第七章「つかの間の休息」
これって、ジャマが入って話題が変わるっていうお決まりのパターンじゃないのか!?伝えても良いのだろうか・・・。
「あ・・・その・・・。」
「・・・。」
いや、もう打ち明けてしまおう。こうなりゃヤケだ。彼氏にぶん殴られないことを祈りばかりだ。
「実は・・・君のことを探すためだったんだ。リナ。」
「え、私?どうして?」
「その、まだ六年前のことで言っていなかったことがあって・・・。記憶を失っているから、あまりに混乱させないようにと思って。」
「もし言わないほうが良いと思うなら、無理にとは言いません。個人的なことなら、なおさらです。」
「いや、良いんだ。結局いつかは言わなければならないから。」
「それで・・・。」
「六年前、君が村を出た日。君が走り去る前に僕に手渡してくれた手紙があるんだ。わからない言葉で書かれてあるけど、その手紙は今でも持っているよ。」
「当時のものなら、ドイツ語だと思います。もしよかったら、今度それ、見せてもらえますか?」
「うん、わかった。」
「他にもなにかありますか?その手紙のこと以外で。」彼女は首を傾げていった。
「あるといえばあるけど・・・まあ、些細なことだ。」
「そうですか・・・。」
まさか彼女が俺にキスをしたなんて事実を言うわけにはいかないだろう。彼女は記憶を失っているし、万が一作り話だと思われたらかなわない。
例の男性についても聞きたかったが、彼女を口説いているように思われるかもしれない。とりあえず、これらの件については保留にしておこう。
そして、過去のことは置いておいて、大学の話などを中心に会話を続けた。いよいよ、帰る時間が近づいてきた。店を出て、俺はリナと一緒に駅に行って、それから別れた。
聞きたいことをすべて聞くことはできなかったが、少なくとも今の彼女の現状については把握することができた。少しずつではあるが、前進している。さて、そろそろバイトの時間だ。
着替えるために休憩室に入る。千葉さんもそこにいた。僕に笑顔で挨拶してくれた。彼女は僕と同じ時間帯のシフトだ。この人は、本当に明るい人だ。大地と千秋はまだ着ていなかったので、おそらくまた同じ時間帯なのだろう。
そして昨日のように、ずっと接客しているが、今回は問題なく終わりそうだ。今日はお客さんの数はそれほどでもなかったが、やはり他のウェイターはいないようだ。さっきリナとここで食事した時は三人くらいはいたのに、どうして俺のシフトのときはいないんだ・・・!
ふう、やっと終わった。さて、休憩室で一休みしてから、アパートに帰るとするか。千葉さんのバッグの上で寝ないようにしないと。あれは恥ずかしかった。寝ている間によだれなんて垂らしていないよな・・・。あんな失敗は二度としたくない。
ようやく一眠りできる。昨晩はちゃんと寝れなかったから、今になってどっと疲労が溜まり、眠くなってきた。ようやく、全てが少しずつ落ち着いてきたような感じがする。リナとも話せたし、バイトも決まったし・・・。横になると、僕の視界は徐々に暗くなっていった。
「井上さん、起きてください。井上さん。」
「ううん・・・。」
「閉店時間ですよ。」
「あ、ごめん・・・。」
同じ過ちは犯すまいと言った直後なのに・・・、俺ってダメだな。しかも千葉さんに起こされてしまった。目覚まし時計でも用意したほうが良いかもしれない。
「井上さん、体調は大丈夫ですか?」
「ええ、昨晩はよく眠れなかったので・・・。」
「え・・・?」
「本当に大丈夫ですか?昨日も寝ていましたので・・・。」
「いえ、この二日間ちょっと忙しくて・・・。もう大丈夫です!」
「そうですか・・・。」
なんだか俺のほうが年下みたいだ。どうしてこうなるんだろう。まあ、そもそも俺が悪いんだが・・・。
荷物を整理して、アパートへと向かった。もちろん、千葉さんと一緒だった。こんな時間に女子高生と歩いているところを誰かに見られたら、間違いなく警察に通報されるだろうな・・・。誤解されても仕方のないことだが。昨日とは違って、千葉さんと少し話をした。彼女は高校二年生だそうだ。
アパートに着くと、挨拶をして別れた。部屋に入ると、大地がニヤニヤしてこっちを見ていた。
「リナの代わりか?」大地が聞く。
「何を言ってんだ。」
「あのJKと昨日から一緒に帰ってるよな?」
「あのな、たまたま道が一緒なだけだ。そんなつもりは毛頭ない。」
「ははは、そうか。」
「疲れてんだ。ちょっとぐらい休ませてくれ。」ため息まじりでそう答えた。
食事と風呂を済ませて、すぐに自分の部屋に向かう。
そういえば、来週はパーティーがあったな。もっとかっこいい服を買いに行くべきだろうか。パーティーで浮きたくはないしな・・・。パーティーともなれば、みんな高そうな服を着てくるんだろう。リナも含めて。都会の生活に溶け込めるようにもっと努力しなければ。
都会と田舎にこんな違いがあるなんてな。リナにふさわしい人間になるためには、もっと都会の人間を見習う必要がある、と思う・・・。今週の土曜日には、服を買いに行こう。バイトも始めたことだし、服を買うくらいなら、お金には余裕ができるだろう。
リナか・・・。まさかあんなことになっていたとはな。彼女の母親は、六年前のあの黒髪の女性だったんだな。ということは、彼女の父親はあの中にいた金髪の男性の誰かだったんだろう。俺の記憶が正しければ、金髪の男性は少なくとも三人はいたはずだ。しかし、よりによって殺人だなんてな・・・。