基地
そして、やはり、ドーム外の世界が平穏無事で何事も無い筈は無かった。とうとうオオコウモリが、管理塔付近に大挙現れたのである。そして、やはりこのチームの面々は一癖も二癖もあるような連中であった。
シンと同じく野外活動を行っていた者が他にも居たのだ。それは、リンであった。化学班の一人と共に、オオコウモリ以外の生物を捕獲しに行ったのだ。
「がっ!」
突如襲われたオオコウモリの一撃に、リンはかろうじて避けたが、肩に傷を負った。もう一人、やっと捕獲した鹿を、オオコウモリが、よもや空中に持ち上げられる筈も無いと誰もが思っていた。しかし、2頭のオオコウモリは互いの翼を見事に叩き合う事無く連携して、その鹿を軽々と奪い、飛んで行ったのだ。そして、他のオオコウモリがリンに攻撃を仕掛けて来た。身体能力のあるリンは、かろうじて大木の傍に駆け寄り直撃を避け、どうにか肩の傷で済んだが、化学班の海谷山名は、オオコウモリに囲まれた。
「カイタニ!」
リンが叫ぶが、どうしようも無かった。絶体絶命の状況の中で、何と山井と行動をしていたシンが、大葉と言う植物の葉を持ち、傘のようにカイタニの身を隠すと、彼を連れて走り去った。勿論リンに、その様子が分かる筈も無い。
「何とした事だ!」
これには、シリマツも大声で怒鳴った。彼が初めて見せる怒りの表情だった。
流石に単独行動=実際は2人『だが、監視塔から実動班以外の者が出る事は厳禁』そのリンが怪我をした事と、何者かと一緒に行動したと言うのが判明している。リンは治療を受けているが、シリマツの前で、ひたすら頭を下げるしか無かった。ただ、実際誰が彼と行動したのかは、彼は言わなかった。
「一体、班の規約を破って、いずれの班の者と行動したのだ!」
「いえ!単独探索です」
「リン君・・オオコウモリは、余程の事が無い限り、今の所は我々に危害を加えていない。そのオオコウモリに君が襲われ、怪我をした事実を持って、確かに君達には、ある程度自己判断での行動許可は与えられている。しかし、今は監視活動が主体と言う本分をよもや忘れてはいないだろうね?」