合コン
「お、俺達が一番乗りみたいだぞ」
今日の合コン会場に着いてみると、男側も“憧渓女子大”の女の子達も、まだ誰も来ていなかった。
確かに僕達も開始十五分前に来たとはいえ、さすがにどちらの幹事も来ていないっていうのはどうかと思うけど……。
「はは、まあまあ、俺達は気楽に待とうぜ」
「そうですね……」
とりあえず、幹事席に近いところに、僕と先輩は並んで座る。
すると。
「あら……?」
「あ……」
ちょうど、女性側の幹事である武者小路さんが入って来た。
「へえ……冗談だと思ったのに、本当に来たのね」
「……まあ」
僕のほうを見ながら、武者小路さんがクスリ、と笑った。
い、意外だな……てっきり僕は、いつもみたいに罵られたりするのかと思ったのに……。
「まあでも、瀕死程度から重症患者レベルではあるけど」
……前言撤回。やっぱり武者小路さんは武者小路さんだった。
「いやあ、まさか“憧渓”の女の子達と合コンなんてなー!」
「ふふ……楽しみです……」
賑やかしくも、ぞろぞろと合コン参加者がやって来て、結局は五分前には全員揃った。
ということで。
「「「「「カンパーイ!」」」」」
簡単な自己紹介を済ませると、幹事の号令で乾杯をし、合コンがスタートした。
「と、ところで、皆さんはやっぱり“憧渓女子大附属女子高”から今の大学に進学されたんですか?」
そして、僕は周りの空気を一切読まずに、そんな質問を投げかけた。
「うう……! 優太がこの合コンに積極的になってくれてる……!」
……何故か佐々木先輩が、嬉しそうに涙ぐんでる。
い、いや、僕がこの質問をしたのは、ちゃんと目的があるからで、別に合コンに前のめりになってるわけじゃないんだけど……。
「ふふ……そうですね。女性側は全員、“憧女”出身です。もちろん、幹事の武者小路様も含めて」
参加している女の子の一人が、微笑みながら答えてくれた……って、武者小路……様?
僕はチラリ、と武者小路さんを見やると。
「……あなた、何か言いたいことでも?」
「い、いえ! 何も!」
ギロリ、と睨まれてしまい、思わず背筋をピン、と伸ばしてしまった。
「だけど、ひょっとしてあなた、“憧女”をステータスか何かだと勘違いしてるのかしら?」
底冷えするような声で武者小路さんが言い放つと、それに合わせて佐々木先輩を除く男性陣が一斉に顔を逸らした。あー……みんな、そんなふうに考えてたんだ……。
「まさか。どの学校に通ってたかとか、そんな下らない理由で人を値踏みするような考えはありませんよ」
大体、そんなこといったら僕なんか、高校を一年留年した上に、定時制の高校で社会復帰を目指してるような、世間の枠組みから外れてるんだから。
「……今のは私の失言ね。ごめんなさい」
「へ……?」
武者小路さんの謝罪が意外すぎて、僕は呆けた声を漏らしてしまった。
「……なによ」
「い、いえ! 別に! なんでも!」
それでも、ジト目で睨んでくるあたり、やっぱり武者小路さんだな、と再認識するに至った。
◇
「ちょっと席を外すわね」
合コンが始まって十五分ほど経過したあたりで、武者小路さんが中座した。
「ぼ、僕もちょっとトイレに行ってきます」
そして武者小路さんの後を追いかけるように、僕も席を立った……って、本当に武者小路さんを追いかけたんだけど。
すると。
「ふふ……私に何か用があるんでしょう?」
どうやらお見通しだったようで、武者小路さんが口の端を持ち上げながら待ち構えていた。
「う、うん……実は、教えてほしいことがあって……」
「へえ……ひょっとして、“憧女”のことかしら?」
「あはは……うん……」
彼女の慧眼に、僕は思わず苦笑してしまう。
「ふうん……どうやら話が長くなりそうだし、場所を変えるわよ」
「え!? み、みんなは!?」
「別に、私達がいなくなっても困らないでしょう?」
そう言うと、そのまま武者小路さんは店を出てしまった。
「ま、待って!」
僕も慌てて追いかけ、店のすぐ近くにあるカフェに入った。
「それで……何が知りたいの?」
大量の砂糖を入れたコーヒーを一口含みながら、武者小路さんが尋ねる。というか彼女、甘党なのかな……。
「う、うん……ええと、武者小路さんは今、二十歳だよね……?」
「? そうだけど?」
「だったら……一つ上の先輩で、“柿崎初穂”っていう女の子、知ってる……っ!?」
僕が柿崎さんの名前を告げた瞬間、武者小路さんは目を吊り上げ、険しい表情を見せた。
「……どういう意味で尋ねてるのかしら?」
「ど、どういう意味……って……」
……やっぱりこの話題は、“憧渓女子大学附属女子高”ではタブーなんだろうか。
僕も武者小路さんには散々罵られたりしたけど、それでも、ここまで怒っている彼女を見たのは初めてだ。
でも。
「……今、一人の女の子が苦しんで、悲しんで……今にも壊れてしまいそうになってる」
「……それで?」
「僕は、“柿崎初穂”さんについて、本当のことが知りたいんだ。その、一人の女の子を救うために」
僕はあえて、その女の子が柿崎さんだとは言わなかった。
そうじゃないと、柿崎さんが僕と一緒に暮らしていることがバレて、何かの拍子にまた嫌がらせを受けてしまうかもしれないし、何より、僕はこの武者小路さんをまだ信用するわけにはいかない。
「……ふうん、被害者の誰かに肩入れでもしてるの? だったら私から話すことなんて何もないわ」
そう言い放つと、武者小路さんが席を立とうとした。
「待って! ……その子は、被害者じゃない。だけど、一番被害を受けてるんだ……」
「っ!?」
僕はがそう告げた瞬間、彼女は息を飲んだ。
「……そう、なのね」
そして武者小路さんは、今にも泣きそうな表情になり、すとん、と力なく席に座った。
多分、今の僕の一言で、誰なのか分かってしまったんだろう。
だけど……彼女の反応を見る限り、少なくとも敵ではなさそうだ。
「……いいわ、話してあげる。“柿崎初穂”さん……私の、一番尊敬していた先輩のことを」
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