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4.その頃の王城

「さあ、召喚を始めるか」


 王の一声で、王城の一室にて魔法陣が輝きだした。



 ◇◇◇



 はるか昔、火・水・土・風の4種しかなかった魔法に新たな魔法が生み出された。魔力を使って魔法陣を描き、体の内側へと組み込む。

 今では古代魔法と呼ばれている魔法。

 その魔法と同じ頃に生み出された「異世界から望む者を呼び寄せる」魔法陣。通称、召喚魔法と呼ばれている魔法。これは床に魔法陣を描き、100人の生命力を動力とし発動する魔法だ。


 新しい魔法を生み出すと、当然人は試したくなる。

 そこで、当時の人々は異世界から「古代魔法を、より発展させうる人物」を呼び出した。


 試してみたら成功し、一人の女性が呼び出された。


 その際に立ち会った100名の人々は、全員死亡した。即死だった。

 召喚魔法で呼び出されたのは、22歳の女性だった。

 突然、召喚され、言葉も通じず、自分の周りには沢山の死体。召喚された女性はパニックになった。

 何とか落ち着かせ、水を与えたところで言葉が通じるようになった。この世界の物を口にすると言葉が通じるようになると判明した瞬間だった。


 その後、女性の発案により、当時、光魔法と闇魔法しかなかった古代魔法に、付与魔法と空間魔法が誕生した。

 古代魔法をより発展させたその女性は、確かに望む人物を召喚したと証明した。


 しかし、愛する人と結婚目前で召喚された女性は帰還を望み毎晩泣いていた。

 魔導師達は、自分達が行った召喚魔法が、本人の意思を無視した誘拐紛いの行為である事を考えていなかった。


 たくさんの犠牲を出し、行ったことは女性の誘拐。

 犯した過ちに気づいた魔法師達が帰還方法を考えたが、上手くいかなかった。


 召喚されてから5年経った頃、持病持ちだった女性は帰還を望み、それが叶うこともないまま病死した。


 この魔法を生み出したのがアッテムト国。この召喚魔法は禁術とし、アッテムト国の王族のみに引き継がれるようになった。


 また、古代魔法についても、問題が発生した。


 古代魔法の付与魔法により生み出されたアイテムは、生活を、豊かにした。空間魔法を付与し、物が沢山入るようになったバッグ。火魔法を付与したコンロ。水魔法の上位魔法である氷魔法を付与した冷蔵庫。

 瞬く間に貴族に広まっていった。


 しかし、付与魔法は良いものだけを生み出さなかった。


 色々な物に付与された獄炎魔法。

 戦争時には鉄の玉に上位魔法を付与し、特攻隊として兵士を敵地に送り込み自爆させる作戦までできた。


 生活水準が向上した代わりに、死者は増えた。


 それから数百年経った頃、保有魔力量の少ない子供が産まれ始めた。古代魔法は魔力量の多い者でないと、魔法陣を内包できない。

 古代魔法の使い手は減少していった。

 古代魔法の魔法陣が描けるのは、古代魔法の使い手のみ。体内に魔法陣を有しているものは、魔法陣が思い描けるのだ。

 アッテムト国で生み出された古代魔法の魔法陣は、世界各地に広がっていたが、魔力量の関係で使える者がいなくなった。また、魔法陣は各国書き残していたが、魔力量の多い者が産まれた時に試してみたが、何故かうまく発動しなかった。


 古代魔法の扱いは帝国を中心に慎重に取り扱われるようになった。賢者と呼ばれたダニエレ・マグニーニが最後の古代魔法の使い手となり、魔族領との戦いに巻き込まれ死亡した。

 そして、古代魔法は現代では使える者がいない魔法となった。




 ◇◇◇





「さあ、準備は良いか?呼び出す者は、『古代魔法が使える若い娘』だ。聖女と祭り上げて利用しても良し、王太子と婚姻を結び、王家の血に古代魔法が使える者を残しても良いしな」


「婚姻を結ぶのなら、見目麗しい者に限りますよ。父上」


「わかっておるよ。さあ、召喚を始めるか」


 アッテムト国の王城の一室。王の一声で、魔導師達が行動を起こし、魔法陣が輝きだした。


 魔法陣の周りには、拘束された魔族や人族の子供達が100人。

 子供や女性ばかりのその集団は、魔法陣が輝きだすと同時に、苦しみだした。

 空を見上げ、口からは涎と呻き声をもらし、白眼を剥きながら、自由にならない体を必死に捩り、苦しみから逃れようとしている。


 抵抗虚しく、命尽きたその時、魔法陣の中央に男一人と女二人が座り込んでいた。


「おお!成功ですぞ!!」


 周りから歓声が聞こえる。しかし、その歓声もすぐに響めきに変わる。


「三人?男も混じっている。これは、成功なのか?」


 どこからともなく、疑問の声が上がる。室内がざわめき出したその時、


 王が片手を上げ、静まらせた。


「魔導師長、現状を説明せよ」


 表情を変える事なく魔導師長に問う国王。それとは対照的に戸惑いを隠す事もできずオロオロと無意味に手を動かしていた魔導師長が答えた。


「おそらく、3人の内の1人が古代魔法の使い手かと思われます。まずは、魔水晶でステータスの確認と話を聞いてみるのが先決かと」


「では、そのようにいたせ」


「はっ」


 王に確認し、魔導師長は部下達に目で合図した。


 魔導師長の合図を確認し、魔導師達はグラスに入った水を持って魔法陣中央へ行き、座り込んでいる三人に水を差し出す。飲むようにジェスチャーで促していく。


(なんだここは?どこなんだ??会社にいたはずなのに…)


 召喚された内の1人、祐樹はキョロキョロと周りを確認していた。煌びやかな大広間。見慣れぬ場所、ローブ姿と鎧姿の見慣れぬ衣服、聞いたことのない言語で騒ぎ立てている人々。そして、身動き一つしないたくさんの人々。

 警戒心を抱かせるには十分な状況だった。


「佐藤さん、綾瀬さん、ここは…」


 祐樹は言いかけた言葉を飲み込んだ。

 茜と真衣は同じ場所を見つめ、固まっていた。その目線の先を見ると、若い綺麗な男が微笑みながら立っていたからだ。

 金髪碧眼。人形のように完璧な容姿のその男は、隣の立派な椅子に尊大な態度で腰掛けた金髪碧眼の美丈夫と話していた。

 王様と王子様。その言葉がしっくりくる2人だ。


 少し視線をずらすと、中学生くらいの、同じ色彩の美少女が立っていた。祐樹とは一回り以上年齢の離れた少女だが、あまりの美しさに祐樹は目を奪われた。


 3人がそれぞれ見惚れていると、ローブをまとった男が、お盆に乗ったグラスを差し出してきた。身振り手振りで、それを飲めと言っているようだ。


 3人は、目線を合わせ、飲むかどうか逡巡した。


「飲んでみるか。こうしててもどうしようもない」


 祐樹はグラスを一気に傾けた。それを見た茜と真衣も祐樹に続いて飲みこんだ。


( …水?)


「グラスを、お預かりしましょう」


 水をくれたローブ姿の男が3人に声をかけてきた。


「… 言葉が… わかる… ?」


 茜が不思議そうに呟いた。


「あぁ、良かったです。異世界の方は、この世界の物を口にすると言葉が理解できるというのは本当だったんですね」


 口角を上げ、そう語った男の目は、笑ってはいなかった。


「橘くん…この周りの人達って… 」


 ようやく、周りで倒れて動かなくなっているローブ姿の集団に気づいたのだろう。真衣が不安そうに呟いた。


 その時、室内へ深みのあるハスキーボイスが響き渡った。


「異世界の者達よ、よくぞ召喚の儀に応えてくれた。私はこの国の王、ゼビオス・アッテムトだ。ぜひ、この世界を救ってほしい」


 玉座であろう立派な椅子に座り、肘置きに肘をついて頬杖をつきながら言ってきた。

 人に物を頼んでいるとは思えないその尊大な態度に、祐樹は嫌な気持ちになった。


 しかし、女性陣2人は


「はい。王様のためなら何でもします」


「え?私は救世主な何かですか?もちろん、協力させていただきます」


 王に目が釘付けとなっていた。イケメンに弱い2人。目の前の美丈夫に意識が囚われ、周りの異様な空気など既に忘れ去っているかのようだ。


「そうか。では、魔導師長から説明を聴くと良い」


 王の一言で、黒地に金色と紫色で刺繍が施されたローブを身に纏った男が前に歩み出た。


「説明については、この場ではなく、落ち着いた場所に移動してから行いましょう」


 祐樹は不信感を抱いていたが、茜と真衣は王や王子の美貌に心奪われてしまっていた。

 このまま、ついて行っても大丈夫だろうか?疑問に思っているけど、1人になるのが怖い。とりあえず皆について行ったら大丈夫かな。

 祐樹は、疑いながらもついて行く事にした。




 ◇◇◇




 この光景を一部始終を見ている者がいた。魔王だ。


 魔族・獣人族の中で最強王者が魔王となる。その魔王にとって、人間の国の王城に忍び込むなど容易な事だった。


 魔王はアッテムト国で再び召喚魔法を行うという情報を掴んだのだ。しかも、古代魔法の使い手を。厄介な者を召喚される前に、妨害をしようと思って忍び込んだが、時既に遅し。辿り着いた時には魔法発動後だった。


(遅かったか… しかし… )


 目の前の魔法陣には3人の人間がいた。確かに魔力を保有しているが、古代魔法を使えるとは到底思えない。魔力量が少なすぎる。


(召喚魔法の失敗か?あれなら、この国の魔導師長の方が強いぞ?)


 召喚魔法を止められなかったのなら、力をつける前に殺してしまえばい。そう思っていたが……目の前の3人は殺す価値もない。召喚魔法の失敗か、もしくは力が隠されているのか……そう思いながら見ていると、


 ?!


 遠くから、凄まじい魔力量を感じた。


(まさか、召喚魔法の着地点がズレたのか?!)


 再び魔方陣の方を見る。どう考えても、脅威は遠くから感じる高魔力の方だ。間違いない。召喚勇者はあっちだ。


(こっちは放っておいても問題ないだろう)


 そう判断し、魔王は高魔力を放つ方角へと向かった。


 しかし移動中に、魔力が途切れてしまった。レイが師匠の結界付きの家へと入ったために、魔力が感じられなくなってしまったのだ。


(この辺りで間違いないはずなんだが… )


 森の中、しばらく探し回ったが、発見出来なかった。


(さっきの魔力の持ち主が、今回の勇者だろうな。しかし… 見失うとは… 。しばらくこの国で探してみるか)


 魔王の『召喚されたら即始末』という作戦は、早々に失敗してしまった。

閲覧ありがとうございました。

今後もよろしくお願いいたします。

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