表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キコリの異世界譚  作者: 天野ハザマ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

676/837

最高にドラゴンだな、お前は

 その辺りの真実はともかく、やるべきことは決まっている。このレルヴァをキコリの防具に変える。

 イメージは「生きている鎧」だ。レルヴァの意思をそのままに、防具に変える。

 難しい話ではない。キコリはドラゴンとして何度も自分の鎧を作り出している。

 だから、キコリはレルの中にゆっくりと自分の魔力を流していく。自分の思う通りにレルヴァを操作するために。

 そして……同時に、レルの中からキコリに異質な魔力が流れ込んでくる。


「うっ⁉」

「お、おいキコリ⁉」


 キコリの顔色が一気に悪くなったことに気付いたアイアースがキコリの肩を掴むが、キコリはそれに応える余裕がない。


(なんだ、これ……レルの……違う。まさかこれが、破壊神の魔力……!?)


 気持ちが悪い。素直にキコリはそう思う。魔力のような見えない力に、こんな受け入れがたいものがあるとは思わなかった。魔力を通して身体を蝕まれそうな、そんなおぞましい魔力。けれど……同時になんだか懐かしくも思う。それは、キコリが破壊神であったという過去を裏付けるかのようで。


【壊せ】


 そんな声が、頭の中に響いてくるかのようだった。いや、聞こえている。キコリにしか聞こえない【壊せ】という声が、キコリの中で響いている。


【壊せ】【全て壊せ】【人を呪え】【世界を呪え】【祈りに応え】【何もかもを破壊しろ】【そう望まれた通りに】【遍く人々の願いのままに】


「俺は……そんなことはしない」


 レルの手を離さないままに、キコリは頭の中の声にそう返す。

 確かにキコリも多くのものを破壊してきた。人として、人から少し外れたものとして、ドラゴンとして。破壊神の生まれ変わりなどと言われても納得できる程度には壊してきた。

 しかし、そうだとしても。誰かを不幸にするために斧を握ったわけではない。

 何より、キコリは。顔も知らない誰かとか、仲良くもない人とか。そんなものの為に戦ったことは1度もない。

 正義がどうとか悪がどうとか、そんなものはどうでもいいのだ。

 キコリが戦うのは、キコリが命をかけるのは、たった1つのシンプル過ぎる理由だ。


「俺は、皆のためになんて戦えない。俺は、自分と。自分の大切な人のためだけに戦ってるんだ」


 見知らぬ誰かのためなんて。ましてや世界のためになんて戦えない。キコリはいつだって、自分の大切な誰かのために死にかけてきた。


「だから、黙れよ破壊神の残りカス。何が祈りだ、何が願いだ。そんな善行を俺に押し付けるな」

「……ハッ」


 聞いていたアイアースは、ゆっくりとキコリから離れて見物の態勢に入る。

 何をやっているのかは想像しか出来ないが、なんとなく予想は出来る。

 その上で、アイアースは思う。それは、僅かな驚愕と感心だ。


「破壊神のやってることを善行ときたか。ま、破壊神の視点じゃそうなんだろうがよ」


 普通はそんなものを善行などとは口が裂けても言わない。誰に言っても普通は理解されないだろう。だが、ドラゴンであれば理解できる。それは「破壊神の持つエゴ」とでも呼ぶべきものなのだろう。だからこそ、異なるエゴを持つキコリとは相容れない。


「最高にドラゴンだな、お前は」


 それはアイアースなりの、心からの賛辞であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版『キコリの異世界譚』発売中!
『キコリの異世界譚』1巻書影
コミック『キコリの異世界譚』も連載中です!
『キコリの異世界譚』1巻書影
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ