これだけおかしな場所なら
そう、転移門の「転移先」が常に雪の積もり具合に合わせて変動しているというのであればともかく、そんな親切な機能がついているとも思えない。
ならば、此処の雪は今の高さで固定されているのだ。
「理屈までは分からないが……そういう風になってるんだ」
「確かにその可能性はあるわね」
思えば、情報は充分にあった。
空間の歪み、転移門、迷宮化。
色々な情報が入り混じり、あまりにも非現実的な光景であったが故に。
一番最初に気にすべきことを、キコリは全く気にしていなかった。
「そもそも此処は変なんだ」
「そりゃそうでしょ。こんな無茶苦茶な」
「そうだ、無茶苦茶だ。転移とか歪みとかって言葉に惑わされてるけど。この空間は『通すもの』と『通さないもの』を切り分けしてる。その時点で変だって気付くべきだったんだ」
気温、天気。「転移門」を通ればその全てが切り替わる。それはまだいい。
雪は転移門の「先」へは来ない。それもまだいい。
ならば水は? 地面を流れる川は、転移門で「途切れて」いるのだろうか?
そうだとすれば、その川は川ではない。
そしてそれは「空間の歪み」時代からそうであったはずで、しかしキコリは以前クーンたちと潜った時に見た。
「流れる川」を、確かに見たのだ。つまり……転移門は通すものを調整している。
「……そんなことが、偶然起こるものなのか? むしろ、何かがコレを……」
「コントロールしてるかもしれないわね。それで?」
「ダンジョンはたぶん、意志持つ『何か』が制御してる。それもたぶん、人類にかなり強い殺意を持ってる」
数が居なければ簡単に皆殺しにされそうなコボルト平原。
人間を嫌う妖精の森。
恐らくはそこから隣接した地域に住んでいただろうフレイムワイバーン。
そして、この豪雪地帯。どれも人間が無策で踏み込めば簡単に死にそうな場所だ。
これが殺意でなくてなんだというのか?
「でもさ。それってアンタの現状に何か関係あんの?」
「あるといえばあるし、ないといえばない」
「はあー?」
「おかしな場所だと分かっていれば、何があっても『そういうものだ』と覚悟できる」
要はキコリの持っている常識だとか知識だとかで判断すればすぐに死ぬ。
此処は理解できない場所だという現実を理解しなければならない。
こんな現象を制御できる「何か」を敵に回しているかもしれないと自覚しなければならない。
キコリは「もう埋まった穴」を見ながら、緊張で喉を鳴らす。
「でも、これだけおかしな場所なら……あるって思える」
「ユグドラシルのこと?」
「ああ。いつか死ぬにしても、俺はアリアさんに恩を返してから死にたい」