新章2 見えない敵
「誰が行くと言った?ケンを呼ぶと言っただけだぞ?エイジ」
「あ・・済みません!早とちりでしたか!」
「ああ、君の役目はそうだから、それは謝らなくても良い。こっちは、エイジ、モニターで追跡しようと思う。ケンにはすぐ発って貰う」
「はい!」
こうして、ケンはあっと言う間に準備を整え出発した。
シンは、この本部室に最近一緒にいるエイジにはかなり信服をおいていた。必要な事を考えて言う。そして奥ゆかしく、ぺらぺらと知り得る情報を言わない事だ。その点で言えば何事もオープンな第14班だから、勇み足気味でつい自分の考えを先行してしまう部分が大きいが、エイジとは全員が良好な関係がもう出来ていた。確かに優秀な秘書役として立ち振る舞える人物である。今風に言えば、短髪黒髪で、目元が涼しくすらっとした体で、今頃になってこんな情報を付け加えるが、この時代に近視などは唯一人も居ない。眼鏡を掛けなければならないような事が無いのだ。だが、その顔に眼鏡をかけると、とても理知的な、やはり秘書・執事役がぴったりな男であろうし、先に述べているようにこの時代は硬いものを噛む習慣も無いから、どの顔も細面であり、超美形と称されるショウ程では無いが、どの顔も美男美女なのである。美醜の事を言う訳では無いが、遺伝子工学が進んだ時代から、もっと旧時代の人間と言う姿は、殆どある数種類の姿にほぼ統一されていた。
何故そんな話をするのかと言えば、これから起こる凡そ3年の中で、シン達が遭遇する簡単に解決出来ない難題が直面する事にそれが繋がって行く。
また、同時に和良司令官が仕組んだ象の腹から生まれた猿人5名と言おう。既に1歳を迎えるが、早くも言葉を話し、相当の事を理解している。丁度コウタ研究所長が担当しているキョウ班長との会話の中にそれが見えて来た。
「ほう・・T国の超天才5名の博士の転生遺伝子と聞いたが、手の込んだ事をする。今やっと我々が豚の母体に授精卵を組み込み、人増員プロジェクトのスタートが切れたタイミングで、この事には非常に参考になると言うか、興味が湧くね」
コウタ研究所長が言うと、キョウ班長も、
「そうだね。色んなプロジェクトがスタートし、日本中をどうにか網羅出来そうなタイミングに合わせて、この猿人はT新人類とでも呼ぼうか・・もう既に通常の人間の成長速度を超え、知能も1歳未満でありながら小学生レベルはあると思う。確かに人間とは容姿も大きく違うが、とても四肢は機能的であり、視力も良さそうだ。そう言う点ではT国の猿人にも感じたが、全ての点で人間の機能を上回るかも知れないね」
「キョウがそこまで評価するのなら、比較は困難だとしても、T国内の猿人がやがて木を降り、人間のような生活手段を選択すると言う事かい?」
「有り得るだろうな、既に幾つかの言語を自在に使用し、森林外に出る事は無いが、野生の猿や類人猿とは全く違う。今は、食に充足し必要以上にそのエリアを広げるつもりは無いようだ。だが、ここで限られた森林が、徐々に増えつつある生息数が満杯状態になると移動を考えるようになる。その脅威であった白頭のオオコウモリが急速に減りつつある事からも、木から降りる機会も増えて来た。2足歩行の出来る身体能力を持ち、機敏でもあるからね。『戒』達・・あ、コウタも、子犬を貰い大事にしているんだっけ」
途端にコウタ研究室長も、恵比須顔に・・




