婚約破棄される前にこっちから婚約破棄します…違う、そうじゃない。「悪役令嬢じゃなく、聖女じゃなくて、私は魔女になります」
「な、なんでオレが君に婚約破棄されるんだ!!?」
第一王子の焦りの声が王宮の王座の間に鳴り響いた。私は第一王子、エドガー・ミハエルのことを嫌いになったわけでもない。私、子爵令嬢のカリーナ・ウェルシュはただ悪役令嬢でもなく、聖女でもなく。
自由きままな魔女になりたくなったのだ。
「私はこのまま、あなたと一生を添い遂げることはしません。 逆に婚約破棄してやります」
「はあ!? 意味がわからないし、なんでオレが君を婚約破棄なんて…」
「なんで、なんでってうるさいですね。 もう隠さなくたってわかってますよ。 国王様とお姉さまはよく思っていても、あなただけはなんでもできる私をよく思ってない。 内政を思い通りにさせられるのが怖いからです」
「そんなことはない!! オレは君のことを一番愛してるからこそ…」
「愛してくれているあなたがなぜ、私より綺麗で病弱なお姉さまを溺愛するのですか? なぜ、私の食事に毒を盛ろうとしてまで必死だったんですか?」
「くっ…」
どうやら出る言葉もないらしい。わたしには生まれ持ったチートスキルがある。未来予言というスキルで今後の未来を読むことができる。
その生まれ育ったスキルによって、昔から周りから不気味がられたし、大人にも子供にも距離を取られてきた。
だが、これのおかげで王子との婚約までたどり着けた経緯がある。
そして、この男が最悪な人物ともわかった理由でもある。
この力のことは誰にも知られてはならない私だけの秘密なのだ。
「何か言ったらどうです。 何か心当たりでも?」
「ああ、オレは君のお姉さんを溺愛している…それに君を婚約破棄するのを拒んだら、最悪毒殺するつもりだった」
「あら、意外と正直なんですね。 嘘はてっきり得意なのかと」
「冗談はよせ。 これ以上はもう…」
「わかってます。 私も力ではかないませんからね。 潔くここを去ります」
私はそれだけ王子に言い残すと、名残惜しそうにしている彼を尻目に無言でこの王宮を立ち去った。
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「さて、これで私は国からも家族からも自由の身ですが…これからどこに向かいましょうか」
私の後ろには大きな城の王宮と城下町の門が見える。朝の8時。子爵家にドレスを脱ぎ捨て、黒のローブを着て出て、金色の髪をきつくポニーテールにして縛った。近くの草原にて私は1人空を見上げるように突っ立っていた。
魔女になりたかった理由はちゃんとある。未来予言ではあの国、王宮は魔物たちによっていずれ潰されてしまう。
それでは、婚約どうこうの話ではない。
これは、子爵令嬢の学校に通っていた時代に感じ取った予言の1つだった。確か、5年前。第一王子との婚約が決まった後のことだった。婚約破棄したのはなにも殺されかけただけじゃなかった。
私を追放できた王子はそれで満足だろうが、きっと今後、魔物たちによってこの国が滅ぼされるとは思いもしないだろう。
私の家族は家族でかわいそうだが、生まれた時から、綺麗な病弱の姉と比べられていい思いはしてこなかった。
姉のためにいいように使われ、姉には容姿のことで見下され、散々だった。
だからこそ、その後の5年間は魔法のことを極め続け、魔女になるための勉強をした。
努力の結果もあってか、気づけばチート級の魔法を使えるようにはなっていた。
魔女としては、もうトップクラスのものだ。1人で旅をしてもどこに行っても、なめられることもないし苦戦をしいられることもないだろう。
「とりあえず、隣町にあるアーデルトに向かうとしましょうか。 そこでギルドに入るのもいいでしょう」
私は南にあるアーデルトという町に向かい、そこで一日過ごすことにした。
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アーデルトは綺麗な港町だ。水産業は栄え、港近くの市場では新鮮な魚類が売られており、活気付いている。
そんな市場で1人うずくまる1人のローブを着た少年を目にした。どこか冴えない青髪をしたイケメンといったところか。
(どうしたのかしら…なんだか人生が終わったぐらい暗い雰囲気をしてるわね。 かわいそうに)
心ではそう思ったが、自分には彼を救ってあげる何かもないので、素通りするしかなかった。
「どうもこうも、追い出されただけですよ。 自分の居たギルドに」
「な、なにあなた? 私の心が読めるの!?」
「ええ、僕は召喚士でもあり、心を読める心眼の持ち主ですからね」
「へ、へえ〜…そうなんだとしか」
「あなた、今、お金がなくてお腹が空いてますね。 わかりますよ」
「なっ!!? そんな恥ずかしいことッッ」
ぐううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううっ〜。
私のお腹が鳴る音が港中に鳴り響いた。なんとも恥ずかしいことか。私は赤面した顔を両腕で隠しながら、うずくまった。
「なんでそんなことまでわかるのよおお〜〜〜」
「すみません。 恥をかかせてしまったお詫びにどこか美味しい食事にでも行きましょう。 僕がお金を払いますよ」
「ううう…」
私は謎のローブ少年のお言葉に甘えて、食事に誘われるのであった。
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「僕の名前は、ジームル・カーストと言います。 今はSSS級ギルドを追い出された無能な召喚士をやってますけどね…」
ジームルと名乗る少年は皮肉交じりに、食事を綺麗にしながら自己紹介をし始めた。
私はそれを聞きながら、美味しいパンと魚のムニエルを頬が落ちるぐらいの微笑みで食べていた。
「美味しい〜〜〜〜〜〜〜〜」
「あの、人の話聞いてます?」
「ああ、ごめんなさい! つい、食事が美味しすぎて」
「カリーナさんは今後、魔女としてどうしていくつもりなんですか? どこかギルドに入るか、辺境の地で暮らすとか?」
「そうね。 どこかギルドに入って気ままに旅するのもいいと思ったけど、気が変わったわ。 こうやって、人に助けられたら、恩返しするのもいいなって」
「それは…つまり???」
「ジームル。 あなたを無能から最強の召喚士にすることにしたわ。 私の予言もそう言ってるし」
「予言?? もしかして、魔女なのに未来を予言もできるんですか!?」
「そうね。 生まれ持ったチートスキルってやつね」
「すごい!! それじゃあ、今さらっといった、僕が最強になるって話も本当ですか?」
「ええ、本当だけど、あまり調子のは守らないことね」
「そうですか…僕が最強の召喚士に…想像もつきませんね」
「変に冷静なのね。 これから追放したギルドパーティーを見返せるのよ。 嬉しくないの?」
「嬉しいとは思いませんよ…これでも長い旅の中で一緒に暮らした仲でしたから…」
「優しいのね…」
2人の馴れ初めを話し合った後、食事もし終わり、夜になったところでどこか宿屋に一晩、泊まることにした。
これからのことは、その次の日から考えることにしたのだ。
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港町のアーデルトには、ギルド集会場が一切なくずっと西にある山々を超えた冒険者が集う城下町。ボルトクスに向かわなきゃならない。ジームルと朝、会議をし続けて、そこに行くことになった。
だが、そこに行くには長く険しい道のりがある。山々と言っても、隠れ住む白竜の住処をおそるおそる通らなきゃならない。まあ、私1人でもその白竜はなんとかできるのだが…
できれば、避けて通りたいルートだったが、実をいうと召喚士であるジームルを覚醒させてあげるためには、この山を登って、白竜を手なずける必要があるのだ。私の未来予言でそう決まっている。
美味しい食事をいただいたお礼として、彼を覚醒させてあげたいところだったのに…
「な、なんでわざわざあんな強い白竜の住処を通っていかなきゃならないんですか!!? 僕は、嫌ですよ!!」
「えええい!! うるさい! 大の男がいちいち弱音を吐いてるんじゃない!! あなた、覚醒して最強の召喚士になりたいんでしょ!?」
「そうですけどおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!? でも、もっと安全で楽な道のりで最強の召喚士になりませんかあああああああああああ!!?」
「こいつッッ…」
この人、いや。こいつは正真正銘のクズ人間だ。多少となりも仲間に捨てられる理由はここにもあるな…と思った瞬間でもあった。
「じゃあ!! 最強の召喚士になれずに仲間に見下されて追い出されたまま、人生終わってもいいの!!?」
「嫌ですうううううううううううううううううううううううううう!! やっぱり、行きますううううううううううううううううううううううううううう!!!」
なんでこう私の今まで出会ってきた男たちは、どこか素直でなぜクズやろうが多いのか。これは私の男を見る目がないのだろうか。これは由々しき事態である。ワーニング、ワーニング。危険。危険。
そして、私はジームルを手なずけることで白竜の住む山。白雪山に向かうこととした。
****
町を出て、草原から山に変わって歩くこと、約1週間。私たちは、山の山頂にたどり着き。空気の薄い場所は私の魔法で酸素を空間に送り出し続けた。
ここには、あの白竜が飛び回っているという噂の場所だ。私は竜族が警告するテリトリーに足を入れ、数秒後。噂をすればなんとやら、まぶたに傷を負った白竜のボスが黒い雲に覆われた上空から現れ、炎を吐きながら、こちらに接近してくる。
「まずいですよ!! こっちに向かってくる!!」
「大丈夫! 私の側から離れないで!!」
私は魔法陣を唱え、バリアを張るとその白竜の激しい炎を円形に広がった魔法陣で見事抑えきった。
だが、それだけでは白竜の怒りは収まらない。
「次の攻撃が来るわ…!! 衝撃に備えて!!」
「!??」
今度はジームルめがけて、突進してくる白竜。あまりの早さに私も目で追うのに遅れをとってしまった。
彼が危ないッッ!!
「ジームル!!」
「うわあッッ!!!」
ジームルが尻餅をついて、恐れおののいている、そんな時だった。
私はジームルを抱きかかえると、空高く飛び上がった。白竜は地面にのめり込むようにして、岩を削り続ける。
目で遅れをとっても、それを挽回できるぐらいの身のこなしの早さは持ち合わせているつもりだ。
「す、すごい!! カリーナさん、こんなでかい竜とたった1人で渡り合えるなんて!」
「そ、そう? そう言われるのもやぶさかではないわ」
私も普段、褒められ慣れてないのでどうも調子がくるってしまう。恥ずかしくなってしまうというか、なんというか。でも、誇れることがある。
「見てなさい!! 私の必殺チートスキル、第二弾!!」
「ガあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
白竜が自身の攻撃で怯んでる間に、空間から大剣を取り出す。察しのいい人ならもうお分かりだろうけども…
これから私のすることはたった1つである。
「いったい何をするつもりですかあああああああああああああああああああああああああああああああ!!? イテッッ!!!」
ごめん、と思いつつも手が塞がって邪魔なので、ジームルを地面に落とす。大丈夫。落ちても、タンコブが頭にできるぐらいの高さで放り出したから。大丈夫。
「太陽神の剣技___________________________________________________________________!!!」
私の持つ大剣から強い太陽光が放たれ、大きく光の剣が白竜を正面から真っ二つに引き裂いていく。
太陽神の剣技。太陽神の名の下に、大剣に太陽光の大魔法を宿しつつ、相手を絶対に一撃で切り裂く私の本当のチートスキルだ。
「…なんでもありすぎますよ。 こんなの…2つもチートスキルを持ってるなんて、強すぎます」
「旅に出るってことでちょっと不安で〝剣聖〟の役職も極めちゃったんだよね…なんかごめんね」
「いや、いやいやいやいやいやいや!! 極められるその才能が僕には怖すぎますよ!!」
昔からなんでもできるとはいえ、私も容姿以外はなんでも極められる職人肌なんだな〜と思ったりもした。
そして、倒した白竜をジームルの手により、生き返らせることでいつでも召喚に応じる召喚獣として白竜のボスを手に入れることができた。彼は白竜の魔力を得ることでスキルを覚醒させ、チートスキル、魔獣の大号令を無事、予言通り獲得した。
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山を下り、次の城下町。ボルトクスについたのはその三日後だった。この冒険の間に起こったこと、噂話で聞いたことといえば、やはり私の住み慣れていたあの国が魔物たちのよって滅ぼされたこと。
三日三晩、魔物たちに蹂躙され尽くされ、私の家族と王宮の王子たちはなんとか国を追い出されることで逃げ延びることができたらしい。
(どうか戻ってきて、私たちを助けてくれないか?) なんていう手紙までよこすほど、事態はひっ迫しているらしいが、(残念ですが、引き戻すにはもう遅すぎましたね。自分たちでなんとかやっていってください) とこちらも手紙で応戦した。
きっと、この手紙が届く頃には、あの人たちもさぞ落胆していることだろう。
一方、ジームルを追放したSSS級ギルドの勇者一行もジームルのもともと備わっていた回復スキルを失い、戦いに苦戦を強いられ、度重なるクエストの失敗。
確実にランクを落としていき、今はEランク級のただの冒険者という扱いだという。
あまりの落差に周りのギルドも彼らを嘲笑い、貶すことで自信を喪失したらしく、事実上の解散が決まったらしい。
世も末というかなんというか。見ていて痛々しいというか。かわいそうとすら思えてくる、そんな結末だった。
それとは正反対にギルドを追放されたジームルは、華々しくS級召喚士としてのスタートを飾った。
たどり着いたボルトクスのギルド集会所では、みんなからの懇願がすさまじいらしく、是非うちに来てくれ、オレらのギルドに入らないか! など、続けざまに詰め寄られることになった。
「さて…と、ジームルへの恩返しも終わったし。これからまたどうしようかしら」
ところで私はというと、ひとり城下町を離れ、再び気ままな魔女の旅を始めようとしていた。
今回に報酬というとなんだが、1人のイケメンが成長していく過程が観れただけでも儲け物だ。
ぐへへ。
って私はこんなキャラじゃなかった。本音がつい出てしまった。
「お〜い! カリーナさあ〜ん!! 僕も連れてってくださ〜い!!」
「へっ?」
なんか、聞き覚えのある声が聞こえる。なんであのジームルが私のところまで、ついてくるんだ!?
「な、何よ?? 何かまだ私に用でもあるの?』
「いえ、用というか。僕もあなたの旅に連れていってください!!」
「は!?」
「やっぱり、僕。 ギルドがあんまり信用できなくなっちゃったみたいで、カリーナさんと一緒がいいみたいです!」
「そ、それって、プ、プロポーズじゃ、じゃありませんか!!?』
「??? 何をいってるかわかりませんが、この近くの町にも、もうカリーナさんの伝説は伝わってるみたいですよ」
「へっ?」
「おい…!! あれって、あの白竜を1人で倒したすごい魔女じゃねえのかい!!」
「ほんとだあ!! 伝説の魔女のお姉ちゃんだ!!」
「ちょっとこれって…!?」
「はい! 僕が魔法で全世界に広めました!!」
なんてことをやってくれた。これじゃあ、気楽に1人で冒険もできないし、何より私を世界がほっとく訳が無い。
いろんな人、いい人悪い人に追われる大変な日々が来ることだろう。
「私は大した人間じゃないのに…!! って人間じゃなくて、魔女か!!」
「待ってください!! 僕も一緒に連れてってください!!」
これから、退屈なつまらない旅が始まると思っていたがこれはこれでしばらく忙しい日が続きそうだ。良い退屈しのぎになりそうです。
最後まで読んで頂いてありがとうございます!
この作品への評価、応援などをいただけたら嬉しいです。
面白かったら、星5つ。つまらなかったら、星1つ。正直でかまいません。
ブックマークもしていただけると次に繋げて頑張れます!!
よろしくお願いいたします。