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キコリの異世界譚  作者: 天野ハザマ


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幸せって、こんなにも

 オルフェに追い出されるようにして家を出たキコリだが、フレインの町は今まさに拡張工事の真っ最中でありあちこちで色々な音が聞こえてきていた。

 というのも、元魔王軍の面々がフレインの町に合流を始めた……というのがやはり大きいのだろう。

 彼等も罪悪感こそあれど、やはり魔王の件があとを引いていた。

 何かあれば自分たちでは守り切れない。

 ドラゴンの庇護下に入れるのであれば、そのほうがいい。

 まあ、そんな感じの理由で少しずつ、少しずつ集まってきているのだ。

 フレインの町の位置については魔王の従属下にあったときに知らされているので迷うこともない。

 しかし人が増えるということは当然色々なものが必要になるということであり、防衛力の強化も必要になってくる。

 まあ、そういうわけで既存のバードマンの衛兵隊を強化拡大し「都市防衛隊」として動かすことになったわけだが……その建物を今建築中というわけだ。


「あー……凄いな。もう形が出来てきてる」


 その建物だが現在急ピッチで建築が進んでいる。この辺りは新しくやってきた連中の中で器用な者や力自慢が働いているというのもあり、仕事の進みが予定より進んでいるというのもあるのだろう。

 まあ、工期が遅れるより早まるのは良いことであり、これから更に早まる可能性もあった。

 

(まあ、俺が見たから何か変わるものでもないんだが……)


 むしろ邪魔なような気もするのだが……オルフェが行ってこいと言ったからには何か理由があるのだろうと、建築現場を眺める。


(職場……か。なんだか実感がわかないな)


 薬草1つ取れずに斧ばっかり振り回していた自分は何処に行ったのだろうか?

 そんなことを考えてしまうが、この町で確かな居場所を手に入れた証が目の前の建物でもあるのだろう。


「ああん? キコリじゃねえか。何してんだこんなとこで」

「アイアースこそ、何してるんだ?」

「見物だよ」


 近くの屋根の上から降りてきたアイアースの手には、豆の袋がある。なるほど、確かに見物をしていたのだろうと思わせる姿だった。

 しかしアイアースが見ていても退屈なものに思えるのだが、そういう点では意外でもある。


「なんだその面ァ。俺様が此処にいちゃ意外って顔しやがって」

「あー、いや。まあ……な?」

「ま、そりゃそうだがな。俺様自身、こんなもんの見物なんざ似合ってねぇ自覚はある」


 言いながらアイアースは豆をぼりぼりと食べ始める。


「食うか?」

「あ、ああ。ありがとう」


 豆を少し貰って並んで食べていると、アイアースは「幸せか?」と聞いてくる。

 なんとも抽象的な質問だ。しかし、幸福については今日は聞くのも話すのも2度目だ。

 だから、キコリはアイアースの質問にこう答える。


「分からない」

「ああ?」

「たぶんこれが幸せなんだろうなっていうのは分かるんだ。でも、それだけだ。幸せって、こんなにも実感がないものなのか?」

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