魔王とかいうクソボケ
ドリーと別れてからも、キコリはフレインの街のあちこちを特に理由もなく歩いていた。
オーク、オーガ、ゴブリンにバードマン、ミノタウロス……様々な種族がそれぞれ自分の特性を活かして仕事をしている。
そして誰もがこの平和を喜び、毎日を楽しく過ごしている。キコリもその一員であるからこそ、それを守りたいと強く思う。
その気持ちを家に帰ってから仲間たちに伝えると……オルフェもドドも難しそうな表情になる。
当然だ、お前たちは役に立たないと言われたのと同じなのだから。
だが同時に魔王の能力を思えば、それが妥当な話であるのも事実なのだ。
だからこそオルフェは不機嫌な、ドドは苦悩した表情を見せる。
「魔王……か。そのような恐ろしい相手だったとは」
「対抗魔法を作るにも、くらってみるわけにもいかないし……面倒ね」
そう、魔法耐性の低いドドは勿論、魔法に関しては右に出る者がいないオルフェでも「従属」に抵抗しきれるとは言えない。万が一オルフェが魔王の指揮下に入ってしまえば、文字通りに最悪だ。それだけは避けなければならない。
つまり……確実に抵抗できる者だけで向かう必要があるのだ。
そしてそれはドラゴンであるキコリとアイアースしか居ない。
そのアイアースは椅子に座ってだらんとしながら、どうでも良さそうな顔をしていた。
「俺様は行かねえぞ?」
「え?」
「な、何故だ?」
「あー……まあ、そうでしょうね」
分かったのはオルフェだけだが、肝心のキコリが分かっていないのを悟るとオルフェとアイアースは顔を見合わせる。
「あー……つまりだな。此処を誰が守るんだって話だよ」
「誰って……あっ」
「分かったか? 此処を狙ってる連中が攻め込んでこない理由は……俺様だよ。この『海嘯のアイアース』が此処に居るから攻めてこねえんだ。魔王とかいうクソボケが全部洗脳しても俺はされねえ。敵に回るってんなら全部押し流すからだ」
それではダメだから、魔王はこの街の中には入ってこない。アイアースを敵に回すことの意味を正しく理解しているかは知らないが、少なくとも脅威だという認識はある。
「お前に接触している以上はあー……ゴブリンアサシンだっけか? そういうのが入り込んでると見ていい。当然俺様の情報も手に入れてるわな。つまりはそういうことだ」
「……なるほど。俺とアイアースが同時に出向けば、魔王は悠々と此処に来れる……ってわけだ」
「そういうことだ。俺様たちが来る前にそうしなかった理由はまあ、準備か何かが整ってなかったんだろうな」






