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20.椿油を作ってもらおう




「わー、レイ姉ちゃんいらっしゃい!」


「こんにちは、これはプレゼントよ。みんなで食べてね」


「「「やったー!」」」「何これ?いい匂い!」


 お土産に持ってきたパウンドケーキを渡すと歓声があがった。

 孤児院へ1週間以内には顔を出すと約束していたが、5日目で顔を出すことができた。実は今日パウンドケーキ以外にもクリームシチューを持って来ている。子供達の痩せ具合が気になったため、料理を作っていたら来院日が遅くなってしまったのだ。


「レイ!ホントに来てくれたんだ」


 声がした方を見ると、ロイとトーマスの2人と、その側にニコニコ笑う女性が立っていた。


「こんにちは。ここの院長のマリーです。子供達がお世話になったそうで、ありがとうございます」


「レイ、ポーション代の労働、何をすれば良いか決まったの…?」


「ロイのポーション代については話を聞きました。ロイだけでは支払い終わらないでしょうから、私も働きます」


「「僕たちも手伝うよ!」」


 ロイ、マリー先生、子供達の順で言ってきた。生活は苦しそうだけど、ちゃんと支え合っているようで良かった。レイは微笑ましくその光景を眺めていた。


「ロイには油取りの仕事を手伝って欲しいんだけど、他のみんなには別の仕事を頼みたいな」


 そう言ってレイはシチューの入った大鍋を出した。


「手伝ってくれたら、これとパンをご馳走しよう」


「「うわー!いい匂い!」」「やる!」


「みんなにして欲しいのは、これを集めて欲しい」


 見せたのは枯葉。この孤児院の広い庭のカラカラの土に落ち葉床を敷こうと思ったのだ。最初は腐葉土を考えていたが、時間も知識もないし作り方を間違えると植物の病気の原因となると聞いた事がある。だから、落ち葉床にしたのだ。根が張る部分を柔らかくし、葉を徐々に分解させ養分を与えようと考えた。本当は、3層構造にし、最下層にススキなどの枯草、中間層に落ち葉、上層に土としたかった。しかし、良い枯草が見つからずとりあえず小麦の籾殻を貰ってきたので、それで代用してみようと思ったのだ。


「それと、ロイにお願いしたいのはこれ」


 取り出したのは大量の椿の種。師匠の所にいた時に収穫していた物だ。

 この世界に来て困った事が、髪の傷みだった。この世界、トリートメントなんて物はない。石鹸のようなもので洗うだけだからサラサラストレートヘアだった髪がパサパサになってきた。日本でリンスやトリートメントが普通だったレイには気になって仕方なかった。

 そこで、椿油を作ろうと思った。トリートメントの作り方はわからなかったけど、椿油の作り方は歴史ドラマで見て知っていた。

 だから作ろうと思った。しかし!これが地味に大変だった!


 まずは、椿の種の殻を割って種を出す。カンカンカンカン種を叩いた。頑張って種を取り出していると手を切る…。これが地味に痛い。

 次に種を粉砕しないといけないけど、ミキサーもすり鉢もない。布に包んで一生懸命叩いて砕いた。

 砕いた種を軽く蒸し、熱々の内に布巾に種をのせてネジネジネジネジして圧縮!

 そうすれば、ホントに僅かな油が取れます。ホントに僅かな油しかとれません。取れた油の量を見て、レイは絶望した。


 いつか、魔法を覚えたら簡単に作れるようになるかもしれない。そう思い、たくさん椿の種を収穫しておいたのだ。


 ……この面倒くさい作業をロイに頼もう。


 そう思って孤児院へとやってきた。油の取り方を簡単に説明すると、


「なんだ。そんな事でいいのか?わかった」


 あっさりOK。おぅ…。

 トーマスも一緒に作業してくれるみたい。私の欲望のためにすみません。ご飯は用意するのでよろしくお願いします。レイは心の中で詫びた。


 まずは持ってきたパウンドケーキをみんなで食べて、さっそく作業開始だ。



「ふふっ。なんだかみんな楽しそうね」


 マリー先生が働く子供達を見ながら嬉しそうに微笑んでいた。


「ちょっと前に、ロイやトーマスと同年代の子達が行方不明になってね…。友達がいなくなったのと、食料調達をしてくれてた子達が居なくなって、ご飯もまともに食べられなくなった事で落ち込んでたんだけど、レイちゃんに会ってから明るくなってきたわ」


「行方不明…ですか?」


「そう。春先にロイとトーマスを除く上の子達が森へ入ったまま帰って来なかったの。騎士団は孤児院の子供を森へ探しに行ってはくれないし、自分達で探しに行ったんだけど、結局見つからなくて…。魔物か魔族に食べられたのかと…」


 食べる?魔族?


「あの…魔族は人を食べるんですか?」


「ええ。魔族は人を騙して食べてしまうのが好きなんですよ。人の血を好み、肉を好み、色を好む。存在価値のない生物と言われていますよ。ご両親から教わってないんですか?」


「あははっ…たぶん習ったんでしょうけど忘れちゃいました。マリー先生は魔族に会ったことありますか?」


「ないですよ。あったら、ここにはいません(死んでますから)」


「そうですか…」


 孤児院近辺で落ち葉を探しに行った小さい子供達が帰ってきた声が聞こえて来る。庭に集めるよう言っておいたから、集めた分を置いてまた探しに行ったのかな。さて、落ち葉が集まる前に庭の土を土魔法で掘らないといけないな。


「やっぱりレイちゃんが来て明るい声が増えました」


「ははっ。まぁ、ご飯は生きる源ですからね。私が来ると食事もついてきますからねぇ」


「ん~…それだけじゃないと思うけどなぁ。まあいいわ」


「???」


「ところで、枯葉集めてどうするの?」


「あ、そうでした。外の広い庭に畑を作ってもいいですか?」


「畑?畑は何度も試しましたが、作物は育ちませんでしたよ」


「カチカチの土でしたからね。あれでは根を張れませんよ。だから、落ち葉を使って根が張れる余裕を土に作るんです」


 レイは落ち葉床について説明した。正直、仕上げはレイの古代魔法で植物を育てるから、今は間違いなく収穫できる。でも、今だけではダメだ。食料を安定して安全な場所で取れるようにしたい。子供達だけで自力で収穫を継続させるためにはやはり土壌改良は必要なはずだ。ま、土魔法以外はレイが使える事を内緒にするが。


 マリー先生の許可も得て、庭の土を魔法で掘り起こす。そこに籾殻を撒き、子供達の集めた落ち葉を入れていく。ある程度集まったら、土を被せて畝を作る。そこに種を植えて少しだけ成長促進の魔法をかけた。今は魔法の力で植物を育て、そのうち落ち葉床が馴染んだらレイの魔法なしで育ててもらおう。


 畑もひと段落したのでロイ達の様子を見に行った。黙々と作業してくれていたようで、椿油も小瓶一杯分作ってくれてた。ロイ達の手を見ると小さな切り傷が出来ていたが、「命の危険はないし、森に入って魔物と対峙するより全然いい」と言いながら慣れた手つきで淡々と作業をしてくれている。もう少しでレイが用意した椿の種を絞り終えそうだ。


「ありがとう、ロイ、トーマス。よし、それが終わったらご飯にしようか。ちょっと台所借りて準備するね」


 パンは生地を持ってきていた。やはり焼きたての美味しいパンを食べてもらいたいからね。

 成形した生地を窯に入れて焼く。建物中に香ばしいパンの匂いが充満し始めた。その匂いにクリームシチューの匂いも乗っていく。匂いにつられて子供達が台所へと集まり出した所でロイとトーマスが、作業を終えてやってきた。


「凄く良い匂いが充満してるな」


「お腹減った~!」


「あ、2人ともちょうど良かった。パンも焼き上がったから皆んなで食べよう。お皿出して」


 焼きたてのパンとシチューをテーブルに並べ皆んなで食べたのだが…、某人気映画『天空○城ラピ○タ』でヒロインがタイ○○モス号で、大鍋に大量に作ったシチューを振舞っていたあの光景が目の前に広がっていた。


「あの…おかわりあるから」


「「「おかわり!」」」


 まさか、こんなにがっついて食べるとは…。明日の分もと思いたくさん作ってきたのだが、今日一日で無くなってしまった。子供達の相手をするのが嫌だったのか、今日一日、気配を消して大人しくしていた食いしん坊のフィオが食事を忘れてドン引きした顔でその光景を眺めていた。


(そういえば、隠し味にヒロインがシチューに削って入れていたアレは何だろう…?)


 そんな事を考えている内に鍋は空っぽになっていた。次はもっとたくさん用意しないといけないな。

 また畑の様子を見に来ると約束し、レイは孤児院を後にした。


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