でもやるしかないよ
「頭の中……」
クーンは考えるように黙り込み……やがて「ああ」と頷く。
「まあ、確かに大体の生き物は頭が弱点だものね」
「……なんかズレた理解されてる気もするけど、いいか」
詳しく説明しろと言われてもキコリだって困る。
前世の知識で「そう」だと分かる程度のものなのだ。
詳しいメカニズムなど知るはずもない。
……まあ、そういう意味では前世の知識が役に立っているといえるだろうか。
あまり頼りたくないのが本当のところではあるのだが。
「それより、これどうすりゃいいんだ?」
「え、何が?」
「こいつ、俺の全力の斧弾いたんだぞ。魔石を取り出せるとも思えないんだが」
「ああー……ね、キコリ。もう1回やっても同じ?」
「ええ? ああ、死んだら脆くなるとかいうやつか?」
納得するとキコリはビッグゴブリンの死体に全力で斧を振り下ろし……しかし、やはり傷1つつかない。
「な? 効かないだろ?」
「うん。となると……選べる道は2つだね」
「2つもあるのか」
「1つ目は此処に放置して、ギルドに報告すること」
「ふむふむ」
「2つ目は、これを引きずってくこと。キコリの斧に耐えるなら引きずっても傷1つつかないと思うし」
まあ、確かにその2つしかないだろうとキコリも思う。
簡単なのは冒険者ギルドに報告することだろうが、すぐにデメリットも思い浮かぶ。
「此処に置いたら……持ってかれるかもしれないよな」
「まあね。モンスターか、他の手柄横取りしたい冒険者か……どっちかに持っていかれそうだよね」
「やだな、それ」
「僕もやだ」
「となると……」
キコリとクーンは、ビッグゴブリンの死体を見下ろす。
オーク並みに巨大なビッグゴブリンの死体。
これを担ぐのは無理だ。明らかに重い。
しかし……引きずるにしても、これは。
「いや、運ぶのもかなり無茶じゃないか?」
「でもやるしかないよ」
「まあ、なあ……」
キコリは悩むように周囲を見回し……生えている木々と、自分の手の中の斧を交互に見る。
「なあ、クーン」
「え、何?」
「お前、ソリの構造とか分かる?」
「ソリ? なんでソリ……って、あっ」
斧を手の中で遊ばせるキコリを見て、クーンは「そうか!」と笑う。
「そういやそうだよ。馬鹿正直に運ぶ必要はなかったね!」
「ああ。木を切るのは任せろ。それなりに得意だ」
「ははっ、流石だねキコリ! えーと、確かソリは……」
そうしてクーン設計の簡単な構造のソリを組み立て、キコリとクーンはビッグゴブリンの死体を防衛都市に向けて運び始める。
勿論、それだって簡単なものではなかったが……なんとも充実した時間であった。






