そんな情のない真似は出来ません
神殿。それは神々を崇める場所であり、神官の寄り合い所でもある。
神々に優劣はなく、ただ司るモノが違うのみ。
……なのだが、権力闘争というものは当然のように存在している。
その理由は「大神」と呼ばれる神の存在にあった。
大神エルヴァンテ。天地創造の神である大神こそが全ての神のリーダーと唱える者……まあ人間だが、その存在が面倒な事態を発生させていた。
ともあれ、キコリのような一般人にはその辺りの神殿事情は欠片も関係はない。
この防衛都市にあるのは大神エルヴァンテの神殿ではあるが、かなり現実が見えていて、他の神々を崇める神官との交流も積極的に行っている。
普段神々を崇める習慣のない者にも広く門戸を開いている為、キコリでも簡単に敷地内に入ることが出来ていた。
「とはいえ、どうしたものかな……」
まさか馬鹿正直に「悪魔憑きってどういうものですか?」などと聞くわけにもいかない。
余計な疑念を招くだけで、何もいい事がない。
聞くにしても、聞き方を考えないといけない。
そういうものに関する本か何かを閲覧できるのが最上なのだが……。
「どうされましたか?」
「うわっ!?」
突然背後から声をかけられて、キコリは思わずビクッとしてしまう。
振り返ると、そこには初老の神官らしき男が驚いたような表情で立っていた。
「あ……すみません」
「いえ。何やらお困りの様子でしたので声をかけたのですが」
「そ、それはなんか……本当にすみません」
「いえいえ。もし私でお役にたてることであればと思いましたので」
明らかに親切そうなこの神官は、まさに渡りに船ではあるが……何をどう言ったものかと考え、キコリは一番目的に近づけそうな言葉を選ぶことにする。
「神様のことについて学びたいと思いまして……それで、本とか読めたらな、と」
「素晴らしい!」
「ひえっ」
肩をバンと叩いてくる神官の力は意外に強くて、ビリビリと衝撃が伝わってくるのをキコリは感じていた。
「仕方ないこととはいえ、この街の冒険者の方々は神々の加護を武具の1つとしか考えない有様です。だというのに……素晴らしい! 貴方は素晴らしい若者です!」
「あ、ありがとうございます?」
「いいでしょう! ならば不肖この私、イドレッドが1から100まで教えましょう!」
「え、いえ。本とかあればそれで」
「そんな情のない真似は出来ません! 本は所詮過去のもの! 最新の解釈は載っていないのですから! さあ、行きましょう!」
キコリを掴んで何処かに連れて行こうとする神官……イドレッドに引っ張られながら、キコリは思う。
この街では押しが強くないと生きられないとか、そういう風潮でもあるんだろうか……と。
大体あっている。






