新章 新世界
「そうだよ、その昔は知らないが、こんなに空も海も青々としていて、色とりどりの砂浜はあるけど、自然と言うものは本当に良いものだ。ドーム内で暮らしているよりもずっと開放感がある・・で、話のついでにさ、象の件はどうなった?」
「ああ・・やっぱり象の腹の中に仕込んでいたようだ。和良司令官がさ・・雌は一頭だけしか居なかったんだが、その雌さ。象の妊娠期間が4年もあると言うからな。ゆっくりその時を掛けて育っていたらしいや」
「それは・・何なんだ?勿論象じゃねえよな」
「ぷ・・それだったらまんまじゃん。ここにも仕込んでいたのさ、延命策をさ・・象がミネラルを吸収し、大葉を喰う事も知っているが、何しろ巨体だ。それだけ喰う量も多いし、その分、和良クラゲ程じゃねえけどさ、栄養分の蓄積量が半端じゃねえんだ。大葉の糞が肥料になる事は、リンが提案してくれたし、まあ、多少の肥料は作られたが、たった5頭しか居ないから、そんなものをいちいち集めては来られないわな」
「ふ・・そんな面倒な事は確かにしねえわ」
シンが笑った。
「でも、その糞から成長因子やホルモンが出ている事は余り知られていないし、発表もしていない」
「分析結果?まあ・・いちいちそんなものは部外者はなかなか入手もなあ・・」
「ところがさ・・この象も遺伝子操作されている種だろう?間違いなく」
「ああ・・全動物がそうだ。産業資料館内にある日本の固有種以外はな」
「非常に長命だそうだ。この前キョウ班長の所で聞いて来た。推定500年は生きるらしいや。それに元々象って言うのは、知能が相当高いそうだしな」
「知能か・・うん、眼を見ていれば賢いと言うのは分かる。きちんと俺達が敵か敵では無いかを認識し、それぞれの顔を覚えているようだった」
「リンが一番その事は知っていて、接近も良くしていた。あいつは肥料の研究は第一人者だもんな」
「ああ・・あいつの特殊能力ばっかり言われているけど、元々そっちの学者だからさ、ふふふ」
「第14班全員が相当高い見識はあるさ、で、その上でさ、とうとう臨月に入ったらしいと言う事で俺は『戒・愁』と一緒に野営をしながら、観察していたんだよ。象なんて、もう皆はとっくに興味も失せて、人畜無害だし、何で居るの?って感じだったじゃないか」
「まあ・・そうなるのかな」
「俺は見ていた。象がじっとして動かなくなり、腹の大きさからしても普通なら・・いや普通じゃなくても子象が腹から出て来るわな?」
「何なんだよ、勿体付けてさ、ケン」
「何と・・何と・・腹から出て来たのは、あの猿人さ」
「え!ええっつ!何でその事を真っ先に俺に報告しない!」
シンが驚くと、同時に今までの顔から突然ケンに厳しい顔をする。




