新章 新世界
「間一髪でしたか・・それが第六感と言う未知の未解明分野だったのなら、人間はとっくの昔にそれを放棄していた。磨いて来なかったと言う事になりますね」
「その通りだ。だからこそ遺伝子工学において、どれだけ優秀なAIであろうとも、その分野のデータは無い。また相性とは何か?の徹底した解明も成されていないから、多くのバグと言って良いかどうか個体差が出て来る。同じ遺伝子を持った者でも才能の違いが出て来ると言う事だ。そこで、もう一度言う・・完璧なものはこの世に無いと言う事だ」
「しかし、驚きましたよ、まさかクラゲが、ガラスのケースの中に泳いでいたんですから」
「君達には否定されていたよね、ベニクラゲの遺伝子の事を。だが、その分化と言う部分を切り取れば、即ちクローンとは違う、また培養体とも違う。永遠に体内の中で細胞の分化が起こり、それが完全体として完成する筈だったのだよ」
「どこかでやはり間違ったと言う事ですか?」
「いや、間違っては居なかったと思う。彼はそこまで完璧に行った。何度も試験体を作り、対馬ではその廃棄生物が、奇しくも繁殖してしまったがね」
「オオコウモリには行うつもりは無かったのでしょうか?」
「それは無かったようだ。何故なら、生体武器はその目的の為に開発された。そこに永遠の命を授けるより、多産型でオートファジーによる長寿の方が魅力だった。一旦はそっちの方向にも目を向けていたからね」
「自分が自分を喰う・・おぞましいですね、そこまで行くと」
「ああ・・確かにそうだ。だが、そうする為には自繁殖の形が必要だった。だから諦めた。それよりIPS細胞を使った培養体の方が手っとり早いからね。頭部から下を取り換えれば済む」
「でも、やはり脳の細胞がどんどん死滅する事にもなる?」
「人間の脳細胞と言うのは、使い切れる程使われない。故に100年、200年使おうが、それは大丈夫だ。それより、老化しないようにするとか、血液の循環を良くするとか、活性細胞によって活動年代を長く保てるようにするとか、色んな方法がある訳だよ。だが、それでは彼は満足出来なかった、分かるね?彼は自分の思う事を永遠に続けたかったからだ」
「じゃあ、何故ベニクラゲに?」
「分化と言うほんの僅かに生じる際に起きる、1000分の1・・万分の1の突発的遺伝子の発現だ。それは、地球上のどんな生物にも起こり得る。それこそが進化論と言われるものだ。環境依存の事も言ったが、その形態変化は何億年も生きているベニクラゲだとしても、全て同じかね?その個体差が生じるように、異質なものは生じる。ただし、それが次代に継承出来る遺伝子かどうかは別だ。彼程の人物だ、勿論それを承知はしていたと思う」
「承知していた?しかし、自分が見たような姿を眼前で見て、絶望した?」




