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二人の休日③

「はは……もう落ち着いた?」


 僕の胸に顔をこすりつける柿崎さんに、苦笑しながら尋ねる。


「グス……う、うん……本当に君って、一日一回は私を泣かせるよね……」

「いやいや、それって僕のせい!?」


 理不尽なことを言われてしまったので、僕はすかさず抗議した。


「そうだよ……直江くんは、こうやって喜ばせて泣かせて、私を()からびさせてしわくちゃにさせるつもりなんだ」


 泣き腫らした目で胸の中から僕を見上げる柿崎さん。

 でも……はは、完全に揶揄(からか)ってやるって瞳をしてるんだけど。


 だったら。


「そうだよ、僕はもっともっと、君を喜ばせて泣かせるんだ。もう、どうやったって泣くことができなくなるくらい。もう……笑うことしかできなくなるくらい」

「あう……また、すぐそういうことを言うー……」


 柿崎さんはまた僕の胸に顔をうずめ、その表情を見せてくれようとしない……って。


「……(ジー)」


 ……店員さんが、店の中から満面の笑みでサムズアップしてくるんだけど。


「か、柿崎さん、そろそろここから離れよう……」

「え? あ……う、うん……」


 彼女も店員さんや他のお客さんの視線に気づいたらしく、僕達はそそくさとその場から離れた。


 ◇


「さて次は……」


 などと考えていると。


「あう……さ、さすがに今日はもうお腹いっぱいだよお……」


 柿崎さんは両手で顔を覆ってしまった。


「じゃ、じゃあ最後に一か所だけ付き合ってもらってもいいかな……」

「え? あ、う、うん……ホントに、次で最後だよ? あと、お金を使うようなのもダメ」

「わ、分かったよ」


 まあ、今から行くところは、お金なんてかからないしね。


 ということで。


「うわあああ……!」


 ビルの屋上にある展望台に来ると、綺麗に輝く夕陽を眺め、柿崎さんが感嘆の声を漏らす。

 うん……彼女に、この景色を見せてあげたかったんだ。


「ホラ、あのあたりが僕達の住むアパートのあるところじゃない?」

「え? どれどれ?」


 かなり先のほうを指差すと、柿崎さんは目を細めながら見る。


「あは! さすがに遠すぎて見えないね!」

「そうだね……そして、アレが僕の通っている大学だよ」

「う、うん……“中法(ちゅうほう)大学”、だよね……」

「うん……」


 柿崎さんが“中法(ちゅうほう)大学”を目指していて、実際に合格していたことは、武者小路さんから聞いて知っている。

 そんな目の前にある夢を諦めなきゃいけない現実に、柿崎さんはどれほど胸を痛めたんだろうか……。


「……ねえ、知ってる? うちの大学って結構実力主義的なところがあって、単位取得の成績判定はテストとレポートで決めるんだよ」

「そ、そうなんだ……」

「そう。だからね? 誰が講義に出席しているかどうかなんて、一切見てないんだよ。それもあって、よくうちの学生じゃない知らない人なんかも結構いるんだ」

「え……?」


 そう言うと、彼女は僕を見た。


「だから、さ。今度一緒に、講義を受けてみない? まあ、つまらないかもしれないけど」

「あ……」


 僕がそう告げた瞬間、彼女は目を見開いた。


「そ、そんなことしても大丈夫、かなあ……」

「もちろん。誰も気にも留めないし」

「……わ、私のこと知ってる人とかいたら、それだけで君に迷惑が……」

「大丈夫大丈夫! 今日だって、僕達が街でご飯食べたり買い物したりしても、誰も君のことに気づいてなかったじゃない」


 ……まあ、柿崎さんが可愛いからチラ見してた男連中はチラホラいたけど……。


「そ、そっか……私が、“中法(ちゅうほう)大学”で授業、受けられるんだ……」


 自分が講義を受けている風景を思い浮かべているんだろう。

 柿崎さんは時折クスリ、と微笑んだり、考え込んだり、色々と忙しそうだ。


「それで……どう?」

「う、うん……直江くんが嫌じゃなかったら、その……ど、どうかよろしくお願いします!」


 そう言って、柿崎さんは深々と頭を下げた。


「はは! じゃあ、部屋に帰ったら後期授業の時間割を見て、どの講義を一緒に受けるか選ぼう!」

「うん! うわあ……まさか私が、“中法(ちゅうほう)大学”の授業を受けられる日が来るなんて……本当に、君と知り合ってから毎日が夢みたいだよ……」


 口元で両手を合わせ、瞳に涙を溜めながらはにかむ柿崎さん。

 夕陽に照らされた彼女の姿は、どこか幻想的で、吸い込まれそうなほど綺麗で……。


「な、直江くん……そんなに見つめられると、そ、その……恥ずかしいよ……」

「へ!? あ、ご、ごめん!」


 彼女に指摘され、僕は思わず顔を背けた。


 すると。


 ――ぴと。


「か、柿崎さん……?」

「ん……少しだけ……ほんの少しだけでいいから……」


 僕と柿崎さんは寄り添いながら、ただ静かに夕陽を眺めていた。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
― 新着の感想 ―
[良い点] ぴと。はえぐいっす!柿崎さん!
[一言] あとは主人公があと一歩踏み出すだけって感じですね。 いつトラウマのことを伝えるんだろう? 2人で乗り越えてイチャラブしまくって欲しい!(今も結構糖度高めだけど)
[良い点] もうバカップル間近? [一言] 本当に幼馴染みと偽親友は最後の方に少しだけ登場する程度で良いくらいの物語ですね。 二人がどうやって幸せになるかしか興味がありません!
感想一覧
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