新章3 いよいよ
組織は人材が育って来つつあった。そして、大きく変化したのは、和良方式を踏襲するのは嫌だとかなり抵抗があったコウタ研究所長が、とうとうT国猿人を利用し、人増員プロジェクトを容認した事だった。豚と言う案も根強くあった、しかし、3か月の妊娠期間は余りに短い。そしてその後における人工保育器にしても人が足りない、管理が出来ないと言う理由だからだ、やはり10か月内外の受胎期間に適するのは、T猿人しか居なかった。象など論外である。それは和良司令官の特殊中の特殊作業と方法論であり、4年も待って5人程度の増員は、実質上の増員にはならないと言う事だ。もう一つ理由がある。そのT猿人によって出産したほぼ2人の1人には、人間本来持ち得る生殖行為が可能になるかも知れないと言う事だ。そうなると、大きく人間の歴史は、今後逆方向に大きくシフトして行くからだ。ただし、T猿人は200~300個体数しか居ない事もあって、大幅な人増員プロジェクトにはならない事も承知だ。既に10体のT猿人は捕獲され、今20体の受胎が進んでいる。殆ど人に近く、知能も相当に高い。言語も数種類を解し、人間が危害を加える事が無い事を理解すると、彼らは創設されたドーム状の建物内で、のんびりと敵も居ない環境を理解すると、樹上からも降りた。果樹はふんだんにあり、高適水と言う飲料も与えられ、順調にその子孫達は育って行く。後は出産し、乳を与える時期にどうするかとのタイミングを検討中だ。恐らくその辺も優秀なスタッフが育っているので、良い提案が出来るだろうと、シンをダンが話し合っている。
以前、少し色々あったものの、雨降って地固まるの言葉通りで、シンは片腕としてダンを信頼しているし、ダンもそうだった。この2人のタッグは非常に強力だ。勿論、他の第14班のメンバーも同様ではあるが。
ケンが、シンの元に現れた。3匹の子犬を抱えていた。どうやら『柳』の子らしい。その『柳』は、何度か野犬のボス犬と出くわし、結局の所『柳』に勝る野犬などなかなか現れず、どうやら、屈服させた野犬の『竜』と言うケンが名付けた雄犬との子らしい。
「はは・・『柳』に対抗出来る野犬は殆ど居なかった。そこで、自分が気にいった雄犬との子を孕み、3匹しか生まれなかったが、『戒・愁』の初孫だ。犬も孫が可愛いのか、良く面倒見ているぜ、ははは」
「そうか、そうか・・『戒・愁』もおじいちゃん、おばあちゃんになっちまったんだな。でも、この位の子犬の時が一番可愛くて良いよ、もう『銀』とじゃれていても、俺も力で押さえつけられる事もあるもんなあ、ははは」
シンが笑う。穏やかな顔だ。この所順調に色んな事が推移している事もあるし、ラン・リンのコンビは深海にかなり探索に出かけている。やはり深海には深海魚が発見されていた。地球上の生命は極端に数を減らしたものの、やはり生き延びていたのである。
ようやくT国への進出も決まっていて、森林抑制か拡大かで議論が進んでいる。そして今の所日本人・・組織以外の生存者は今の所見つかっていない。だが、確実にあるだろう。北海道=旧R国統治下にあった日本の元領土は、何も無い不毛の地であった。ここで一体どれだけの生産活動が出来たと言うのか、マコト隊長がそこに居座り、5人の部下を引き連れ探索しているが、間もなくその熱水の噴爆を利用した発電設備が出来るそうだ。これにより本格的な移住計画も始まるだろう。ここにはどうにか山切りの木は適応できるようだ。但し、大木にはなれないだろうと言う事だ。気温が平均18度と九州に比べて低いからだ。大葉は、逆にこちらこそ適合かと思える勢いで増えている。塔は宣言通り破壊した。まさに無用の長物・悪しき時代の象徴のようなものだったからである。




