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決意

「すう……すう……」


 深夜一時を過ぎた頃、柿崎さんは泣き疲れたこともあり、早く眠りについた。

 で、僕はというと、スマホで例の事件についての記事を読み漁っていた。


 もちろん、決して彼女の過去を掘り下げたいとか、彼女に対して疑念や嫌悪感があるとか、そういった類のものではなく。


 ただ……僕は、彼女の力になりたいと思ったから。


 まだたった三日しか一緒にいないけど、それでも、あんな些細なことで喜んで泣いて、理不尽を受け入れるかのように自分を押し殺し続けていて……。


 こんなの、僕じゃなくたって許せるわけがないんだ。


 なのに彼女ときたら、僕がひよりのことを思い出して、ちょっとでも顔を曇らせたりするだけで自分のことは放ったらかしで僕なんかの心配なんかするような女の子なんだ。


「本当に……世間の連中もクズだらけだ」


 記事を斜め読みしながら、僕はポツリ、と呟く。


 だけど、これだけ記事を読んで事件の詳細は大体つかめた。


 ――『柿崎ファーム』巨額詐欺事件。


 海外で新たに発見された宝石、“姫水晶”が将来爆発的に価値が上がると(うた)い、その鉱山の取得権を分割して数多くの人達に売りさばき、巨額の資金を手に入れるというもの。

 実際には、“姫水晶”と呼ばれる宝石は何の価値もないただの水晶で、当然ながら資産価値もなにもあったものじゃない。


 それでも何故騙されたのかといえば、ターゲットを定年を迎えたお年寄りに限定していたこと、その強引な販売手法、有名人を多数起用したステマ戦略による情報操作、そして、肝心の鉱山が中央アメリカ大陸にあり、その真偽を確かめる手段がなかったこと。

 こういった要素が巧妙に仕掛けられ、被害者はどんどん拡大していき、それと共に『柿崎ファーム』は急成長を遂げた。


 だけど……そんな『柿崎ファーム』が築き上げた帝国は、あるネット画像の拡散によって(もろ)くも崩れ去ることになる。


 結局……その鉱山の場所を突き止められ、“姫水晶”と呼ばれる宝石は存在しないことが露見してしまったのだ。


 それからというもの、マスコミ達は連日この事件について報道し、『柿崎ファーム』から献金を受け取っていたとされる政治家や著名人との癒着の問題など、様々なことが明るみとなった。


 そして……『柿崎ファーム』は裁判所に自己破産を申請。

 結局、被害総額は数百億円にも上り、被害者達には一人当たり百円にも満たない額だけが配当されるという、本当に救えない結果となってしまった。


 当然ながら、詐欺事件としても警察は『柿崎ファーム』の代表取締役社長、“柿崎穂高(ほだか)”を全国指名手配。


 しかし。


「……現在も指名手配中で、未だに逮捕には至っていない、か……」


 つまり、柿崎さんの父親は、今も逃げ続けている。

 娘をこんな目に遭わせながら、その責任を一切取ることもなく。


 結局のところ、まだ捕まっていないこともあるからこそ、彼女への風当たりがこんなにもキツイってのもあるんだろうな……って。


「そういえば……柿崎さんのお母さんはどうしてるんだろう……?」


 普通に考えれば、家族バラバラになったとはいえ、彼女のお母さんも同じように世間の目から逃げ続けていると考えるのが正解だろう。


 でも……柿崎さんのお母さんは、彼女がこんなに苦しんでいることを知ってるんだろうか。

 知っていてもなお、柿崎さんを見捨てたってことなんだろうか……。


「ふう……とにかく、もう少し詳しく調べてみるか……」


 幸い、彼女の過去について知っているかもしれない人物と、今度の土曜日に会えるんだ。

 ……合コンなんて、どうしようもない場だけど。


 それでも、苦痛でしかない合コンも、こうやって目的があれば意味があるように思えてくるから不思議なものだなあ……。


 はは……ホント、僕は何をやってるんだろう。

 僕はひよりの裏切りに絶望して壊れていた(・・・・・)はずなのに、気がつけば彼女のために何とかしてあげたいって考えるようになってて。


 すると。


「う……んん……お父、様……お母様……」


 寝返りを打って、柿崎さんはそんな寝言を言った。

 そのまぶたから、一筋の涙を(こぼ)して。


「柿崎、さん……」


 そんな彼女を見つめながら、僕はギュ、と拳を握った。

 まずは……僕にできることからしよう。


 そう決意し、僕も眠りについた……って!?


「すう……すう……」

「か、柿崎さん……!?」


 柿崎さんが僕の布団まで転がってきて、抱きつかれてしまった……。


「と、とにかく、自分の布団に戻ってもらわないと」


 僕は身体を起こ……せない。

 というか、寝ぼけてるからってそんなに強く抱きしめられると身動きとれないんだけど!?


「ちょ、ちょっと、離れ……っ!?」


 その時。


「すう……直江、くん……」


 僕の名前を呟き、彼女は眠りながらはにかんだ。


「……ひ、一晩くらい、このままでもいいか……」


 結局僕は彼女を自分の布団へと戻すことを諦め、そのまま同じ布団で一緒に寝た。


 だ、だけど……僕の身体に、柿崎さんの柔らかくて大きい胸をすごく押し付けられてるんだけど……。


 ぼ、僕、寝られるかなあ……。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
― 新着の感想 ―
[気になる点]  確定した罪だと思っていたけど、ここへ来てちょっと疑問も抱いてきた。  これだけ良い子に育てた両親がそんな事主導するかね?  本当の実行犯、或いは両親を操作した黒幕なんかが居る?  単…
[一言] うん、正直、ヒロインは凄く微妙な位置にいるのですね。 彼女の言動からすると、相当に良い育ちであることは自明ですね。 彼女は本当の意味無実かどうかは、彼女は親が詐欺で搾り取った金の恩恵を受けた…
[一言] 勿体無くて寝られない(笑)
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