表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/63

慟哭

「う、うえ……っ」


 ようやく動き出した僕の足が、ショッピングモールを飛び出してからも一向に止まらない。

 まるで、おぞましいものから必死で逃げるかのように。


 それと同時に、胃の中のものが逆流しようとしてくる。

 今日はプレゼントを選ぶのに必死で、昼ご飯だってまだ食べてないのに。


 吐くものなんて、何もないのに。


 なのに。


「っ!? う、うええええええ……っ!」


 とうとう耐え切れず、僕は大勢の人が歩いている中、歩道に汚物をぶちまけた。

 といっても、胃の中には何もないから唾液と黄色くて酸っぱい液体しか出なかったけど。


「き、君、大丈夫かい?」


 中年のサラリーマンが、僕の背中をさすりながら心配そうに声を掛けてくれた。


「は、はは……大丈夫、です……」

「あ! オ、オイ!」


 なおも心配するサラリーマンの制止も聞かず、僕はふらふらとその場から立ち去った。

 だけど……僕は、どこに向かってるんだろう……。


「あ、あはは……そうだ……僕は、ひよりの誕生日プレゼントを買って、それで……」


 うん……そうだった。

 早く家に帰って、誕生日プレゼントを旅行カバンにちゃんと入れて、海に行く準備をするんだった。

 そしてひよりに電話して、八月四日のスケジュールについて話し合って、それから……。


「……全部、意味ないじゃん」


 そう呟いて、ふと顔を上げると……そこは、近所の公園だった。


 幼い頃、ひよりや和樹と一緒に遊んだ、思い出の公園。


 それに気づいた瞬間。


「う……うげええええええええええッッッ!?」


 また、強烈な吐き気が僕を襲う。

 何も吐くものがないのに。


 もう、僕には吐き出せるものなんて何もないのに。


 (あふ)れ出るのは……涙と叫び声しかないのに……っ!


「うげ、うえ……うえええええええええええんんん……!」


 僕は泣いた。


 胃液と唾液に(まみ)れた地面に、自分の顔をこすりつけながら。


 泣いたって、何も解決しないのに。

 泣いたって、楽しかった昨日までの日々は戻らないのに。


 泣いたって……あの(・・)、大好きだったひよりはもう、いない……のに……。


 でも……でも、さっきからずっと、僕の頭の中でひよりの声がぐるぐるぐるぐる繰り返されるんだ。


『えー! いっつもソコじゃん! たまにはちゃんとベッドの上(・・・・・)がいい!』

『まあ、しょうがないよね。優くん、つまんない上にこれといって取り柄もないし』

『そんなこと言ってるけど、和樹だって友達の彼女(・・・・・)を寝取る(・・・・)だなんてひどくない?』

『えへへー、まあね。和樹、カッコイイし』

『それはー……優くん優しいし、都合がいい(・・・・・)し? 和樹と違って』

『ちゅ……あん……も、もう……』


「うるさい……うるさい!」


 僕は耳を塞ぎ、叫ぶ。


 これ以上、ひよりの声を聴きたくないと。

 これ以上、苦しみたくないと。


 でも、僕の頭から離れてくれなくて。

 ひよりの声が、嬉しそうに和樹を見つめてキスをするひよりの姿が、出て行ってくれなくて……!


「なんで……なんで、僕はあんなの見たんだよお……!」


 二人を見なければ、僕はつらい思いをしなくて済んだのに。

 二人を見なければ、僕は苦しまずに済んだのに。


 ああ……誕生日プレゼントを選んでいた時は、楽しかったのになあ……。

 綺麗な店員さんに勧められるまま、ペアリングなんて買って……『絶対に彼女さん、喜びますよ!』なんて後押ししてもらって……。


 プレゼントしたら、ちゃんと指のサイズを合わせるために、あの綺麗な店員さんに『今度は彼女と一緒に、また来ますね』って約束したのに、なあ……。


「あ、はは……」


 涙や吐いたもの、それに地面の砂でどろどろのくしゃくしゃになった顔で笑いながら、僕はカバンから綺麗にラッピングされた小さな箱と、何も包装されていない箱の二つを取り出す。


「これ……もういらないし、どうしようかなあ……」


 二つで結構な値段をしたから、一か月分のバイト代が軽く飛んじゃったんだよなあ……。

 フリマアプリで売り払ってもいいけど、そんなことしたら買ってくれた人が可哀想だよね……。


 不幸な目に遭うのは……彼女と親友に裏切られるのは、僕一人で充分だ……。


 人の目も気にせずに地面に寝そべりながら、そんなことを考えていると。


 ――ピコン。


 突然、スマホが鳴り出した。


 この着信音は……はは、ひよりだな……。

 多分、いつもの(・・・・)メッセージだろうけど……和樹と一緒にいるのに、マメだなあ……。


 ポケットからスマホを取り出し、そのメッセージを見てみる。


『優くん、頑張れ!』

『誕生日の海デート、楽しみにしてるね!』


「は……はは……」


 それを見た瞬間、お腹の底から(わら)いがこみ上げてくる。


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……!」


 涙に(まみ)れた僕は、夜になっても狂ったように(わら)い続け……そして、慟哭した。

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼8/19に書籍第1巻が発売します! よろしくお願いします!▼

【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ