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24.からまれた



 

 今は13歳になっているがレイの中身は40歳だ。

 この世界では、13歳でも1人立派に生活している者は多い。




 今日は依頼終わりが遅くなってしまった。だから1人(足元に1匹)でギルド併設の酒場で夕飯を食べていたのだが、レイは今、それを無性に後悔している。


(どうでもいいけどこの子達どっか行ってくれないかな)


「お前がひどいことを言ったから、カーラは泣いてたんだぞ」


 レイの座っている席にドカッと無許可で座ってきて睨みつけてきているのはリクだ。


「カーラには夢があるんだ。それをお前が馬鹿にすることは許さない」


 ビシッと真っ直ぐにレイを指差すリク。人を指差しちゃいけませんって習わなかったのか?いや、この世界はオッケーなのか?

 リクの横に座っているアリアは少し困った顔をしており、反対隣りに座っているジムはその通りと言わんばかりに頷いている。

 で、問題のカーラはふて寝中らしくここにはいない。


「私は彼女の夢を馬鹿にしてないけど、まあいいです。それで、だから何?」


「人として心が痛まないのか!?カーラは夢が叶うって喜んでいたのに、あんな、あんな最低な条件を出されたんだぞ!それなのにお前は、カーラが悪いみたいに言ったらしいじゃないか!」


「ちょっとリク、落ち着いて」


「うるさい!アリアはなんとも思わないのか!?こいつが俺たちの仲間をけなしたんだぞ!」


「でもここでレイに文句を言っても仕方ないじゃない」


「仕方なくねーよ!こいつは落ち込んでる相手に石投げるような事しんだぞ!」


 許せない、と殺気交じりの睨みを効かせるリクに、レイは肩を竦めて水を口にした。八つ当たりじゃないのか?


「でも……あの、ごめんなさい。リクはカーラのこと好きだから、ちょっと頭に血がのぼってて」


「それは関係ないだろ!余計なこと言うなよっ」


 青春ですか。初々しいなあ、なんて生暖かく彼らのやり取りを眺める。


「けど珍しい条件じゃないのは、リクだってわかってるはずよ。ううん、ずっといい条件だと思うわ。カーラが可愛いからこそ出た条件でしょ」


「なんだと!?あんなおっさんのとこに、しかも愛人なんて!ありえねーんだよっ!」


「リク、ねえ落ち着いて考えようよ。私たちもう成人してるのよ?孤児院にいるわけじゃない。今は家賃だって払わないといけない。毎日生活費稼いで生きていかないといけないの。今は夢だなんて言ってられないのに、カーラは全然わかってない。リクもジムも、そんなカーラを甘やかして、なんなの?愛人だってなんだって、それでカーラの夢が叶うならいいじゃない。嫌なら断って、討伐に出ればいいじゃない。今は稼がなきゃいけないのにっ。こんなとこで言い争ってる場合じゃないでしょ!?」


 感極まってしまったのか、アリアは涙を滲ませて口を引き結んだ。正論だなとレイは思う。

 リクはバツが悪そうに視線を彷徨わせたが、息を吐いて落ち着こうと努力している。そこで、ずっと黙ってレイを見ていたジムが口を開いた。


「……レイは、薬師について詳しいのか?」


「詳しくはないけど……でも何か聞きたいことでも?」


「カーラが、薬師になるにはお金が必要だってあんたが言ってたって。俺は、そういうのわかんないから、具体的にいくら必要なのか知りたい」


 そうすれば、それを貯めればいいんだろ?と静かに尋ねるジムに頷き、カーラに言った薬師学園へ行くならまずはいくら、弟子になるにも伝手が必要で、それにかかる金額は千差万別であること、他にも本や器具代がかかるだろうことを教える。


「まぁ、私よりもマシューさんやケイシーさんに聞いてみた方が良いかも知れないけど、だいたいこのくらいよ。学んでいる間の生活費も考えると、貴族や大商人の子供でないと難しいんじゃないかな」


 この内容は商業ギルドのウルスラとの雑談で聞いた内容だから間違いないだろう。


「……無理だ」


「でしょうね。学園だってお金があればいいってわけじゃないし、運よく入れてもお金持ちばかりがいるだろうから、孤児院出身者が入ったら差別は覚悟しないといけない。そういう諸々の覚悟もなく、目指せる職業じゃないよ」


(私は師匠から学べたのが、本当にラッキーだったな)


 だから、と続ける。


「愛人の報酬としては、ありえないくらい破格だと思う。カーラは孤児院出身なわけで、今回の話は当然、間に領主さんや孤児院を管理している大人達が間に入っているんじゃない?カーラが薬師になりたがっていることを知っていたなら、何故受けないのかと頭を抱えているんじゃないかな」


 リクは茫然として、ジムは唸り、アリアは俯いている。


「アリアが言ったとおりだと思うよ?本気で薬師になりたいならこの話は受けるべきで、嫌なら受けずに働く。選ぶのは彼女で、貴方たちがとやかく口出すことじゃない。でないと、いずれ誰かのせいにするよ。こんなはずじゃなかったって」


 そもそも本気で薬師になりたいのかね、と口にしてしまう。


「私は確かに薬師として活動しているけど、最初の薬草学だけでも無理だなって思ったよ?薬草の種類が多い上に、間違えないように似たような雑草・毒草も覚えないといけない。さらに医学や調合も難しい。相当な根気と努力と記憶力がないと……まあ、好きな人にはいいんだろうけど」


 コップに残った水を一気にあおり立ち上がる。


「もう遅い時間だし、そろそろ帰った方がいいよ。じゃ、私はこれで」


 話は終わりとギルドを出てしばらく行き、立ち止って振り返る。

 走って追いかけて来たアリアは、レイの前で立ち止まり頭を下げた。


「ごめんなさいっ、レイは関係ないのに突っかかって。今日あんまり稼げなくて、みんなピリピリしてたの」


「いいよ。私も言い方がきつかったと思うし」


 正論ばかり言っても怒らせるだけってわかってるけど、はぁ、言葉選びは難しいと思わず溜息が出るレイ。

 顔をあげ、目の前ではにかんだように笑うアリアに口元を緩ませる。


「初歩の薬草の本なら、商業ギルドで閲覧できると思うから、今後の進路の参考のためにも見せてもらえば?」


「本当に?!わかった!カーラに言っとく!」


 手を振りアリアと別れて宿へと歩を進める。


「……ガキは騒がしくて苦手だ」


 基本、人前では大人しく空気になるようにしているフィオ。静かにやり取りを見ているだけでも疲れたようだ。


(私に対人スキルがあれば、もっと上手な言い回しができたのかな)


「ごめんね、フィオ。帰ったらフィオの好きなココア入れるから」


「本当だな!約束だぞ!」


 孤児という時点で苦労が多いのはわかる。でも、不幸ばかりを嘆かないで現実をしっかり生きていってもらえたらいいなぁ。

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