ちょっと好みだからです
そうしてキコリが手に入れたのはゴブリンの魔石が3個とナイフ、そして剣。
こん棒は持っているし売り物にもならないので放置だ。
「随分稼げたじゃないですか」
「アリアさんのおかげですけどね」
実際、ウォークライを習得できなければ夜になっても稼げていたか分からない。
そして何より、ウォークライがあったとしてもアリアが居なければ先程の戦闘中にキコリは背後から角兎に襲われて致命傷を負っていたかもしれない。
タイミングによっては致命傷どころか死んでいたかもしれないのだ。
それを思うと、キコリはゾッとしてしまう。
「……うん、本当にアリアさんのおかげです。おかげで魔石も手に入れたし、剣やナイフまで手に入れました」
「剣かあ……使うんですか、それ?」
聞かれて、キコリは手の中の剣を見る。
たぶん何処かの新人冒険者を襲って手に入れたのだろう剣は、然程装飾もないシンプルなものだ。
剣の目利きなどキコリに出来るはずもないが……。
(なんか安そうだな……)
と、そんな事を思う。
「売れるなら売ろうと思います。斧のほうが慣れてるので」
「それで正解だと思いますよ。その剣、あんまり良いものではないですし」
「……売ってお金になりますかね」
「その辺の武器屋で売れば500イエンくらいで買ってくれるんじゃないですかね」
それだと自分で使った方がいいのだろうかと、そんな事を考えるキコリを見透かしたかのようにアリアは「使うのはやめたほうがいいですよ」と教えてくれる。
「たいして手入れもしてないでしょうし、武器として命を預けるのはどうかなって思います」
「まあ、そうですね」
「売ってる武器ってのは悪質な粗悪品でもない限りはちゃんと整備されてますからね」
「ああ、露店で売ってる聖剣みたいな」
「アンデッド相手にするんでもなければ、聖剣なんか意味ないですよ」
そういうものか、と納得するキコリにアリアは笑う。
「ほーんと、キコリは素直でいいですねえ。正直冒険者としての才能は無いと思うんですけど、人の言う事を素直に聞けるのも資質ですしね」
「才能ないって……」
「キコリは、受付嬢の誰かから名前教えてもらえました?」
「え? いえ」
「彼女達、才能あるなと思ったら初対面で名前教えてくれますから。それがないってことは……」
「初対面どころか、まだ……」
「近いうち死ぬって思われてるんでしょうねー」
アハハ、と笑うアリアにキコリは気持ちが重くなってくるのを感じるが……ふと気になったようにアリアにその疑問をぶつける。
「なんでアリアさんは、そんな俺に肩入れを?」
「言ったでしょ? ちょっと好みだからです」
「ええっと……ジョーク、ですよね?」
さっきそう言ってましたし、と言うキコリにアリアは含み笑いを漏らす。
「そうですね。さ、帰りましょ? 夜の汚染地域なんかにいたら、キコリさんはあっという間に死体になっちゃいそうですからねー」
モンスター名称、作中単語はいわゆる異世界語が日本語に翻訳されているようなものだとお考え下さい。
角兎、ゴブリンと漢字やカタカナが混在しているのはその為です。