本質
破壊のドラゴンブレスが過ぎ去った後には、何も残っていなかった。
人造ゼルベクトと化したアサトはその再生能力を発揮する余地もないほどに徹底的に破壊され、持っていた能力も当然のように継承されることなく消え去った。
恐らくは玉座に座ったとき、次元城の能力をコピーするような……そんなものだったのだろう。
ドルヴァン七世が最初にアサトに勝利したのも、その辺りが理由であった可能性は高い。
実際、アサトに再生能力がなければ人造ゼルベクトとして活動していたのはドルヴァン七世だったはずだ。
まあ、どうであるにせよ、2人とも消え去ったのだから今更だが……キコリとしては、少しばかり疑問もあった。
ドルヴァン七世が自分を人造ゼルベクトとして自覚したとして……アサトほどの力を発揮できただろうか?
アサトとて再生能力があったからこそ強敵だったが、それがないドルヴァン七世が「ゼルベクト」と呼べるほどの力を発揮できたかどうかの答えは、やはり否であるように思えた。
……であれば、あの次元城は失敗作だったのだろうか?
それもまた否であるように思える。もしかすると、次元城とは人造ゼルベクトを作るためのものではなく、レルヴァの報告していた「ゼルベクトを呼ぶ」機能にこそ本質があったのではないだろうか?
動き出しているという、ゼルベクトの力の残滓。それが次元城に呼ばれたものであるとキコリは考えていた。しかし、それだけでなかったとしたら?
「……ゼルベクトは複数いる。なら、もしかして。何処かにいるゼルベクトを呼ぶことこそが本命で。人造ゼルベクトなんてものは目くらましに過ぎないとしたら?」
キコリはあっさり倒すことは出来たが、たとえばドラゴンが動いていない状況で他の種族……人間やモンスターであればどうだろう?
かなり苦戦する気がする。たとえばオルフェでも、転移する相手を仕留めるのは苦労するはずだ。
しかもそれが2人、あるいは3人いたら? オルフェレベルでも対処が不可能になるかもしれない。
同じ能力を持った敵が玉座に座った分だけ増えるのだ……そんなもの、相手をしきれるはずがない。
と、そこまで考えてキコリは気付く。やり方も含め何もかもが違うが、似ている。同じ能力を持つ者の同じ場所への複数発生。それは、まるでシャルシャーンのようではないか。
「……まさか。シャルシャーンへの対抗手段なのか?」
そうキコリが言ったその瞬間。突然その眼前にシャルシャーンが突然現れる。その顔は、今まで見たことがないくらいに必死なもので。
「逃げろ! もう押さえきれない……!」
「え?」
そのシャルシャーンの更に背後。黒い影のような巨体が現れて……キコリたちを、包み込んだ。






