表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

頭文字G

作者: たまちゃん



「…おっ、これいいじゃんいいじゃん。」


やっぱこの素材集めんのはこのクエストじゃなきゃなぁ。

……いや、待てよ。こっちのも割に合ってるか…?

うーんでも難しそうだしなぁ。



「いやあああああああぁぁ!!!!!!!!!!」



でもこの素材欲しいしなぁ…多少の危険は付き物か。気が乗らないけど、他のパーティに手伝ってもらうか。



「うわわあああああぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」



あ!やべ!このクエスト今日までじゃん!あっぶね。忘れるとこだった。こういうのはきっちりやんないとな。後でやっとこう。


「よっし!準備万端!レッツゴー!」


「レッツゴーじゃねぇよ!!!」



俺の頭に激痛が走った。


「いってええ!!何すんだこら!今からクエスト行こうとしてたのに!」


足元を見ると、鍵の束が落ちている。こんなもん俺の頭に当てやがったのか。


「何がクエストだ!ただのゲームじゃん!可愛い可愛い妹がさっきから叫び声上げてんのに何ゲームやってんの!?」


「何が可愛い妹だ!女かどうかも怪しい叫び声上げてるやつが可愛いわけねえだろ!」



あー…超痛い…。耳が…感覚がない…。


せっかく気分が乗ってたのに、冷めた。



「何?俺今めっちゃ気合い入れてたんだけど。」


「そんなんいいから。それより聞いて。」


そんなん!?こいつ今そんなんって言った!


「おい今のは聞き捨てならねえぞ。詳しく説明しろ事と次第によっちゃ説教するからな。」


そう言いながら俺は立ち上がり、妹にジリジリと距離を詰めていく。


「ああもう絡みがウザったい!とにかく聞け!」


なんだよ。冗談通じねえな。

俺はソファに再度座り、テーブルに置いといたコーラを手に取った。


「で?なんでさっき叫んでたの?ご近所さんに迷惑じゃん。」


「いや…それは…ちょっと仕方ないって言うか…」


なんだ仕方ないって。


「なんかあったん?てかゲームしていい?」


「私の部屋にゴキブリが出た。」


コントローラーを取ろうとする手が止まった。

その瞬間、全ての音が消え去っていくのを肌で感じた。さっきまでは考えられないような静かな時間が、流れていった。



「………え、まじ?」


「まじ」


「ほんとに?」


「ほんと」



………………



「え、潰したよね?」


「いや潰せるわけないじゃん私の部屋だよ」


「ざっけんなよお前!ゴキブリがお前の部屋から出たのならそれはお前の部屋に原因があんだろ!責任取ってお前の部屋でお前が倒せや!」


「いやいやいやマジで勘弁して!私が虫嫌いなの知ってるでしょふざけんな!私この後もあの部屋使いたいのにあの部屋で倒せるわけないじゃん!」


うっわこいつ言い訳しやがった。どうせゴミとか放置しまくってたんだろ。てかゴキブリ潰しただけでその部屋使えなくなるとかなんなんこいつ。

とにかくゴキブリがこいつの部屋から出るのだけは阻止しなければ。こいつの部屋に留めとくにはどうすりゃいいかな。あ、そうだ。ドア閉めて閉じ込めりゃ勝手に餓死すんじゃねえか?お、我ながら名案。

………あれ?そういえば


「お前部屋出てくる時ドア閉めてきた?」


「当たり前じゃん。他のとこに行かれたら逆に困るだけだし。」


ナイスだ会紗!ファインプレーだ!


「よし!ナイス!このままドアロックしてあらゆる隙間塞いで閉じ込めてやる!」


そう言いながら俺が2階に向かうと、会紗が物凄い力で俺を引っ張ってきた。


「ちょっと待ってそれはマジで勘弁して!ほんとに!」


「何でだよ!お前の部屋ひとつでゴキブリ1匹殺れるんなら安いもんだろうが!お前の部屋は犠牲になったんだよ!」


「まだ犠牲になってないから!ねえ、聞いてた!?私まだあの部屋使いたいの!」


「お前のお部屋事情なんか知るか!俺は殺るぞ!俺はこの家を守るんだ!」


妹を引き離して階段を上っていくと、会紗が泣きながら俺にしがみついてきた。


「お願いいい!!!!!それだけはやめてええええ!!!せめて!せめてあの部屋で殺すならいいからぁ!!!あの部屋結構気に入ってるのおおおおお!!!!!」



こっこいつ…!!泣きながらすげえ力で俺を……!!!!


……あーもう…もういいや。



「……はぁ…分かったよ。ちゃんと駆除するから…。」


俺がそう言うと、会紗がものすごい勢いで俺に抱きついてきた。


「ほんとに!?ありがとー!!!後でコーラ買ってくるね!」


「へいへい。じゃあちょっと一階の棚から殺虫剤持ってきて。」


「おっけ!そんぐらい任せて!」



〜5分後〜




「よ、よし……開けるぞ……」


「うん…頑張って…」



殺虫剤を左手に、そして右手をドアノブにかけ、俺は部屋のドアを開けた。



殺虫剤を構えながら部屋に入る。

見回すが、ゴキブリらしき物は今のところ発見できない。


…やりたくはなかっけど…


俺は震えながら、物の隙間や棚の後ろの確認作業に入った。





〜10分後〜




…………見つからない。おかしい。もうだいぶ探してるけど全く見つからない。ゴキブリってこんなに見つからないもんなのか?

一応棚の下なんかは一通り殺虫剤をかけてみたけど、出てくる気配はなかった。

ゴキブリって結構頭良いらしいし、上手いこと避けてるのか…?


悩んでいると、会紗が小さい声で部屋の外から話しかけてきた。


「だ、大丈夫…?見つかった?」


見つけてんならとっくに倒してるよ。てか


「お前もちょっと手伝え。1人じゃ無理。」


俺がそう言うと、会紗が渋った顔で部屋に入ってきた。心底やりたくはないが、俺に率先してゴキブリを探してもらってる以上あまり文句を言えない……という顔だな。この野郎!てめえの部屋をゴキブリから守ろうとしてんだぞ俺は!


…………あ、そうだ。ゴキブリと言えば。



「なあ会紗ー。知ってる?」


「え、なに急に…。」


「ゴキブリってさー。殺虫剤とかに対する耐性付けてる奴がめっちゃ増えてるらしいよ。あと、急に耐性が付いたゴキブリは見た目に変化があるんだって。すごくね?」


この前テレビでそういう番組がやってたんだ。普通に面白かったから2時間見入ってしまった。まあその情報を次の日学校で話したら「ゴキブリ博士」の異名がついてしまったけど。


「………ねえ、なんで?なんで今その話すんの?今私たちゴキブリを探してる真っ最中じゃん。なんで?」


「いやー、今探してるゴキブリがそんなだったら殺虫剤効かねえからその時はやっぱこの部屋封鎖し」



ポトッ





言いかけたところで、真横に何かが落ちてきた音がした。

見ずとも分かった。何が落ちてきたのかは。


会紗の方を見ると、気付いたらしい。目をかっ開いて息を飲んだ。なんて顔してやがる。お前仮にも女子だろ。

でも無理もねえか。なんせ四つん這いになってる俺の手元に、ゴキブリが落ちてきたんだからな。









「ぎやあああああああぁぁああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」



俺は一心不乱に殺虫剤を散布した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「はぁ……はあ……あああー………」


気の抜けた声が、俺の喉から出た。

まあ無理もない。だってちょっと当たってたんだもん。俺の手に。



やつのほうを見るとひっくり返って動かない。どうやら耐性がついてるやつじゃなかったようだ。良かった良かった。


会紗の方を見ると、…………泣いてる…。

え、なんで?なんで泣いてんの?お前なんもやってないじゃんむしろ泣きたいの俺なんだけど


そんな気持ちを押し殺し、会紗に話しかける。



「会紗、もう大丈夫だよ。ゴキブリ倒したから。あー疲れた。」


「ぐすっ……ありがとう……ありがとう…。」


「おう、コーラ忘れんなよ。」


そう言って、俺は部屋を出た。





が、会紗が小さく「あれ?」と言ったのを聞き逃せず、部屋に戻った。

部屋に戻った俺は一応部屋に入らず、廊下から首だけを出して話した。


「……何?死骸ぐらいは自分でやれよ。俺疲れたんだから。」


「ああ、うん。それは別に大丈夫。ただ…」


「ただ?ただ何?まさかお前この期に及んでゴキブリに情が湧いたとか言うなよ?勘弁しろよ一緒に住むのは妹だけで十分なんだけど。」



女子ってのは何でもかんでも感情移入しちゃう傾向にあるらしいからな。こういうのも例外じゃない。



「そんな事言わないよ!!いや……ただ……その…」





「私が最初に見たゴキブリと……違うかも…」






「…?なに…?違うって…お前そんなゴキブリの種類とかに詳しかったっけ?」


「いや…種類っていうか…柄?私が最初に見たゴキブリは…なんか…黄緑色だったっていうか…」


黄緑色?そんなゴキブリ居んの?



「黄緑色だか紫色だか知らないけど、お前の見間違いだろ。そんなゴキブリいねえよ。それこそ耐性持って見た目が変化した…」



ここで俺は、あることに気付いた。


会紗が言う、黄緑色のゴキブリ。

それがほんとに実在して、殺虫剤に耐性を持ったゴキブリなのだとしたら……。さっき棚の下にとりあえずやっておいた殺虫剤散布にも…耐えているとしたら……。



「会紗……お前1回部屋で」





俺が言い終わる前に、会紗のベッドの下から何かが這い出てきた。

会紗もそれに気付いたようだが、余りにも予想外すぎて呆気にとられている。



それはもう説明する必要は無いだろう。

ゴツゴツとし、かつテラテラした黒色の肌。長く細長い触覚。見るだけでゾワゾワする手足。

が、ここまでは普通のゴキブリ。

今俺たちの前に居るやつは、所々に黄緑色の線が入り、お尻の部分はまるまる緑色だ。

そして何より、サイズがおかしい。身体だけでも30センチ以上はある。触覚を入れたらもっとだ。


余りにも規格外がすぎる。




効かないと分かっていても、殺虫剤をかけようと左手が動く。



(だ……大丈夫だ……ちょっと…ちょっと殺虫剤かけるだけ…かける…だけ…。)



そう心では思っていても、体が動かない。


いつまでこうしてりゃいいんだとその時、


声が聞こえた。


それは、俺でも、会紗でもない。


ゴキブリの方からの声だった。






《……シテ……ロ…テ……コロシテ……》








「「うわあああああああああ喋ったああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」」





俺は会紗が部屋を出たのを確認し、思っきりドアを閉めた。






後日、会紗の部屋は完全に封鎖された。

面白いかはさておき、ギャグって楽しいですね

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ