17.コーヒーは美味しい飲み物です(ちょっと雑談)
朝はまだ静かだったのに、たちまち雪が吹雪へと変わっていった。この世界ではガラスは貴重品のため、庶民の家の冬の窓は木製の雨戸で閉じられてしまう。吹雪いて身動きが取れない日は、部屋に篭りやり過ごすのが一般的だ。
吹雪が雨戸を打つ音がする閉鎖された室内で一人と一匹はハーブの研究をしていた。
「俺は飯の研究の方がいいんだが」
「料理は台所じゃないと難しいからね。宿屋の一室でできるのはせいぜいこの程度よ」
レイはハーブティーを作っていたが、フィオには不評だった。甘党のフィオにはこの爽やかな飲み物の良さは伝わらなかった。
「私も本当はコーヒー派だから、ハーブティーなんて飲んだ事ないんだよね」
店での食事の際にたまたま出てきて飲む。そのくらいしかハーブティーを飲んだ記憶がない。紅茶もごく稀に飲む程度で、レイは根っからのブラックコーヒー派だ。水のかわりのようにコーヒーを飲んでいた。
「コーヒーってなんだ?」
この世界でコーヒーを見たことがない。飲み物としては、水、果実水、ワインが一般的だ。
「コーヒーはね、真っ黒で、落ち着くいい香りがする、苦味が美味しい飲み物だよ」
「美味いのか?それ」
確かに、レイの説明ではコーヒーを知らない者には美味しい聞こえないかもしれない。しかし…なんて説明すれば良いんだろう。
「ん~…。黒い飲み物なの。とにかく見た目は黒い。そして、芳醇な香りの……」
コーヒーの味の説明ってこんなに難しかったんだ。味の説明…
「コーヒーはとにかく、苦味を重視するか、酸味を重視するかのどちらかね」
「美味いのか?それ」
顔を顰めたフィオに、「大人の味なのよ」と絶対に理解できないであろう説明をした。コーヒーを探し出して飲ませてあげるねと意気込むレイと、絶対に要らないと引き気味のフィオ。隣国にコーヒー豆があるといいなぁ。