あたしも行く
コボルト平原へ抜けると、もうワイバーンたちは追ってこなくなった。
だがそれでも安心できずに、キコリたちは「外」へ向けて進み続ける。
オルフェを離すと黙ったまま飛ぶが、何処かに行く事はなかった。
「ギイ!」
「ファイアアロー」
途中襲ってくるコボルトたちは、妖精たちの魔法で一撃で倒れていく。
それを何度か繰り返すと今度は矢を射かけてきたが、アッサリ避けられて魔法で殺された。
そうなると、もう穴から出て来なくなってしまう。
「……ねえ、ドラゴニアン」
「キコリ。それが俺の名前」
「じゃあ、キコリ」
「ああ」
「この先って、どうなってるの?」
「森があるんだよね?」
「ああ、広い森がある。前はゴブリンと角兎がたくさんいたけど……」
ゴブリン軍の襲撃で減ったままだ。
今の迷宮化で今後どうなるかも分からない。
「そっか」
「冒険者の道って言われてる場所があるから、そこから離れた場所に居れば人間もそんなに来ないと思う」
「うん」
「しばらくは静かに暮らしたいよね」
意気消沈した様子の妖精たちに、キコリは何と声をかければいいか分からない。
オルフェも、すっかり黙ってしまっているままだ。
「とりあえず森に行ったら、何処か良い場所を探そう。そこまでは俺も一緒に行くから」
歩いて、歩いて。
夜になってもキコリは歩いた。
妖精たちがいるからコボルトが襲ってこないというのもある。
しかし何よりもフレイムワイバーンの恐怖を抱えたまま、こんな場所に居たくはなかったのだ。
そうして、空間の歪みを潜ると……そこには。
「あっ、そうだった」
「森はー?」
「ごめん、その坑道の先だ……」
「嘘つきー」
「ほんとごめん。行こう」
坑道を抜けると、今度こそ森がある。
それを見て、キコリも妖精たちも「ふう」と息を吐く。
「……と、あまりボーッとしてられないな。誰かにあったら面倒だ。とりあえずあっちに」
冒険者の道を外れて、森の中を進む。
そうして適当な場所まで行くと、妖精たちが「此処でいいかな」と言い出した。
「人間の匂いもしないし。たぶん全く来ないんだね、この辺」
「まあ、此処まで来ると空間の歪みに潜っちゃうんだろうしな」
念のため空間の歪みから距離はとっている。
だが、何事にも絶対はない。あのフレイムワイバーンのように……だ。
「ありがと、キコリ」
「助かったよー」
「今度別のドラゴニアンに会ったら優しくしてあげる」
「キコリにはもっと優しくしてあげる」
「ねー」
妖精たちにワチャワチャと囲まれながらも「人間はやっぱりダメなんだな」とキコリは曖昧な笑みを浮かべる。
そんな中、キコリはひときわ強い視線を感じる。オルフェだ。
「オルフェも、色々とありがとうな」
「あたしも行く」
「え、何処へ?」
「キコリの行くところ」
「……人間の街行くんだが」
「行く」
キコリは助けを求めるように他の妖精たちを見るが……「連れてってあげれば?」と無責任な言葉が返ってくるだけだった。