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9.商業ギルドを利用しよう

 冒険者ギルドを利用した次の日、商業ギルドにやってきた。

 作業場を借りてみるためだ。とりあえず2時間の利用申請をする。3畳くらいの部屋に魔導コンロ2口と作業台と窯があるだけの部屋だ。どうやら道具は持参しないといけないようだ。


 今日は、体力回復ポーション、治癒ポーション、毒消ポーションを作製する予定だ。2時間なら、それがギリギリの時間だろう。


 ドアもあり、周りの目はない。


 アイテムボックスから鍋を出し、師匠に習った方法でポーションを作っていく。一定の作業をこなしていくこのポーション作製、好きなんだよね。


 グツグツグルグルグツグツグルグル


 バレない程度に光魔法を付与した方が良質のポーションができるんだけど、目立つ可能性があるから、ここは普通に作っていこう。

 出来上がったものから、商業ギルドで買ったポーション瓶に入れていく。体力回復ポーション10本、治癒ポーションと毒消ポーションが5本ずつ出来上がった。

 受付に行き、全て売ってしまおう。


「作業部屋の使用終わりました。それと、このポーションを売りたいんですが、ここで買取してもらえますか?」


「はい。買取ですね。ここで大丈夫ですよ。商品を検品いたしますので、少々お待ちください」


 受付のお姉さんへポーション瓶を預けると検品しているのか何やら確認している。商業ギルドなのだから、搾取や不当に安く買い取られる事もないだろう。そもそも、レイにはポーションの相場がわからない。受付へ全てを委ね待っている間、ボーッと店内を見回しながら昼からの予定を考えていた。


(昼からどうしようかな。何か料理でも作ろうかな。アイテムボックスに入れておけば腐らないし冷めないし。冒険中に簡単に食べられるように、サンドイッチとかの軽食があるといいかな。それに、そろそろ甘味も食べたいんだよね。ケーキは材料や作業工程がややこしいから、カステラでも焼こうかな。カステラなら材料も少ないし。師匠と一緒に採った蜂蜜の在庫もあったし。この世界に来てからおやつ食べてないのよね。そもそも、スイーツ屋を見てないけど、甘い物って食べないのかな?貴族にならないと食べれないのかな)


「お待たせしました」


 昼からの調理に思いを馳せていると、検品が完了していた。


「素晴らしいポーションですね。全て効能が良い物です。中級ポーションとして買い取ります。調合レシピの違いで効能が変わってくるのは知っていますが…… その年齢で中級ポーションを作れるとは……。このレシピは、教えて頂く事はできませんか?」


「祖父に教わった秘伝のレシピなので、すみませんがお教えできません」


 あのポーションは中級になるんだ。あれ?中級ポーションって凄いの?師匠!そんなポーションだったら先に言っておいてよ!これで中級なら、光魔法付与したらどうなるのかな?作らなくて良かった。


 眼光鋭くこちらを窺ってくる受付嬢に、レイの背中は嫌な汗でびっしょり濡れていた。そもそも、ポーションについての市場調査を怠っていたレイには、中級ポーションの価値がわからない。


「そうですよね。無茶を言ってすみません。中級ポーションを作れる方はいるにはいるんですが、貴族に囲われているため、ギルドになかなか卸して貰えないんですよ。体力回復ポーションは一本銀貨7枚、治癒ポーションと毒消ポーションは1本金貨1枚で買い取ります」


 つまり今回は金貨17枚の稼ぎか。なかなか稼いだな。ま、珍しい薬草も使ったから採取に行かないと量産は難しいが。中級ポーション作れる人いるんだ、良かった。ただ、貴族に囲われているという事は、取り扱いに気をつけないと目をつけられる可能性があるな。良い稼ぎにはなるけど、さて、今後はどうしようかな。


「では、代金の金貨17枚です。お受け取りください。それと、商業ギルドでの買取カードを発行致しましたので、次に売りに来る時はこのカードを提示ください」


 買取カードか。銅色のカードを手渡された。この作業を繰り返して信頼を得られたら、商業ギルドの会員カードが手に入るってことね。


「昼からももう一度作業場を借りる事はできますか?」


「部屋が空いていたら借りれますよ。この時期は冒険者クエストに行く方が多く、部屋は空いてますので、ぜひ、ご利用ください」


 冬になる前、今の時期は魔物も採取も依頼が多いんだろうな。それにしても、今日一日で金貨17枚も手に入ってしまった。日本で我武者羅に働いて生活していた時よりも一度の稼ぎが良くて正直驚いている。この調子なら、自分のための時間を作っても問題ないだろう。

 よし、昼からは市場に材料買いに行って自分用の保存食を作ろう。




 ◇◇◇



 太陽が一番高い位置へ移動し、街中を明るく照らしている。その明るさとは対照的に、八百屋などの生鮮品を売っている露天の一部は既に店じまいを始めていた。


 レイは食材を探し、露天や市場の多い通りを一人歩いていた。視線をさりげなく周囲へと流し、市場で買い物をしている主婦や子供が、どれだけの硬貨を渡し何を買っているのか。その釣銭の枚数はどのくらいか。

 師匠から物価は聞いていたが、情報が古い可能性もある。また、食材は毎日必要になる物なので、一番参考になる情報になると判断していた。

 日本で生活していた時の自分の知識を参考に、物価を予測して自らの認識している価値と比較する。物価に関してそれほど差がない事も確認が取れた所で、パンや野菜類、小麦粉・砂糖・牛乳・卵を購入し、再び作業部屋へと足を向けた。

 欲しい食材は手に入ったが、やはり甘味は飴玉が売られているくらいで、チョコやケーキといった物は販売はされていなかった。また、コーヒーや紅茶など飲料に関しても見当たらなかった。唯一見つけたのが、果実水だ。貴族の生活はわからないが、この世界、一般庶民の嗜好品は自力で作成する必要があるようだ。


 買った材料を手にし、再び商業ギルドの作業部屋を訪れた。まずは、カステラ。せっかく作業場借りたんだから、たくさん作ってアイテムボックスに入れておこう。

 道具は師匠が残してくれた道具がある。師匠と暮らしてた森の中では、小麦粉や砂糖は手に入らなかったから、久しぶりのスイーツ作りだ。ちょっと嬉しい。一人暮らしが長く、自炊していたから、簡単な料理は材料さえあればできるのよね。


 さあ、作業開始だ。

 ふんわりさせたいから、まずは卵を卵黄と卵白に分ける。

 鍋に牛乳と蜂蜜を入れ、軽く温め蜂蜜を溶かしておく。

 ボウルに入れた卵白を、途中砂糖を入れながら、風魔法を活用して卵白が真っ白になりツノが立つまで泡立てる。

 卵黄、蜂蜜牛乳を入れ混ぜる。

 小麦粉を加え、さっくりと混ぜ、型に入れ窯で焼く。型3つ分作ってみた。


 カステラを焼いてる間に、サンドイッチでも作ろうかな。久しぶりのまともな料理はとても楽しくて、思わず鼻歌を歌ってしまう。

 サンドイッチは簡単だ。マヨネーズも売っていたから食材を切って挟めばいいだけだ。


(サンドイッチは少し寝かしといた方が具材が馴染んで美味しいよね。寝かしている間、後ろの棚にでも置いとこうかな。もう少ししたらカステラも焼き上がるけど、少し時間があるから、ジャムでも作って……)


 後ろの棚にサンドイッチの入った籠を置こうと振り返った瞬間、真後ろの頑丈な壁にぶつかった。


(?!!!)


 思わず取り落とした籠を、


「おっと、危ないな」


 片手でキャッチしてくれた。

 いやいや、してくれたじゃなくて、この部屋、私が借りてるんだけど。っていうか、この人達いつのまに入ってきてたの???完全に気配消してたよね?


 背後に立っていたのは、ガッチリした体格、身長2mくらいあるんじゃないかって男性2人だった。

 1人は40歳くらいで茶色い短髪、左目のところに大きな傷がある。

 もう1人は30歳後半くらいでオレンジがかった明るい茶髪、長い髪を後ろで一つに束ねている。もう1人よりは細身だが、筋肉はしっかりついた体だ。


 思わず短剣に手をかけた私の手を、


「待ってくれ。不審者じゃない。まあ、無断で入った事は謝るよ」


「不審者じゃないって…じゃあ、誰なんですか?」


 後ろに下がって距離をとろうとしたが、作業台が背に当たっただけで逃げられない。


「ワシは冒険者ギルドのギルドマスターのゴードンだ。こっちは商業ギルドのギルドマスターのローラン。驚かせたようですまんな」


 ニカッと白い歯を見せながら短髪の男性が名乗ってきた。目線を合わせるためか、腰を折って話してくる。顔が近いからやめてくれ!

 女一人の部屋に無断で押し入っている時点で充分不審者だと思うのだが。

 白い歯を見せて笑顔を見せているつもりだろうが、見下ろしてくる視線は鋭く、厳つい体格の風貌は、対面した女子供は即座に泣き出すのだろうなと思ってしまう。


「それより、窯の中身は良いのか?」


 商業ギルドのギルドマスターと教えられた長髪の男性が冷静に声をかけてきた。レイに興味がないのか、作ったサンドイッチと窯にばかり視線がいっている。


「あ!ダメ!焦げちゃう!」


 カステラが!開けてみると、ちょうど良い焼き加減だった。

 全部出して、一息ついていると、


「これだ。この匂いが外までしてたんだよ。ねぇ、これ一つ売ってくれない?」


 カステラの匂いに釣られてやってきたのか。換気扇のない室内には確かに甘い匂いが充満している。匂いの事までは考えていなかった。それにしても、商業ギルドのギルドマスターに目を付けられるとは…カステラ、恐るべし。冒険者ギルドのギルドマスターもレイから視線を逸らし興味深げにカステラを眺めている。


「いいですけど、蜂蜜も使ってるので、高いですよ」


「蜂蜜か。じゃあこれで。相場より多いはずだよ」


 金貨1枚を台に置いてきた。


「いやいや、多すぎですよ!お菓子に金貨なんて!」


「いや、こっそり部屋に侵入して驚かせてしまったお詫びだよ。凄く良い匂いがしてたから、思わず様子を見にきてしまったんだ」


 まあ、無断侵入者に対して優しさなど無用か。ギルドマスターなら、お給料たくさん貰ってるだろうし。それなら遠慮なく貰っておこう。


 レイは、金貨一枚とカステラを交換し、ギルドマスター達を部屋から出した後、カステラをアイテムボックスに収納し、大慌てでサンドイッチをカットしてアイテムボックスへと放り込んだ。


 そこで作業場の使用時間が終わってしまった。結局、ジャムを作る事もできずに、今日の料理は終わってしまった。

 カステラが売れたのは嬉しかったが、突然の乱入者には不快な気分になって宿へと帰っていった。



閲覧ありがとうございました。

今後もよろしくお願いいたします。

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