言ってみればコミュニケーションですよ
魔石を回収すると、アリアは3つの魔石を手の中で遊ばせる。
「さ、やり方は分かりましたね? やってみましょうか」
「えっ、何を」
「ウォークライ。覚えたでしょう?」
覚えたといえば覚えた。というか、刻み込まれた。
しかし、自分がこれを使いこなせるかといえば話は別だ。
「あの……これって、敵に自分の位置を教えますよね?」
「それが何か」
「頭の良い敵だったら、待ち伏せされるんじゃ」
「されますね。でも、待ち伏せされると分かってたら油断しないでしょう?」
なんという脳筋理論だろうとキコリは慄く。
確かに油断はなくなる。なくなるが……そんな事をしていたら集中力が削れて消えそうだ。
「ウォークライは基本的に短期決戦用です。もっと言えば、自分より実力が上の相手を呼び寄せた時にはサクッと死ぬ技とも言えます」
「えええ……?」
「けど、この辺りに居るのは基本的には弱いモンスターです。強いモンスターを呼び寄せる危険は然程ないと言えますね。それに……」
「それに?」
「本当に強いモンスターは下々の連中の雄叫びなど意にも介しません。つまりウォークライが効果を発揮する相手は、かなり狭い実力帯の相手とも言えるわけです」
「なるほど……」
弱いモンスターはウォークライの発信源を確かめに来て、人間だと分かると襲ってくる。
それなりのモンスターは挑発だと考え襲ってくる。
強いモンスターは気にもしない。
なるほど、考えてみればよく出来た技だとキコリは思う。
確かに、これは覚えておいて損はない。
何より、相手の引き寄せの罠をある程度無効化できるだけでも意味がある。
「分かったならやってみましょうか、はい」
「う、うおおおおお!」
「声が小さい!」
「うおおおおおおおおおおおお!」
「照れがある! ゴブリンの断末魔の方がマシですよ!」
「オオオオオオオオオオ!」
「全然ダメ! もう1度!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」
何度か繰り返して、ゲホゲホと咳き込むキコリにアリアは何とも言い難い顔で水筒を渡してくる。
「才能ないですねえ……なんでしょうね、大声出す事自体に無意識にストッパーかけてるっていいますか。そんな感じがします」
「ゲホッツ、ゲホ……が、頑張ったつもりだったんですが」
「うーん。ぶっちゃけ、殺意が足りてないです。『この辺りにいる奴全員ぶっ殺してやる』ってくらいの気合を籠めないと、酔っぱらいの叫び声より興味引かないですからね?」
「殺意……」
「そうです。ウォークライの神髄は自己暗示にあります。『絶対に殺してやる』っていう気合がないと、相手にだって伝わらないんです。言ってみればコミュニケーションですよ」
なるほど、それは確かにキコリには足りていない能力だろう。
だが……殺してやるという気合だったら、キコリにだって籠められるはずだ。
「……もう1回やります」
「よし、その調子ですよ」
微笑むアリアの声を受けて……キコリは、思いきり息を吸い込んだ。