第四章その四 地下通信路
「応急処置的な噴霧と言う形でここまで修復して来たが、非常にこれは現在では人為的に行うしかない。AI管理時代では、そう言う点検車が常時この通信路をチェックし、点検・修復を行っていたので、数ミリの誤差も無かっただろうが、これは仕方が無いよ。でもケンが大葉の繊維網使用と言う画期的な提案をしてくれたお陰で、その網に吹き付ける形で短時間で凝固し、壁は修復出来たんだ。所々の水漏れは、以前なら絶対起きなかっただろうな、その僅かな亀裂が生じているので、通路に支障はないものの、いずれはその修復も行う必要がある。今は、勿論メイン通路を中心に、とにかくダンこの通信路を大発見と評価しているのなら、やり甲斐のある作業だよ」
レンジが嬉しそうに言う。シン達は、台車がとにかく戻るまでと再び通信路の中を7匹が走って行くのを見届けながら、ドーム状の場所の一つに集まろうと移動した。その中の方が話もしやすいし、今後の拠点となり、食料も保管出来るからだ。
「これは良い・・」
ウテン・サテンもその構造物を見やった。しかし、何故かレンジは驚く様子が無かった。シンは即座に問う。その事はここまでの経緯の中で、レンジが地下通信路のもっと詳細を知っているのか、いなかったのかの分岐点になるチェックだったのである。
「新たなドーム発見さ。そして今最も安全係数の高い場所だ。さて・・もう一つだけ教えてくれ、レンジ。この通信路は扉に覆われ、密閉された空間であった筈。だが、酸素も供給され、とても新鮮だ。何か浄化機能もあるのか?いや・・通信路内に入ったのも初めてだというお前だけど、構造的には掘削坑道と同じ原理なんだろう?」
「ああ・・掘削坑道には、常に圧が掛かっている。空気を圧縮する事によって、例えば風船を膨らませた状態と同じ。その圧を利用し、外からの圧を防いでいる。大昔の鉱山などでは単に穴を掘り、木や簡素な補強で落盤を防いでいたようだが、それは危険極まり無い原始的方法だ。掘削坑道では掘って廃棄する残土・岩石等をどう処理するのかを含めて、常に有用な鉱物・ミネラルだけを抽出して行くから、その空間が当然出来るので、それこそ、地盤の最下層の基盤に使う。それも超圧縮によって硬く強くなるから、この坑道が地面から崩れる事は殆ど無い。だから同じ工法だと言う事になるのと、圧とは高密度の空気をそこに閉じ込めていると言う事になる。これは掘削機械にも応用しているんだ。動力はむしろそっちだ。空気は勿論入り口と出口が無ければ、圧ばかり掛けていては風船もパンクするから、丁度それが均衡状態になる計算で作られているんだよな。又、外の空気を入れる、たまった排気を出す場所はどこかにあるのだろう、そこまでしか分からない。だた、もう一つ知っている事を言えば、例えば直下数千メートルの深さまで掘る事があるし、そう言う掘削坑道は何本もある。その際、俺達には常に空気の重力が掛かっていると言う事は知っているだろう?」
「ああ・・1Gと言う気圧だったな」
「例えば、地下深度まで掘削して行くと、その気圧は及ばなくなる。深海だと水圧が掛かるが、重力は、浅い、深い関係なく同じだ。だからこそ、地上と同じ1Gの気圧を壁とその硬く締められている隙間に常にかけているんだよ。そこで、壁を押さえていると言ったら良いのかな、そう言う仕組みだ」
「成程・・相当詳しいな、レンジも。それは自動管理をしなくても、殆ど循環が完成すれば大丈夫だと言う事か、そして、もう115年以上も排気を出す通行も無い。二酸化炭素を吐き出す動物も人も居ない訳だから、そのまま保っていたという事だな」




