第四章その四 地下通信路
「どうする?引き返すか?対馬までは後100キロを切っている距離までは来たが・・」
「可能ならば、呼ぼう・・修復班をさ。壱峻島通信路も必要だけど、こっちが今は優先したい」
「OK!ショウには伝達した。またもの凄いスピードで来るぞ、あいつは」
「はは・・今度は留守番をしておれと言ってある。リンも一緒だ。大事な検証がコウタ班長はやっているだろうし」
「・・と言う事はケンが来るのか?もしかしたら・・」
「有り得るな・・ケンは壱峻島の修復も一緒かも知れない。壁修復には特殊液でペイントするらしい。その修復に、あいつの開発した大葉繊維の網を使う事を提案したらしい。かなり有効だと言う話だ。そう言う工法が、昔FRPと言う素材で船や、建築材料などで使用した事もあって、同じ考えだと言う事だ。ウテン・サテンが採用したらしい」
「成程‥ケンが来るか・・じゃあ、先に呼べ・・こっちに回って来いとな、あ・・犬が先なら犬の方が早いかも」
「『戒』か?」
「おう・・多分な。ナビなんぞ要らねえからな、そこは」
「ははは・・そりゃあそうだ」
シン達は笑った。ここは待つ・・選択した以上、ここで座り込むのであった。
そして、その言葉通り、本当に『戒』では無かったが、『愁』がワワンと吠えながらやって来た。
ぺろぺろとシン達を舐める『愁』が、ここで表舞台に登場するが、5匹の母犬であり、ケンの相棒『戒』と同様に、尤も忠実な相棒でもある。その『愁』が単独でここへやって来た事は、ケンに何か考えがあるのだろうか。
シンは、
「そうか、そうか『愁』お前が今回はケンと一緒なんだな。頼むぞ」
数奇な運命であるかのように孤高を貫いていた『戒』だが、ケンがその精神を見抜いたように、『愁』は大きな野犬の群れの雌犬でありながらボスであった。何故この2頭が出会い、そして伴侶になったのかも殆ど知られていない。まして、人間に飼育された事の無い野犬が、ここまで従順に信頼の情を寄せる等は殆ど有り得ない事でもあった。だが、今ケンと深く信頼関係を築き、『戒』との子5匹の母犬として一緒に行動しているのだ。普通は、ケンとつかず離れず傍に居てもおかしく無い筈だが、このように単独でシン達の所にやって来た。シン達も認めているが、やはりこの犬も、突発的遺伝子を持つ、非常に知能の優れた個体である。また、潜在能力で言えば、その運動能力は『戒』を凌いでいると思われる。
3時間程遅れて、ケンがやって来た。その後に修復班が続くと言う事だ。まず、修理箇所の中で、数か所は緊急補修が必要だとの判断もあっての事であった。




