爆炎のヴォルカニオン
どうもこうも、キコリのやることは変わらない。
変わらないが……思考が落ち着いてくれば、キコリは「ある可能性」に思い至る。
ドラゴンがキコリと会話をしてくれるというのであれば、その可能性についてもどうにか出来るかもしれない。
だからこそ、キコリはドラゴンへと問いかける。
「じゃあ、俺のことはいいとして……」
「ほう、貴様のことだろう? 何より重要だと思うが」
「うっ……いや、正直俺がどうであろうと何も変わらないっていうか」
「それはどうかな」
ドラゴンはキコリを見下ろすように見つめ……自然とキコリもドラゴンの目を見る。
恐れが消えてみると、ドラゴンの目は深い知性を湛えた、そんな目をしているのがよく分かる。
このドラゴンの話を、聞かなければならない。
そう思わせるような「何か」がそこには秘められていた。
「貴様が『どうであるか』は、貴様が思うよりも重要だ。現に貴様が我と曲がりなりにも会話が出来ているのは、貴様が『我等側にズレている存在』であるからに他ならない。違うか?」
「……違わない。でもそれは」
「ならば貴様の後ろで震える妖精はどうだ。それは貴様がただの人間であれば、其処に居たか?」
「……居ない、と思う」
何一つ反論できはしない。
オルフェがキコリと仲良くしているのも、ドラゴンがキコリと話をしているのも。
ドラゴンクラウンをキコリが持っているからに他ならない。
それがなければ、キコリなど消し炭だろう。
「自己の立ち位置を常に正確に把握しろ。それが出来ん奴は、必ず周囲を不幸にする」
「不幸、に……」
「納得できんなら、分かりやすく例をあげてやろう」
ドラゴンは言いながら、キコリの背後に視線を向ける。
「その妖精。それを連れて『人間』のコミュニティに入り込んだ結果、何かが起こらなかったか?」
「起こった。騒ぎになった」
そう、妖精を連れていったことで防衛伯まで出てくる騒ぎになった。
妖精使いなどと呼ばれて、妙な奴が湧いて出た。
「つまりは、そういうことだ。妖精の件については貴様という『人間』が主体であるからその程度で済んだ。だが貴様自身がコミュニティの中で異物となった時はどうかな?」
「そうなるって、言うのか」
「そうは言わん。異物となる理由は何も物理的、あるいは生物的な要因に限らん」
「……」
親身な忠告である事は、充分に理解できる。
理解できるからこそ、キコリはドラゴンにしっかりと頭を下げる。
「ありがとう、心に刻む。それと……俺はキコリ。妖精からはドラゴニアンって名称も貰ってる」
「そうか。我は爆炎のヴォルカニオンだ。それでキコリ。先程は我に何を言おうとした?」
Tips:爆炎のヴォルカニオン
ドラゴンのうちの1体。
名前の通り、炎を得意とするドラゴン。
その身体は火や高温に完全適応しており、またこれ等を操ることも大得意。
ちなみに過去「火には水だ!」とか訳の分からない寝言を言って襲ってきた人間を火口に放り込んで遊んだことがあるらしい。