どう生きるの
数日後。
新しい妖精の集落で、キコリはゆっくりと目を覚ました。
「此処、は……」
「ようやく目ェ覚めたのね」
「オルフェ、俺は……あの後どうなったんだ?」
「うっさい。まずは謝れ」
「え? ご、ごめん」
状況が何も分からないままに謝ったキコリは、そのまま起き上がる。
何処かの家の中。
前にキコリが寝かされていたオルフェの家の中に似ている。
空中に浮いていたオルフェは大きく溜息をつくと「此処は妖精の集落よ」と答える。
「それって前に引っ越したとこに作ったやつだよな」
「そう。魔法でアンタを此処まで運んだってわけ」
「ありがとう。それは凄く助かった」
「ん」
頷くオルフェから視線を外し、キコリは自分の身体を触って確かめる。
不調はない。正直、かなりヤバい状況であった気がするのだが……。
「オルフェが治してくれたのか?」
「他の妖精の力も借りたわ。で? 何処か変なところはある?」
「いや、たぶん無い……と思う」
オルフェはキコリの顔をじっと覗いて……やがて「ふん」と鼻を鳴らす。
「ならいいわ」
「ああ、本当に助かった。ありがとう」
「それはさっき聞いたわよ」
「それでもだ」
オルフェは照れたような様子を見せるが……やがて「キコリ」と静かにその名を呼ぶ。
「アンタ。これからどうするの?」
「どうするって……何がだ?」
「全部。アンタ、完全にこっち側に来たでしょ。どう生きるの?」
「どうって……今まで通りだろ」
「……ちょっと鱗出してみなさいよ」
「え? ほら」
ズワッと。キコリの全身を覆った鎧兜を見て、オルフェは大きく溜息をつく。
「人間が鱗出せって言われて出すかバカ! アンタの常識大分こっち側に来てんじゃないの! それでどう今まで通りやんのよ!? バーカバーカ!」
「そ、そこまで言うかあ!?」
「自覚しろ馬鹿ドラゴン! そんなんじゃ他の人間と組んだら一発よ!?」
「あー……。でも、オルフェは俺と一緒に居てくれるだろ?」
オルフェはその言葉にピタリと静止するが……すぐに「あたしは人間じゃないし」と呟く。
「だからだよ」
「へ?」
「人間じゃないオルフェだから、俺の事も分かってくれるだろ?」
「そう、ね?」
「ならそれで充分さ」
笑うキコリにオルフェも笑みを返すが……頭の中に疑問符が浮かぶ。
何か、違和感がある。けれど今まで通りのようにも感じる。
「キコリ」
「ん?」
「とりあえず動けるようになったなら、帰る? あの町に」
「そうだな、色々と報告する必要もあるだろうし……」
立ち上がったキコリはふと、部屋の隅に置いてあるモノに気付く。
それはかなり大きな魔石で、あの日妖精が持って帰って来たものだ。
「あー、それ? グレートワイバーンの魔石よ。いい証拠になるんじゃない?」
「そう、だな」
輝くグレートワイバーンの魔石。
それを見ているキコリの喉が、ゴクリと鳴ったことを……オルフェは、見逃しはしなかった。
そして、それの意味することも。この場でオルフェだけが、正確に理解していた。