黒鉄山脈の坑道
次の日の早朝。レルヴァたちはキコリの指示に従い王都の各地に散っていく。
対象は鉱夫。乗っ取るのではなく、影に潜む。そして情報を集める。
誰がそうであるかを判断するのは簡単だ。ツルハシを持っているのが鉱夫であるだろうからだ。
レルヴァたちはそれぞれ、目をつけたドワーフたちの影に潜み黒鉄山脈へと向かっていく。
そして当然のように影に潜むレルヴァたちには誰も気付かない。
柵の奥へと進み、その奥の黒鉄山脈の坑道へ。入り口にも衛兵が立っているのを見るに、相当警備が厳しいのが分かる。
フェンスを越えたくらいでは坑道には入れない。それは確かだろう。
肝心の坑道の中は、マジックアイテムの明かりが等間隔で設置されて非常に明るい。
事故防止でもあるのだろうが、死角もない。知らない人間が歩いていれば、すぐに見つかりそうだ。
「さて、今日も頑張るとするかね」
「だな。しかし……職長が言ってたようなモノ、本当にあるのかね」
「ああ、なんだっけか。願いの叶う宝石……だっけか?」
願いの叶う宝石。初めて聞く情報だ。レルヴァはその情報を他のレルヴァへとリンクさせていく。
願いの叶う宝石。同様の情報を言っているドワーフはいるのかどうか? 答えは……是。
別の場所にいるレルヴァは、丁度その話を聞いていた。
「願いが叶うとか随分胡乱だ。古代王国ってのはそんなに凄かったのか?」
「さあな。だが遥か太古にあったという国なんだ。そういうのもあるんだろうよ」
別のドワーフたちも、その話をしている。
「それにしても、王はどんな願いをかなえるつもりなんだ?」
「尽きぬ恵みを、とかじゃないか?」
「ああ、それはいいな。流石王だ」
どのドワーフも古代王国、そして願いの叶う宝石の話をしている。
1人や2人ではなく、誰もがだ。となるとこれは、与太話とも言い切れない。
黒鉄山脈のドワーフたちは鉱石を掘りながら、その願いの叶う宝石とやらも探している。
そしてそれはどうやら古代王国とかいう国の代物であって。これも予想になるが……黒鉄山脈を掘っていると見つかるようなものであるらしい。
「そういえば崩落した区画はどうなったんだ?」
「どうにも魔法の気配がしたらしいが。何処かの馬鹿が間違えたんじゃないか?」
「侵入者ってセンはどうだ」
「ハハア、ないない! あの警備を抜けられる奴がいるもんかよ!」
探している情報を見つけた。それがすぐにレルヴァの間にリンクされ伝達されていく。
魔法の気配。知らない崩落。願いの叶う宝石。
これはアサトに繋がる情報ではないか? それはこの場に居ない彼等の主人……キコリにも、確かに届いていた。






