5.魔術師長からの説明
別室に通された祐樹、茜、真衣の三人は、勧められるままに席へと着いた。
相変わらずローブ姿の人と鎧姿の人に囲まれている。
「紹介が遅れました。私は、アッテムト国の魔導師長、エリック・センシブルと申します」
ローブ姿の男性がフードを取り名乗ってきた。
フードでわからなかったが、この男もなかなかの美形だ。20代後半くらいの見た目。濃い紫色の髪を肩上で切り揃え、切れ長の瞳は綺麗な金色。ローブの刺繍は自分の色に合わせたのだろうか。
「困惑されているでしょうから、簡潔にお話ししますね。皆さんは勇者として我が国アッテムト王国に召喚されました」
「勇者、だって?」
祐樹の隣、小さい声で「やった!王族と結婚できる!勇者×王族!異世界転移で美形だらけはセオリーよね!」と真衣が小さくガッツポーズをしている声が聞こえる。
「そうです。勇者です。我ら人族の世界の東隣に、魔族・獣人族が住んでいる魔族領という世界があります。100年前、その魔族領から攻撃を受けました。近隣国三国と協力し合い、立ち向かっておりました。前回の襲撃はなんとか撃退する事に成功しましたが、次はどうなることか… 。そこで、皆さんの力をお借りしたく、召喚魔法を使いました。召喚魔法では素養のある方を呼び寄せる事が出来ます」
「素養のある者ですか?」
「そうです。ですから、今から皆さんの能力をこの水晶で確認させて下さい」
そう言うと、部屋の隅からメロンサイズの水晶を持ってきた。
「では、お一人ずつ、この水晶に触れてください」
言われるがまま、水晶に触れていった。触れた瞬間、水晶が光り、魔導師長が何かを紙に書き写していたが、知らない文字で読めなかった。
「ありがとうございます。では、皆様、お部屋にご案内致しますので、どうぞおくつろぎください」
「あの… 私達の才能が何か、教えてもらえませんか?魔法とか使えたりします?」
身を乗り出し、側から見てもワクワクしてるのがわかる表情で茜が問いただしていた。確かにそれは気になる。
「はい。皆さん、火・水・風・土の四属性魔法魔法の素質があります。特訓すれば素晴らしい使い手となると思いますよ。魔族軍との戦いの際には活躍が期待できます」
「あの…… 」
おずおずと躊躇いながら片手を上げ、祐樹が声を出した。
「俺達、元の世界には戻れないんでしょうか?俺、子供が産まれたばかりで…… 」
そんな祐樹に、魔導師長は眉根を下げながら、
「召喚は一方通行でして…こちらの都合で無理矢理呼び寄せてしまい申し訳ありません。そのお詫びも込めて、生活面は不自由させないように致しますね。あと、現魔王は世界最大の魔法の使い手と言われています。ひょっとしたら、魔王が帰還の方法を知っているかも知れません。魔族は魔法に長けているので」
「そうですか…わかりました」
「あの!」
次は真衣が頬を染めながら、
「またお会いする事は出来ますか?」
胸元で手を合わせ、媚びるように茜が問う。
この世界に来るまでは、茜も真衣もイケメンと言いながら祐樹に群がってきていたメンバーの一人だ。だが、今は一度も祐樹を見ようとせず、他の男に夢中になっている。その光景が、祐樹は面白くなかった。
「私達は勇者なんだから、魔導師長とも王族の方とも頻繁に会えるわよ。大丈夫よ、ね?」
妙に自信満々に真衣が問う。
その問いには答えず、完璧な愛想笑いで魔導師長は3人をそれぞれの部屋へと誘導していった。
勇者だったのかどうかの結果も伝えられず、魔族領との戦争には参加させられるような事も言ってたが…こちらの意思確認もせず、説明もそこそこに部屋へ案内されていく。
怖い。茜と真衣はこの異常事態に浮かれているような態度だが、祐樹はそんな気持ちになれなかった。
3人バラバラの部屋にされ、茜と真衣と話し合う時間も作れず、祐樹は不安が消えなかったが、人の顔色を窺い、あまり自分の意見もはっきり言わない日本人らしく、何の文句も言えなかった。
◇◇◇
王の執務室にて
「それで、それぞれの能力値はわかったのか?誰が古代魔法の使い手だったのだ?」
不機嫌な態度を隠す事なく問うてくる王に対し、眉間にシワを寄せた魔導師長がメモを見ながら答えた。
「それが… 全員、魔力量はそこそこありますが、私よりも少ないです。中堅魔導師クラスでしょうか。適性についても、3人とも火・水・風・土の四属性全ての適性はありますが、古代魔法については表示されませんでした。魔力量を考えても、とても古代魔法が扱えるとは思えません」
「では、召喚魔法は失敗したということか?」
召喚の間で見た3人、どう考えても望んだ者達ではない。魔力量だけでなく、年齢も。どう見ても30代後半だ。
「それは… わかりません。もう少し様子を見てみない事には… 。特訓で能力が開花するのかもしれませんし」
それまで、ソファに座って紅茶を飲みながら話を聞いていた王子が口を開いた。
「とりあえずわかっている事は、僕の伴侶にはふさわしくないって事だね。彼女達の事は魔導師団にまかせるよ」
見目麗しい娘。それが王子の望みだったが、叶わなかった。自分の倍は生きているであろう茜や真衣の姿を見て、既に興味はなくなっていた。
「そうだな。とりあえず、古代魔法の使い手かどうか確認を急いで行ってくれ」
王の言葉に、魔導師長は恭しく礼をし了承の意を示すしか出来なかった。
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