俺たちも行こう
翌日。
キコリが目覚めると、一部の冒険者は起きて朝食をとっているところだった。
キコリは空中に浮かびながら寝ているオルフェを軽くつついて起こすがオルフェは「むにゃー」と寝ぼけてキコリの指を掴んでしまう。
「おーい、オルフェ」
「うー……」
指を掴まれた手をゆっくり振っていくと、やがてオルフェが目を開ける。
「……何コレ」
「俺の指。ていうかガントレット」
「ばっちいわね」
「酷くないか?」
キコリの指をぺしっとはたくオルフェにキコリは抗議するが、オルフェは気にした様子もない。
「おはよ、キコリ」
「ああ、おはようオルフェ」
「朝食はアレがいいわ。木の実。買ったでしょ」
「ナッツのことか?」
「それよ。寄越しなさい」
差し出したキコリからナッツの袋を奪い取ると、オルフェはかじり始める。
キコリも干し芋を1つ取り出して食べ始めるが、一部の冒険者は朝食の時間も惜しいとばかりに中に入っていく。
その辺りは探索スタイルの差なのだろう。
個人的な感覚で言うと、立派な装備の冒険者程ゆったりしているようにも見える。
そして……そのうちの1人が立ち上がって、キコリたちを包む半円状の光の前で立ち止まる。
少し見て手を突っ込むと、問題ないと判断したのか歩いてくる。
「やあ、おはよう」
「おはようございます。えっと……貴方は?」
「アラン。一応、銀級冒険者だ」
「キコリ。赤鉄級です」
「ああ、知っている。君はちょっと有名だからな」
有名。ゴブリンジェネラルの件かもしれないが、オルフェの件かもしれない。
どのみち、オルフェの張った結界に入ってこれるということは敵意はないのだろう。
まあ、オルフェは完全無視でナッツを食べているが……。
「そっちの妖精の彼女は、なんてお名前なんだい?」
「教えるんじゃないわよ」
「……だそうです」
「そっか」
アランは苦笑すると、その場に腰を下ろす。
「キコリ。此処に居る時点である程度覚悟はできてると思うけど、一応忠告しにきた」
「忠告……ですか?」
「ああ」
アランは頷くと、小さな……しかし、ハッキリとした声で告げる。
「今後は常に注意しろ。この結界も、休む時には常に張った方がいい」
「まさか俺が狙われてると?」
「自覚はあるだろう? 君は新人にしては目立っている」
……どうだろう。常にギリギリの戦いばかりしているイメージがキコリにはある。
ゴブリンジェネラルやオルフェの件は、確かに目立ったかもしれないが……。
「自覚がないなら言うが……その鎧。それは防衛都市に来て1年もたってない人間が着けるような装備じゃない」
「これは、たまたま……」
「入手の経緯は問題じゃないんだ。要は君は『持ってる』人間だと思われてる。そしてそういう人間は往々にしてタチの悪いベテランに食い物にされる」
たとえば、昨日会ったような連中だろうか。
あの程度であれば分かりやすい気もするが……。
「俺個人としては、キコリ。君が何処まで行くか見てみたい」
「えっと、ありがとうございます?」
キコリがそう答えると、アランはククッと笑う。
「じゃ、頑張れよキコリ」
そう言ってアランは転移門を潜っていく。
よく分からないが……親切な人、という分類でいいのだろうか?
まあ、そう信じさせて……というパターンかもしれないが。
「助言してくれたから良い人、ってことでいいのか?」
「凄い人間らしい人間だったと思うわよ」
「……つまり?」
「胡散臭い」
まあ、いきなりキコリに親切にする理由が分からない。
オルフェの評価は正しいかもしれないな、と思いながらキコリはナッツの袋を荷物袋に入れて立ち上がる。
「よし、じゃあ俺たちも行こう」
「そうね。此処はすんごいウザいし」
そんなオルフェに苦笑しながら、キコリたちは転移門を潜っていく。