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キコリの異世界譚  作者: 天野ハザマ


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破壊をもたらすために

 それは、引き寄せられるように何処かへと向かっていた。

 それを呼んでいた信号が示す元へと少しずつ……しかし、確実に。

 その信号はすでに途絶えていたし、自分の力の欠片も何処かに収まったのか消されたのか反応が消えていたが、すでに「その世界」へとそれは向かっていた。

 状況は理解できる。恐らく、それではないそれが敗北したのだろう。よくあることだ。

 元々、それは最強ではない。ただ、破壊の化身というだけだ。

 そう望まれ、そう願われて。真摯で薄汚い、薄暗い祈りが折り重なり生まれた。

 無数の世界の、無数の人々の願いがそれを生み出し続けている。

 自分とは一切関係のない、何処かの誰かが不幸になりますように。自分が「一番不幸な人間」ではなくなりますように。明日、世界が滅びますように。

 そんな願いを一切の曲解なく正しく叶えるため、それは生まれた。

 願った者とは一切関係のない世界を、願った本人に一切の罪悪感なく破壊する神。

 たとえ身勝手な願いであろうとも叶えるために、幾つもの身体を持つ神。

 そう願われたから。その無数の願いを受けて、その神は世界を破壊する。

 そう、すなわち破壊神。とある世界においてはゼルベクトと呼ばれるそれは、自分ではない自分が出来なかったことをしなければという使命感に満ちていた。


(……しかし、我ではない我は何に敗北したのだろうか)


 たとえ相手が何であろうと、ゼルベクトのすることは変わらない。ただ、世界を破壊するのみだ。

 しかし自分が連続で敗北するというのは、人々の願いが叶わないということでもある。

 それは、あまり良くないことであるとは思うのだが……まあ、気にしても仕方のないことではある。

 どうにも自分ではない自分はかなり念入りな性格だったようで、「その世界」へ向かうための道筋はすでに出来ていた。

 その道がゆっくりと解体されているような感覚はあるが、まあ今回は間に合うだろう。次回以降は分からないけども。


(破壊を。徹底的な破壊を。我が、そう望まれるままに)


 ゼルベクトは、その姿を世界を破壊するのにふさわしいものへと変容させていく。

 慎重で計画性の高い自分が敗北した。ならば自分は、より破壊に適した姿になるべきだろう。

 より壊しやすい、より畏怖を与える、より直接的に強力なものが良いだろう。

 形は? 能力は? 大きさは? 1つ1つ、設定していく。

 より効率的に破壊するために。より多くの不幸を作るために。破壊をもたらすために。


(もうすぐだ。そういう感覚がある。ある、が……何だ? まるで我がもう1人いるような、おかしな感覚がある……)


 それは、とある世界へと向かっている。一直線に……破壊をもたらすために。

 そのときは……もう、近い。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゼルベクト、敵なんですけど嫌いになれませんね。愚直さには好感すら覚えます。
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