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あの日交わした約束  作者: 子美夏
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第八章「回り道」

数日が経ち、土曜日になった。予定していた通り、ちゃんとした服を買いにでかけた。千秋と大地は用事があって来れなかったから、俺は一人で出かけた。そう思っていた、が、となりには千葉さんがいる。どうしてこうなるのか・・・。


そもそもの発端は、俺がアパートの外に出たときのことだ。東京の地理には詳しくなかったから、スマホで道を確認しながら歩いていた。ただそれでも、どこに行けばよいのかまったく分からなかった。あっちへ行ったりこっちへ行ったりを繰り返している途中で、千葉さんにばったり出くわしたのだった。


「井上さん、おはようございます。今日はこちらで何を?」


「ああ・・・その、道がまったくわからないんだ。」


「えと・・・どこへ行こうとしてるんですか?」


「ああ、具体的には決めていないが・・・。とにかく服を買いに行こうと思って。」


「つまり、この街に来たばかりということですか?」


「ああ、先週引っ越してきたばかりなんだ。」


「それなら、私がいろいろと案内してもいいですよ。」


「いや、そんな。時間を割いてもらうわけにはいかないだろう。」


「いいんですよ。今日はとくに予定もありませんから。」


「なら・・・、よろしく頼んだ。」


そうして、彼女のツアーガイドが始まった。女子高生に水先案内人を務めてもらうなんて、なんだか情けない。実はリナに助けてもらおうと思って電話をしたんだが、どうやら彼女も今日は予定があるようだった。土曜日、みんな忙しいんだな。


まずはショッピングモールへ行くことにした。俺の人生で初めての体験だった。子供の頃、テレビで見たことはあったが・・・。見栄を張って堂々とした風を装って中に入った。


千葉さんを見ると、とても楽しそうな様子だった。もしかしたら、彼女もなにか買いたいものがあるんだろうか。周りを見渡すと、服屋の多さに驚かされる。さて、どこで服を買おう。まったく見当がつかないので、とりあえず千葉さんに何かおすすめはないか聞いてみようか。


その質問を切り出す前に、千葉さんが服屋に入っていってこちらに声をかけてきた。やはり、千葉さんも服を買いたいんだろう。急いでいるわけではないので、彼女に付き合うことにした。ついでに自分の分も探しておこう。あの二人が見たら、きっとバカにしてくるだろうな・・・。


そうして俺たちはいろんな店を見て回った。ある店で、千葉さんがマネキンが着ている白いサマードレスをずっと見ていることに気がついた。きっとあれが気に入ったのだろう。一方、俺はまだ何を買うべきか迷っていた。


ふと、視線の先にようやく良さげな服を売っている店があるのに気づいた。「ちょっと待ってて」と千葉さんに伝え、その店まで行った。近くで見ると、なんだかますます気に入った。その服レジまで持っていき、購入することにした。その後すぐ、千葉さんのもとに戻った。彼女は店の外で俺を待っていたが、なんだかさっきまでの楽しそうな雰囲気とは違っていた。


「どうしたの?」と聞いた。


「いえ、なんでもありません。ところで、良さそうなお洋服は見つかりましたか?」


「うん、今買ってきた。千葉さんは?さっきまであのサマードレスを見ていたけど・・・ほしいの?」


「はい、でもお金が足りなくて・・・。やっぱり、次の機会にします。」


「ちょっとこれ持ってて。」


「あ、はい・・・。」


俺はそのサマードレスを持ってレジに向かうと、迷わずそれを購入した。けっこう値は張ったが、超高級ブランドのような法外な値段ではなかった。すぐに千葉さんのところへ向かい、サマードレスが入った袋を手渡した。


「あの、これは?」


「受け取ってくれ。今日の道案内のお礼だ。」


「でもこんな高いもの・・・。」


「数日前にバッグの上で寝てしまった謝罪も含めてな。気にしないでくれ。」


「わ、わかりました・・・。ありがとうございます井上さん。でもきっと、いつかお礼はしますからね、」


すると突然、俺のスマホに通知が来た。千秋からのメールだった。「今日は早く帰れない。どこかでご飯食べてきて!」とのこと。一体千秋はどこで何をしているんだろう?俺は料理を作るのは億劫だし、作ったとしてもとんでもない味になる。だから、外で食べることにした。


千葉さんも誘うべきだろうか?いや、そんなことをしたら、あらぬ誤解を招くかもしれない。さて、どうしよう。ただ、例のごとく道がわからないので、また千葉さんに頼ってみるとするか・・・。


「えーっと千葉さん、家に帰る前に、どこかでご飯食べる?」


まずい、やっぱり口説いてるみたいになってる。


「あ、はい。良いですよ。」


彼女は頷いてくれた。


「それで・・・やっぱりこの辺は詳しくないから・・・。どこかおすすめの店はあるかな?」


「はい、良いお店があります。」


彼女に連れられるまま、レストランへと向かった。入り口には「セブンスパイスレストラン」という大きな看板が掲げられていた。店名から察するに、スパイスや香辛料ふんだんに使ったエスニック料理を提供しているお店なのだろう。席について、俺はカレーを注文した。


食べ終えると、俺達は家路についた。なんだか、予想外にいい経験になったな。今度は機会があればリナともデートしてみようかな・・・。いや、まてデート?千葉さんとのこれはデートにカウントされるのか?ただ、実際のところ、千葉さんと一緒にいるのは楽しかった。あの二人にはバレないことを願っておこう。

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