それなら君だって、僕のことは呼び捨てで呼んでほしいなあ」
「あう!?」
はは、お返しだ。
だけど。
「い、いいよ? その……“優太”」
「うぐう!?」
く、くそう……大好きな女の子から呼び捨てで名前を呼ばれるのって、メッチャ嬉しすぎてダメージが半端ないんだけど……。
「ぼ、僕も……“初穂”……」
「あう!? こ、これ……ヤバイかも……」
柿崎さん改め初穂が、口元をこれでもかって緩めながら胸を押さえて身悶える。うん、その気持ち、すごくよく分かる。
とまあ、そんなバカップルみたいなやり取りをしながら、僕達は大学へと到着した。
すると。
「あ! 初穂先輩! ……と、ついでに直江くん」
武者小路さんが嬉しそうに駆け寄って来た。
そして、僕はオマケなのか……。
「二人共、ちょっといいかしら?」
「ん? 琴音、どうかした?」
彼女に手招きされ、僕と初穂はその後をついて行く。
ま、まあ、まだ受ける講義の時間まで余裕あるしいいんだけど……。
連れてこられたのは、校舎裏の人気ない場所だった。
「それで……?」
僕は、武者小路さんにおずおずと尋ねると。
「フフ……初穂先輩を脅かしていた不届き者の正体、つかみましてよ?」
そう言って、彼女はクスリ、と微笑んだ。
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