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22.新人用討伐クエストを受けてみよう





 今日も相変わらず宿の女将の山盛り朝食と格闘し、体を動かさないと太るなぁと思いながらもフィオと共に冒険者ギルドへ行った。

 珍しく朝も早い時間帯に行ったため、中は依頼を受ける冒険者が大勢いて、これは埋もれてしまうと依頼ボードから離れた場所で人混みが落ち着くのを待つことにした。

 レイは初級の採取依頼ばかり選んでいるため、『早くしないと依頼がなくなる!』なんて心配もないのだ。


 この世界の平均身長は、日本より10~20センチは高い。

 特に冒険者ともなると体格の良い者が多く、日本だと普通だと思っていた自分の体格が小さい部類になってしまう不条理が悔しい。



「あ、いたいた。レイちゃん」


 ふと背後の受付からオルネアに声をかけられた。

 オルネアはこの冒険者ギルドの受付嬢であり、『仕事できますオーラ』が溢れている女性だ。レイの『絶対に逆らってはいけないリスト』に宿の女将と共に名が連なっている。


「おはようございます、オルネアさん」


 今日も綺麗に髪をまとめ上げているオルネアが口元に笑みをたたえたままレイに手招きをしている。

 なんだろう?と思いながらレイはオルネアの元へと歩み寄った。


「レイちゃん、まだ依頼受けてなかったらオススメしたいクエストがあるんだけど」


「依頼はまだ受けてないですが……オススメですか?」


「そう。今から初心者向けのラビィ討伐クエストがあるんだけど、レイちゃんも参加しない?」


「ラビィですか?」


「そう。レイちゃん採取依頼ばかりだし、ソロ活動ばかりでしょう?今回の依頼は定期的に行われているもので、畑の害獣となるラビィの討伐で銅3の冒険者も付き添うわ」


 どうやら、このラビィ討伐クエストは冬になると毎年行われている新人冒険者向けの練習クエストのようだ。

 ラビィという兎サイズの動物で、寒さに強く、普段は森の木の実などを食べているが、冬になると食べ物がなくなり畑を荒らすようになる。いわゆる害獣だ。

 噛みつき・引っ掻きといった攻撃はあるが毒はなく怪我はするが命を脅かすものではない。そのため勉強もかねて引率の冒険者と共に新人冒険者が駆除しに行くらしい。

 弱い魔物ではなく動物。だからといって舐めてかかると大変だ。さほど大きくないものがちょこまか動き回る。剣で退治しようとしても逃げられてばかりで振り回されるのがオチだろう。


(ラビィか……確か本に書いてたな)


「レイちゃんは採取クエスト専門ってわかってるけど、今回は引率付きの比較的安全で簡単なものだから、たまには討伐もどうかと思ってね。どう?」


 確かに、たまには討伐クエストも良いかもしれないが…しかし…集団行動か。う~む。


 タシタシと足を叩かれ、ふとレイが下を見ると、キラキラした目でフィオがレイを見上げていた。


(ゔっ……)


 いつも採取クエストばかりでつまらないと言っていたフィオ。この目は討伐クエストを受けろと言っているのだろう。聞かなくてもわかる。


(まぁ、やってみるか)


「わかりました。ラビィ討伐やってみます」




 オルネアに言われた場所へとフィオと共に訪れると、剣や弓といった武器を下げた10代前半くらいのメンバーが集まっていた。

 その中に1人、明らかに体格の違う大人が混ざっていた。


「お、来てくれたか。君がレイだな。俺はこのクエストの世話をしているマシューだ。よろしくな」


「どうも、レイです」


 マシューは年齢によるであろう白髪混じりの男性で、腰に剣を携えている。


「こっちが今回一緒にいくパーティメンバーだが、全員新人でな。ほらお前ら、挨拶しろ」


 マシューに促され、10代前半に見える少年少女が口々に挨拶をしてきた。

 マシューは引率の先生なのか。


「それと…あぁ来たな」


「おまたせ~」


 城壁の外での待ち合わせだったが、そこに筋肉モリモリの女性剣士が台車を引きながら現れた。。

 魔物が出たら解体して必要部位だけ持ち帰るつもりなのか、大きな台車で結構積めそうだ。


「よし、全員集まったな。俺は今回のリーダーのマシュー、それとこっちの台車持ってきたのがケイシーだ。今日の予定は森の入り口でのラビィ乱獲だ。俺は全員のフォロー役だ。森の奥には行くなよ?死ぬぞ。知ってると思うがラビィの肉は食えん。遺体は燃やすか埋めろ。討伐証明として尻尾は持ち帰れよ?以上」


「あれ、なんか話が違う気がする。安全なの?」


 「気にするな」と呟きながらレイの腕の中から抜け出し、歩きだすフィオ。まあやるこは変わらないからいいか。


 レイが街へ来る時に歩いてきた森とは反対方向へ続く道を、4人の少年少女とレイが交代で台車を引き進んでいく。

 マシューは前方で、台車を引いていないメンバーに注意点を教えている。

 ケイシーは台車の周囲を警戒しながら後方を歩く。


 とっても冒険者っぽいこの行軍に、少しだけ楽しくなってきた。

 足取り軽く進んでいると、横に広がる草原にラビィの姿が見えた。

 あまり大きくないラビィは、草原では草に隠れてしまい気づきにくい。そしてこのラビィ、油断していると突進して来るけっこう厄介な魔物だ。


 ケイシーに視線を向けると、彼女も気づいていたらしく軽く頷いたので剣を抜き戦闘体制へと入る。


「台車の右手、距離15メートル。ラビィ2匹を目視」


 ケイシーの声に反応するように剣と盾を持った茶髪少年リクと、同じく剣を持っている茶色っぽい赤髪少女アリアが、すぐに台車の横へ駆けつけて構えを取る。マシューは剣を装備し彼らの後方へと控えた。

 台車を止め、弓を持った紫髪の少女カーラと、槍を持ったオレンジ髪の少年ジムも合流し、陣形を整えている。


 レイとフィオはその様子を横目に、反対の林方面を警戒する。


 最初のラビィからの突進をリクが盾で弾き、カーラ以外が走ってラビィに近づき攻撃をしていた。

 ラビィの攻撃は連続では出ないので、存在に気付ければ弱い魔物だ。

 突進される前に気づけるかで、難易度が違うのだ。


「やった!倒した!」


「私達もやればできるわね」


「当然だろ?俺たちは最強パーティだ」


「ちょっとレイ、私達に仕事させてアンタは何してたのよ」


 初討伐だったのか、ラビィ二匹を倒して喜んでいる4人組。レイがサボっていたと思われたのか、カーラがレイへと絡んできた。


「え?反対側からもラビィが襲ってきたからそっちを相手してただけだよ?」


 2匹のラビィが来ている時、反対側からも接近している事にフィオが気づいたのだ。動物なりの挟み撃ち作戦だったのだろう。


「えっ?!もっと早く知らせてよ!」


 完全に気づいていなかった四人に、マシューが呆れ顔で近づいてきた。


「こらお前ら。自分達で見つけなきゃ意味ないだろうが。パーティで活動してる時は自分達しかいないんだぞ。それとレイ、今はこのメンバーがパーティだ。ちゃんと声に出して連携取らなきゃダメだぞ」


「うっ」


「……ごめんなさい」


 素直に謝るレイと、バツの悪そうな顔で頭をかくカーラ。残りの少年少女も素直に反省している。


 この四人パーティ、とても真面目で素直だ。マシューの教えをしっかり聞いているし、無駄口も叩かず歩くし。

 初級冒険者にしては筋がいいので、自分の力を過信してもおかしくない。なのに慢心する様子がないのはすごいと思う。


 倒したラビィを穴に入れて燃やしている間に今回の反省会をする。


 再び移動を開始し、王都を出て二時間ほどで、目的の森の入り口にたどり着いた。

 そこで昼を食べ、ようやく森の中へ踏み込む四人と引率二人とレイ&フィオ。


「よし。ここらへんでそれぞれ討伐だ。奥へは行くなよ。俺とケイシーからあまり離れるなよー」


「「「「 おー 」」」」


「レイは大丈夫か?不安なら俺のそばにいるか?」


「いえ、大丈夫です。入り口付近で頑張ります」


「そうか。無理すんなよ」


 そう言って、4人組とマシューは森の中へと入って行った。ケイシーは入り口付近で台車の番をするようだ。


「よし、フィオ、私達も頑張ろうか」


「おう、まかせろ。すでに匂いは嗅ぎつけてる」


 そう言って走り去るフィオ。


「ちょっ、待ってよー」

 

 フィオの鼻でラビィを見つけ爪で倒す。その後をレイが追いかけながら尻尾を切り取り穴に埋める。


 今回の依頼では人目があるから極力魔法を使わないと決めてきたレイ。そのため火魔法は使えず、こっそり土魔法で穴を開け埋めていった。


「うぅ~、遺体処理ばかりツライ」


 遠くから火魔法で燃やしてしまうのと違って、穴へ入れ土を被せるという作業がある分精神的疲労が大きかった。


 満足したらしいフィオと共に戻ると、森に入って行った五人がボアを引きずり戻って来たので解体せずそのまま荷台に乗せて帰る事とした。


「リク達は10頭か。なかなか頑張ったな。レイは……14頭?!」


「あ、うちはこのフィオが張り切ってくれたので」


「へぇ、なかなか優秀だな」


 その後、オススメの店や討伐のポイント等を話しながらヴラディの町へ帰り、ギルドの買取り所へボアの肉を半分納品した。

 残りの半分は孤児院へ持って帰るそうだ。

 マシューやケイシー、リク達4人組はこの町の孤児院出身で、今は孤児院のそばに住んでいるそうだ。そして毎年新人研修を引き受けているらしい。この新人研修に来るのは孤児院出身者ばかりだそうだ。


 ロイとトーマスのことを話すと全員知っていてお礼を言われてしまった。

 この町の孤児院はこうしてOBの援助もありながらなんとかやっていっているんだと知って、少し安心したレイだった。


 集団行動がどうなるかと不安だったが、素直な子供達ばかりでよかった。こんなパーティなら、また参加してもいいかなぁとフィオに言ったが、「もっと強い魔物がいい」と言われてしまったのだった。


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